第80話 サムジャに迫る数多の蛇

 ヴェムが大きく広げた口から大蛇が飛び出してきた。突然の事にわりと驚きだぞ。


 大口を開けて大蛇が襲いかかってくる。


「居合忍法・抜刀土返し!」


 忍法で地面を捲るようにして盾にする。しかし、これだけの大物相手だと足止めにもなりゃしない。結局俺は突っ込んできた大蛇に喰われることとなった。丸太だけ残してだが――


「変わり身の術だ」


 俺は大蛇の真上にいた。空中に逃げた形、だが大蛇はすぐに体を急旋回させ、空中にいる俺を喰らいに掛かった。今度こそ俺が食べられてしまう。変わり身はすぐに再使用は出来ない。


 だから喰われた、俺の分身がだ。


「居合忍法・抜刀落雷燕返し!」


 予め作っておいた分身も空中にやっておいてよかった。おかげで大蛇は俺の分身を狙った。残った二体の分身と合わせて六本の落雷が大蛇を打つ。


 大蛇にまともにダメージが通るかはわからなかった。悲鳴一つすらあげないのでわかりにくいが、しかし大蛇は元いた位置で立っていたヴェムの体内に戻っていった。


「ふぅ……チッ、まだ生きているとはしぶとい奴だ」


 大蛇はかなり巨大だった。おかげで周囲の壁にも損傷が出ている。地面にも窪みができていた・・・・・があれは俺の土返しによるものだ。


 忍法土返しは攻撃を防げれば元の地面に戻っていくが、壊されたら見ての通り地面は捲れ上がった状態のままになる。


「まぁいいさ。こっちにはまだまだ蛇はいるんだからな――雷蛇!」


 奴の袖から電撃が迸っている蛇が飛んできた。動きも速い! あっという間に残り二体の分身が消された。


「居合忍法・影走り!」

 

 忍法で速度を底上げする。迫る雷蛇を避けつつ、居合で処理していく。新しい防具を手に入れはしたが、これもそこまで丈夫というわけではない。


 こいつの蛇は毒だけじゃない。それ相応に威力もある。油断は出来ない――


「はぁああぁあぁああッ!」


 もう片方の手から伸ばした蛇が鞭のように振るわれた。チッ、これは避けきれない。


 俺は覚悟を決めた。脇腹に蛇の胴体が当たる。鱗部分が刃のように鋭い蛇だった。


「刃蛇だ。本来なら鱗にも毒があるが、毒が通じなくても結構痛いだろう? どうだぁ~?」


 脇腹部分から血がじんわりと滲み出してきた。嫌な痛みがズキズキと続く。切るというより抉るタイプだ。いやらしい鱗の形状をしている。そのまま拷問にでも使えそうな蛇だ。


「俺は体の中に様々な蛇を飼っていて自由に出し入れ出来るのさ。中々のスキルだろう?」

「そうだな。こんな仕事よりもびっくりショーでもやったらどうだ? その方が稼げるかも知れないぞ?」

「まだそんな軽口が叩けるとは、随分と余裕のある奴だな」


 ヴェムがローブの袖を上に向けた。すると体中の蛇が宙に打ち上げられそのまま落下してきた。


「へっ、蛇雨だぜ」


 確かに雨のように蛇が降ってくる。今までと比べると随分と小型な蛇だ。これは一体?


 そう思っていた矢先、蛇の胴体がぷくぅ~と膨れ上がり随分と丸っこくなった。


 怪しいが下手に手出しするのも危険だ。俺は蛇が出来るだけ当たらないように動くが、地面に落下した途端蛇が次々と破裂していきガスが周囲に充満していった。


 毒ガス? いや、だとしても俺に効かないのはわかっているはずだが。


「雷蛇!」


 そこで今度はあの電撃の迸る蛇を奴が放ってきた。だが軌道がおかしい。俺に当たる距離じゃ、待てよ、ガス、電撃――まさか!


「そのガスは毒であり可燃性だバーカ!」

「くっ!」


 途端に耳をつんざくような轟音。自分の身が紙くずのようにふっ飛ばされているのがわかった。


 熱と衝撃で危なく意識が持っていかれそうになる。だが何とか踏ん張った。


「ガハッ!」

 

 地面が血反吐で汚れた。結構なダメージが残っている。火傷も負った。


「全くしぶとい奴だな。ゴキブリかテメェは?」


 蛇からゴキブリ扱いとは笑えない話だ。


「居合忍法・影風呂敷――」


 閉まっておいたポーションを取り出した。以前ダンジョンに行く準備として備えておいたものだ。


 だが飲んでいる暇はない。直接傷にかけた。これでも効果はある。


「随分と用意周到なことだ。だが、ポーションでも完全に回復は出来ないだろう?」


 そのとおりだ。ダメージは大きい。ポーションで治療できると言っても限度がある。


「さて、次はどんな手でやられたいんだぁ? さぁ答えてみろよ」






◇◆◇


 シノが戦っている方向からけたたましい音が飛び込んできた。何事かとルンが目を向けるとそこから黒煙が上がっていた。


「そんな、シノ――」

「仲間の心配をするとは随分と余裕が生まれたものだな」


 マジルの頭上に生まれた巨大な風の円盤がルンに向けて飛んでくる。一度はダメージを与えたが、マジルは回復魔法まで取得しており未だ決定打を与えてはおらず、向こうはまだまだ様々な魔法を抱えていそうだった。

 

 ギュルギュルと嫌な回転音を響かせながら迫ってくるそれに唇をかみ、ルンは横に飛んだ。


 刃がローブの裾を掠り飛んでいく。スパッと切れた切れ目からルンの白い足が垣間見えた。


「中々いい脚をしているじゃないか」

「あんたみたいのに見られてると思うとゾッとしないわね」

「グルルゥウウ!」

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