第24話:託された願い
ゲートに飛び込んだ後、海翔は眩しい光に包まれ思わず目を瞑った。
その後歩いたのか、走ったのか。全く記憶が無い。
「おい、海翔、海翔!」
クロウの声が脳内で激しく騒ぐ。
微睡みの中にあった意識は一瞬で現実に引き戻させる。
「うわっ! 耳元で叫ばないでよ!」
「お前がボーっとしてるからだろ」
相も変わらずの不機嫌そうな表情、いつも通りのクロウだ。
だが、おかしな点がいくつもある。
「あれ、何で傷が治ってるの?」
クロウはさっきの戦いでかなりの重傷を負ったはずだ。
だが、今のクロウはいつもの美しい姿に戻っていた。
隣に立っている傷だらけの海翔が浮くぐらいの差だった。
「言ったろ。俺たちは魔力で成り立ってるってな。だからここみたいな濃厚な魔力で満ちている空間では傷も一瞬で治る」
確かに言われてみればここは濃厚な魔力で満ちている。
ある程度魔力への耐性がある海翔ですら、少し気分が悪くなっていた。
似ている感覚としては酒に酔っ払った感じと言えば分かるだろうか。
あくまで想像だが。
「ま、いっか。それで、その神様ってのは何処にいるの?」
「ああ、あいつだ、あいつ」
クロウが指さした方向には、煌びやかな装飾が施されたしかし下品ではなく、むしろ上品さすら感じられる白い椅子に座っている男性がいた。
その男性は腰ほどまで伸びているブロンドの美しい髪と、クロウすらも超える美形の顔、そして絹とも綿ともとれる見たことのない生地の白い服を着ていた。
首には王冠型のネックレスをつけている。
「待っていたぞ、我が息子よ」
男は優雅に足を組み右手を顎に当て、とにかく優雅な雰囲気をかもしだしている。
彼を見たら、誰でも神と呼ぶであろう、そんな偉大な雰囲気。
「御託はいい。さっさと神の証をよこせ、アイン」
クロウはスタスタと神の方へ歩いていく。
「やれやれ、クロウ。久しぶりの再会なのだ、感動は無いのか」
アインは肩をすくめて言った。
クロウはアインの前に立ち止まり言った。
「いいから、さっさと寄こせ。この老いぼれやろうが」
クロウが早くと急かすように手を差し出すと、アインはくっくっくと笑いだした。
遠くからでもわかる、面白くてたまらないといった様子だ。
「クロウ、ご苦労だった。全てのカードを集めてくれて。親孝行、感心である」
「は? 何言ってんだ。俺は神になるため……なに!?」
アインが手を上げると、クロウがまるで十字架に磔にもされた様に体が固まる。
「おい、何しやがる! 離しやがれ!」
クロウは脱出しようとするが不格好にもがくだけで脱出できない。
「一体どういう事ですか!? 神様!」
海翔もまたアインに近づき問う。
「貴様がクロウの契約者か。いいだろう、貴様如きに開く口は無いがクロウをサポートした礼だ。話してやろう」
こうして神――アインは計画の全てを話だした。
私は約千年前神を継承した。
その後千年間私はこの世界の管理者であり続けた。
そして百年前私は死期を悟った。
私の次の神を選定しなければならぬ。
私は自分の身体から一部を取り除き、取り除いたものをさらに七つに分けた。
その力というのは始めはただの概念だったのが、気づけばカードを形取り、そして遂には人型になるまで成長した。
まさにお前たちは私から生まれた子供達という訳なのだ。
私の計画は順調に進んだ。
成長したお前たちは自我を持ち始め、行動を開始した。
だが、自我を持ったことにより問題も生じた。
分けた力をまとめる事が出来なくなったのだ。
私がお前たちに手をかけたと知れれば一斉に私を攻撃してくるだろう。
六対一では私でも無事では済まない。
そこで私は思いついたのだ。
勝った者を次の神にすると触れ込み、お前達を戦わせたら力は勝手に集まり、私の元に帰ってくる。
計画通りお前たちは動いてくれた。
手のひらで転がすというのはまさにこの事。
「くどい! ごちゃごちゃ話してねえで結論だけ言いやがれ!」
クロウが声を荒げる。
その様子を見て、アインは仕方ないといった様子で口を開いた。
「全ては私の計画だったのだよ。私の新しい器を作るためのな」
衝撃的な事実がこうも簡単に明かされた。
何を言っているのか理解できない。
いや、理解は出来ているのだ。
どちらかと言うと理解したくないといった方が正しかった。
クロウも同じことを思っているのか、怒りよりも驚きといった表情をしていた。
「さぁ、話は終わりだ。継承を始めよう」
アインが席を立ち、クロウに近づく。
「おい、放しやがれ! このクソ爺! くそっ、くそっ!」
クロウは必死にもがくが逃れられない。
「クロウ!」
それを止めようと海翔はアインに突進する。
「ふん、人間風情が無礼であるぞ」
アインが軽く手を払っただけで海翔は強風にあおられた様に、吹き飛ばされてしまう。
「さぁクロウ。私と一つになろう」
アインがクロウの頭に触れると、スッと騒いでいたクロウが静かになる。
そしてそのまま徐々にアインの姿が薄れていく。
「やめろおおお!」
海翔の叫びは空しく消えた。
徐々に薄れていったアインの姿はクロウに吸収されていくように消えていった。
「クックックック、ハアッハッハッハ!」
クロウは突然笑いだす。
クロウがあんな笑い方をしているのを海翔は聞いたことが無い。
という事はつまり……。
「アイン!」
海翔はこれまで感じた事の無い怒りを込めてその名前を呼んだ。
「人間風情が私の名を呼ぶなど、無礼であるぞ!」
クロウ、いやアインは怒り声を上げながら海翔に近づいてくる。
「体をクロウに返せ!」
「返すだと? この体は元々私のものだ!」
アインはそう言って出現させた剣で海翔の腿を刺す。
「ウグッ!」
腿から激しい痛みが全身を走る。
意識が飛んでいきそうな程の痛み。
歯を食いしばって必死に意識を繋ぎとめる。
「さぁ、さらばだ。人間」
アインが止めを刺そうと剣を振りかぶった時、アインの身体は突如羽交い絞めにされ止まる。
「残留思念となり抗うか! クロウ!」
「クロウ!」
アインを羽交い絞めにしていたのは、誰でもないクロウだった。
ただその姿は薄れており、今にも消えてしまいそうだ。
「はっ! 俺がそう簡単に消えると思ったか? クソ爺」
クロウはしてやったりといった顔をした。
そして、力任せに放り投げた。
「よぉ海翔。時間がねえからさっさとやるぞ」
「アインを倒す方法があるの?」
海翔が聞くと、クロウはあっけらかんとして言った。
「いや、ない」
「無いの!?」
クロウは「まぁ待て」と言って腰に付けている時計を指さした。
「残念だが、今奴を倒す方法はない。だからお前には過去にとんでもらう」
「過去?」
タイムスリップという事だろうか。
でもどうやってそんな事を?
「いいか、海翔。お前はもう一度やり直してアインを黙らせる方法を考えろ。それがお前の仕事だ」
アインを倒す方法を探す。
そんな事海翔に出来るだろうか。
重たいプレッシャーが不安を呼ぶ。
そんな海翔の心情を察したのか、クロウは力強く海翔の肩を叩く。
「海翔。お前は俺が唯一認めた相棒だ、自信を持て」
海翔を目を真っすぐ見てクロウはそう言った。
心からの信頼がこもっているその目。
海翔はその想いに答えるように力強くうなずいた。
「さぁ時間が無い。やるぞ! タイムリバース!」
クロウが時計を手に取り唱えると海翔の身体を淡く光る赤い粒子が包む。
「クロウ! 僕絶対見つけるから! だから!」
クロウはフッと微笑んで言った。
「ああ、任せたぜ、相棒!」
そのクロウの笑顔を最後に、海翔の意識は光の中へ消えた。
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