第16話ジェラート視点

その日用事で屋敷を空けていたジェラートは帰ってくるとすぐに妻のフローラと娘のマリーの部屋を目指した。


中からは何やら楽しそうな笑い声が聞こえている…


ジェラートは笑っているフローラとマリーを想像してつい顔が綻ぶと急いで扉を開けさせた。


するとそこには驚きの光景があった…


長兄のテオドールがマリーを抱いてフローラ達と楽しそうに談笑していたのだ。


テオドールのあの様に楽しそうな顔など初めて見た。


いつもくっと唇を引き締め力強い眼差しをするだけだったのに…


ジェラートは驚きで部屋の前で立ち止まっていると、気がついたフローラが嬉しそうに駆け寄ってくる。


その愛らしい行動に無意識に手を伸ばしてフローラを受け止めると…


私に気がついたテオドールがしまったと固まり急いでマリーをリアズに返している。


その顔は強ばりいつものテオドールの顔に戻っていた…


フローラは私の着ていたコートを脱がせるとメイドに渡す、そして嬉しそうに


「ジェラート様、ありがとうございました。テオドール様に会わせて頂いて…私のわがままなお願いを聞いて下さり感謝しております」


フローラが微笑みながらお礼を言うと、テオドールは驚いて私とフローラを見た…きっとなんの事だと考えているのだろう。


いつも冷静で年相応にみえないテオドールが狼狽える姿は我が子ながら可愛らしかった。


そんなテオドールにフローラは続ける…


「テオドール様のお母様が体調を崩してしまったとお聞きして…テオドール様には是非ともマリーと仲良くなって欲しくてお会いしたいとお願いしておりました。部屋には来てくださっていたのになかなかタイミングが合わずに申し訳ありませんでした」


フローラがテオドールに腰を折って謝ると


「えっ…」


テオドールが初耳だと目を見開く。


「言っただろ?親だと思って欲しいと…」


そう伝えると


「あんなのでわかるかよ…」


テオドールが何かボソッと呟く。


「どうした?」


私がテオドールに近づくと…


「いえ…なんでもありません。すみませんがこれで失礼致します…勉強がありますので…」


テオドールが部屋を出ていこうとすると…


「あーー!!」


マリーが突然泣き出した、あまり泣く事のないマリーにリアズが慌てている。


いつもなら少し抱けば機嫌がよくなるのに…フローラがマリーを受け取るが状況は変わらない。


泣き続けるマリーに皆が困惑する、テオドールも帰るタイミングを逃してマリーを心配そうに見つめていた。


「よしよし…どうしたのかしら…」


フローラが困った顔でマリーを抱きながら椅子に座って揺れている。


私も様子を伺うように近づくと、テオドールも心配そうにさらに近づきマリーを覗き込んだ。


するとその瞬間マリーの泣き声がピタリと止まり、テオドールと私の方に手を伸ばして嬉しそうに笑っている。


「あっ!きっと旦那様とテオドール坊っちゃまのお顔が見たかったんですね!」


リアズがそんな事を言うと、テオドールがまさかと離れる…するとやはりマリーが泣き出した!


「あらあら、どうもテオドール様がいいみたい出ますね。テオドール様よかったらまた抱いてあげてくれませんか?」


フローラが頼むと、テオドールはどうするのが正しいのか困った様にこちらを伺っている。


私はテオドールの頭をぽんと触ると


「お前の妹だ、抱っこしてあげてくれるか?」


そう言って微笑むと、テオドールは驚きながらもコクっと頷いた。


先程と同じ様に座らせて膝にマリーを置くと、ほっとしたのかリラックスしてマリーはテオドールに身を預けている。


「可愛い…」


フローラから思わず漏れた言葉に私も激しく同意した。


「ああ、可愛い子供達が仲良くしてる姿がこんなにも嬉しいとは…フローラ…ありがとう」


私はフローラを抱き寄せるとその絹のような髪にキスを落とす。


そしてマリーを優しく支えるテオドールの肩に手を置くと


「テオドールもありがとう。お前達は私の宝だよ、お前は優秀すぎるあまりに私も周りも期待し過ぎる所があった…でもまだお前はこんなにも小さかったんだな。これからはもう少し力を抜いていいからな」


テオドールの子供らしい表情を見て私は反省した…きっとまだ甘えてもいい歳なのだろう…フローラはそれを私に教えたかったのだ。


テオドールはハッした顔をして私を見ると肩の力を抜いて嬉しそうに笑ってくれた。


初めて見る息子の本当の笑顔に深く反省しながらもその表情が見れた事に嬉しさが優ってしまった。

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