第2章:三色の戦い

第10話:平和な朝

 ちゅんちゅんと小鳥の鳴く声が聞こえてくる。

 最近は寒くなってきたが小鳥はまだまだ元気そうだ。


 昨日酷使した体の調子を確かめるように、軽く伸びをするとあちこちからポキポキと気持ちの良い音が聞こえてくる。

 カーテンを開けると差し込んできた心地よい日差しは、活動を始めるためのスイッチを一気に入れていく。



 制服に着替え一階のリビングへ向かう。

 リビングでは既にクロウが朝食を取っていた。


「おはよう、今日も早いね」


 海翔はコーヒーと朝食を持って、クロウの前の椅子に座る。


「ああ? お前が遅いだけじゃねえのか」


 そう言ってクロウは海翔に目も向けず、雑誌を読んでいる。


 魔力とやらをエネルギーに活動している天使が、果たして食事をする必要はあるのかと海翔は思ったが、どうせまともな回答は得られないので気にしない事にした。


「それじゃ、行ってきます」


 母親とクロウ、そして仏壇に行ってきますを言ってから学校に向かう。

 今日は土曜日なので普段より路地の人通りは少ない。

 しかし朝早くから学祭の準備の総仕上げに向かったのか、学生の人数はいつもより少ない気がする。


 なので今日は後ろから近づいてくる自転車の音に気付くことが出来た。

 十分近づいてきた所でスッと横に避ける。


「うおっ、中々やるじゃないか、海翔」


 回避されるとは思っていなかったのか慎吾は、倒れこみそうになるが華麗にステップして持ち直す。

 流石、サッカー部のエースという所だろうか。


「まぁね、僕もいつもいつもやられっぱなしじゃないって事だよ」


 えっへんと胸を張る。

 いつもいつも朝から驚かされてはこっちの身も持たないというものだ。


「はぁ、朝から海翔を驚かすのは俺の日課だったんだがなぁ」

「もうそんな手にはひっかからないってね」

「へぇそうなんだ。じゃあ私の日課ももうこれでおしまいかな?」


 とつぜん増えた女子の声という予想外の事態に海翔たちは声を上げて飛びのいてしまう。

 声の主を確認しようと振り返るとニコニコと笑っている詩織が立っていた。


「お、おはよう、遠藤さん」

「うん、おはよう、中川君、加藤君。どうやら私の方が一枚上手だったみたいだね」


 どうやら慎吾の自転車に気を取られすぎて、その後ろから接近してくる詩織に気づかなかったみたいだ。


 全く油断ならない二人だ。


(というか何で毎朝僕は、驚かされなければならないんだ?)


 なんて事も思ったが、それも今日に限っては些細な事だ。

 今年は学祭の準備をしたからか、他の発表にも少し興味が湧いているのだ。


「ま、まぁいいや。学祭楽しみだね」

「おうよ。悪かったな、海翔。あまりクラスの準備手伝えなくて」

「いいよ。慎吾は部活の準備で大変だったでしょ」


 海翔の通っている学校は各部活の発表に大変気合をいれる事で有名だ。

 そのせいでクラス発表が消化試合ぎみなっているのもまた有名だが。


 慎吾の所属するサッカー部は毎年女装美女コンテストを開催している。

 コンテストの出場者を集めるのも大変だが屋外ステージの装飾も自分たちで行うため毎年大いに盛り上がる。

 今年は慎吾も出場者を集める為校内を走り回っていたそうだ。


「いやぁ今年は豊作だぜ? 期待しといてくれよ」


 慎吾の言う通りネタ枠の生徒が多数なのだが、毎年必ず女子生徒よりかわいい男子が出る為、意外と侮れないのである。

 風の噂で聞いた事だが優勝者には学祭終了後、交際の申し込みが殺到するそうだ。


 男子から。


「そう言えば今年は出るの? 中川君」

「出ないよ。というか来年も出る予定はないよ」

「ええ~! 残念、中川君なら良い線行くと思うんだけどなぁ」


 詩織は見るからに残念そうに肩を落とす。

 どうせならもっと別の分野で良い線行けるよって言われたかったものだ。


「そうだぞ、海翔。来年こそは我がサッカー部の誇りを賭けて出場してもらうからな」

「お、お構いなく……」


 つい女装をして着飾った自分の姿を想像してしまったが、寒気を覚えた。

 海翔は苦笑を浮かべながら、歩く速度を上げる。

 このままここにいては、なし崩し的に了承させらせそうな気がしたのだ。


「いやぁ、絶対優勝できると思うんだけどなぁ」

「うんうん。できるできる」

 

 恐ろしい会話を背中で聞きながら、海翔はさらに歩くスピードを上げた。

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