第54話 サムジャ、ブロストを倒す

「ブベっ!」


 ブロストが錐揉み回転しながら地面に落ちた。そのまましばらく地面を削ってから止まったが、見たところボロボロでもう戦闘は無理だろう。


 痙攣はしてるし生きてはいると思うけどな。


「凄いわね。ブロストはこれでもCランクの冒険者なんだけど、シノに掛かればお話にならないレベル」

「はっはっは、流石は新人の中で俺が見込んだだけあるな」

「うん?」


 どうやらシエロもおいついたようだ。ルンもいてその隣にはギルド長のオルサの姿があった。


「オルサ来てたのか」

「パパったら仕事抜け出してバザーまで来たみたい」

「いやぁ、やっぱ気になってなぁ。いやお前は信用してるつもりなんだがな」

 

 オルサがルンと俺をちらちらっと確認しながらそう説明してきた。ふむ、この状況と俺を信用している事と、どう繋がりが?


 いや、もしかしらたオルサはルンとシエロがトラブルに巻き込まれる可能性を察していたのかも知れないが。


「本当ルンは溺愛されてるのね」

「勘弁してほしいわよ」


 シエロが目を細めてルンとやり取りしていた。

 やっぱりルンとしては父親がわざわざ様子を見に来てるのは照れくさいのかもしれない。


「ま、それはそうとだ」


 オルサが倒れてるブロストに近づいた。


「よう喋れるか?」

「あ、あんた、ギルド長。ちょ、丁度よかった。あいつを、あいつを捕まえてくれ!」


 ふむ、起き上がって妙なことを言い出したな。膝が震えているしそれ相応のダメージを与えているとは思うが、文句をつけることぐらいはまだ出来るようだ。


「ほう? 俺がシノを? 何でだ?」

「何言ってやがる! あいつは、あいつはシエロをたぶらかした! その上見てみろ! あんたの娘だってこいつに騙されてる! だから俺が文句を言ったら突然こんな暴力を奮ってきたんだ! あいつは今すぐ罪人として捕まえるべきだ!」


 驚いたな。こいつよくこんなでまかせをペラペラと言えるもんだ。


「呆れて物もいえないわね。勝手に逆恨みして先に仕掛けてきたのはあんたでしょう!」

「オルサ。あいつはシノに脅されてるんだ。聞く耳を持つな」


 シエロが表情を険しくさせて訴えるが、ブロストはごまかして俺に罪をなすりつけるつもりなようだ。


「あぁ、そうだな。聞く耳なんてもたねぇよ。お前の話にはな」

「は、はい?」


 だが、オルサは凛としてそういい放ちブロストが目を白黒させる。だが、構わずオルサが続けた。


「お前、酒場で暴れただろう? ギルドにクレームが入ってな。そのうえでその場にいた連中がお前をけしかけたのもわかったのさ。だからそれも気になってこっちに来てみれば案の定だ。それに向こうの通りについた跡はどう見てもお前の鉄槌の物だしな。下手な嘘なんざついてもすぐにバレるんだよこの馬鹿が!」

「ぐべぇえええぇえぇえええ!」


 オルサの拳骨でブロストの頭が地面に埋まった。う~ん流石ギルドを束ねる長だけある。凄まじいパワーだ。


「悪かったなシノ。面倒かけちまって」

「いや、大したことじゃないさ」

「でも良かった。ギルド長にすぐ話が通じて」

「ま、こいつがお前に付きまとってるのは有名だったからな」

「だったらもっと早く対処してくれればよかったのに」

「ワンッ!」


 腕を組んでルンが言った。相手が父親だけに遠慮ないな。パピィも力強く吠えてるけど。


「厳重注意まではやってたんだよ。シエロにも悪いことをしたが、ただしつこいってだけじゃこっちも中々それ以上のことは出来ないんだ」


 冒険者と直でやり取りする受付嬢だけに、やはりそういうトラブルはつきものなのだろうが、中々難しいところらしい。


「だが今回はそうはいかない。酒場で暴れてバザーでもこの騒ぎだ。シノに対しては殺人未遂も適用される。ま、シノに返り討ちにあっちゃいるがそれはそれこれはこれだ」


 気絶したブロストを雑に引っ張りながらオルサが言う。


「とりあえず今回出た損害は全てこいつに払わせる。そのうえで冒険者資格は剥奪。罪人として捕らえて後に裁判行きってとこだ。ま、損害賠償だけでもかなりの借金を負うだろうからろくなことにはならねぇだろうよ」


 そう言ってガハハと笑った。それなら金輪際シエロに付きまとうこともないだろう。


「あぁ、ついでにこいつを焚き付けた連中。どうやらお前に逆恨みしてたようだが、そっちは厳重注意にしておいた。まぁ何故か肩の骨が砕けた上、別の町に拠点を移すようなことを言っていたがな」


 そう言ってオルサがニカッと笑った。肩の骨って……う~ん、ま、皆までは聞くまい。


「それじゃあ、俺はこいつを連れてくとするか。見たところ、ルンも心配なさそうだしな」

「一体何を心配することあるのよ」


 ルンは口をへの字にしてオルサに返した。


 そしてオルサがブロストを雑に地面を引きずりながら運んでいく。あれ、皮膚が確実に捲り上がるだろうな。


「何か私のせいで余計なトラブルに巻き怒んじゃったわね。本当ごめんね」

 

 ブロストの件が片付くと、シエロが俺に謝罪をしてきた。


「シエロが謝る話じゃない。悪いのはブロストだ」

「そうよ。全部あの馬鹿が悪いんだし。ねっパピィ?」

「アンッ! アンッ!」


 ルンに語りかけられ、パピィがシエロの周りを駆け回って鳴いた。シエロを励ましているようでもあった。


「ふふ、ありがとうね。はぁでも本当パピィは可愛いわね」

「アンッ! クゥ~ン」


 シエロが屈んでパピィの頭を撫でると、気持ちよさそうにパピィが鳴き目を細める。


「それにブロストとの戦いでレベルが上ったんだ。Cランクだからそれなりの経験になったということなんだろう」


 俺はシエロを心配掛けないようレベルのことも伝えた。ブロストとの戦いは無駄なことばかりじゃなかったという意味も込めてだ。


 そして改めてレベルを確認してみた。


ステータス

名前:シノ・ビローニン

レベル:4

天職:サムジャ

スキル

早熟晩成、刀縛り、居合、居合忍法、居合省略、抜刀燕返し、活力強化、抜刀強化、抜刀追忍、円殺陣、忍体術、暗視、薬学の知識、手裏剣強化、チャクラ強化、チャクラ操作、苦無強化、気配遮断、気配察知、土錬金の術、土返しの術、土纏の術、鎌鼬の術、草刈の術、旋風の術、凩の術、風牙の術、火吹の術、烈火弾の術、爆撃の術、浄水の術、水霧の術、水手裏剣の術、落雷の術、雷鏈の術、氷結弾の術、影分身の術、影走りの術、口寄せの術、影縫いの術、影風呂敷の術、影鎖の術、変わり身の術、変化の術


 今回は忍法を多めに覚えているな。


「シノはレベル幾つになったの?」

「4だな」

「もう! まだ冒険者になってそんなに経ってないのに凄いわね」

「本当早いわ。驚きよ」

「でも、ルンも3に上がっただろう?」

「ルンは貴方より先輩だもの」

「そうよ。これでもシノより冒険者歴は長いの」


 そうだったな。確かに俺は登録してからは日はまだ浅い。そう考えたらやはりスキルの効果が大きいのだろう。


 さて、ブロストのこともあってバタバタしたが、いい時間だしそろそろ昼にしようかなと思ったのだが。


「あれ? シノさん!」

「うん? セイラ?」


 ふと声がかかり振り返ると、そこには教会の聖女であるセイラがいた――

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