第39話 サムジャ、ボス攻略
俺達はいよいよ第八層の攻略に挑むことになった。ゴールは近いな。早ければこの辺りにボスがいるかもしれない。ボスさえ倒すことが出来ればこのダンジョンの攻略は終了だ。
こういったダンジョンは初攻略者にはボーナスが出るものだ。だからこそ未攻略のダンジョンでは冒険者が躍起になる。
「ガウガウ!」
「魔物の出るトラップか――」
パピィが罠の場所を教えてくれたが、他に行ける道もないので慎重に進むと壁が崩れ魔物が出現した。七層にもあったトラップだが、普通の通路にも仕掛けられていたか。
「ウキャキャ!」
「おっと――」
出てきたのは見た目が猿の魔物だ。ただ爪が伸びるようで、リーチがそれなりに長い。
そして大分すばしっこいな。ダンジョンの壁や天井を巧みに利用して俺達を翻弄してくる。
「速くて捉えきれない!」
「グルルゥ」
ルンが必死に黒目を動かして相手を捉えようとしているが難しそうだ。パピィも反撃を試みるがパピィの攻撃は空を切り、中々当たらない。
「皆俺から離れないようにしてくれ。円殺陣――」
柄に手をかけ構えを取った。相手の攻撃に合わせて反撃する守りの型。制空圏に入り込んだ猿は――スパァアアァアン! という快音を残して切り裂かれた。
いくら素早い猿でも、俺のエリアに入ることは許されない。だが猿は中々強かだ。仲間が何匹か倒されたところで、俺の範囲を見きったようだ。
制空圏の外から睨みを効かせてくる。動くか? そう考えたとき、ルンが動いた。
「任せて!」
足を止めて猿に接近し刻印を付与する。刻まれた猿が飛び去ろうとしたが――動きが鈍くなった。
「鈍重の刻印よ」
「そういうことか」
七層で見つけた刻印は動きを遅くするというものだった。自分や味方に使うには不向きだが逆に的に施すことで弱体化出来る。
動きが鈍くなった猿には居合忍法・抜刀鎌鼬をお見舞いした。これで両断されて、更に怯んだ猿には接近して旋風で葬った。
「やったわね」
「あぁ、刻印も使いみち次第ってとこなんだな」
「確かにそうね。ただ――刻印を施すのに時間が掛かるのが難点ね」
刻印は相手に向けて描く必要がある。スキルの効果でルンが刻印を描く速度はかなり速いがそれでも警戒した相手には決めにくいだろう。
「レベルが上ったらもしかしたら役立ちそうなスキルを覚えられるかも知れないけど……」
天職持ちにとってレベルが大事なのは、レベルが上がることで新たに覚えられるスキルがあるからだ。ルンは既に刻印を刻む速度を早めるスキルを覚えている。
ルンの話だと刻印そのものはレベルではなく石版の入手で覚えられるようだからレベルによって覚えられるスキルはより刻印を使いやすくするための物が多い可能性があるだろう。
その中には刻印を施す手間を劇的に改善出来るものもあるかもしれない。
「今はとにかく先に進むか」
「そうね。でも魔物も手強くなってきたし刻印を付与しておくわ」
「助かる」
俺は力の刻印を、パピィには鉄の刻印が施された。刻印は一度付与すると刻印が消えるまでは効果が続く。だが同時に刻印が消えるまでは次の刻印を付与できない。
さてダンジョン攻略を続ける俺達だが、またトラップがいやらしくなってきた。パピィのおかげで回避できているが、罠の対策がなってないと苦戦したことだろう。
――シュッシュッ!
そして新たな魔物が姿を見せた。見た目がカンガルーだが手には赤くて厚みのあるグローブを嵌めている。
フットワークが軽く軽やかなステップを披露しながら拳で俺達を威嚇してきていた。
しかし、この魔物といい、俺の記憶にない魔物も良く見られるな。前世から結構経ってるのだし魔物も新しいのが出ていてもおかしくないが、もしかしたら全ての記憶を引き継いでいるわけではないという可能性もある。
まぁ天職のことといい、基本的なことは記憶に残ってるから問題ないか。
「ハッ!」
ルンが杖を掲げると火球が飛んでいった。火の刻印を施したんだな。
だけどカンガルーは軽いフットワークで火球を躱していく。そこで今度はパピィが旋風爪牙で突撃。これはかなり速い攻撃スキルだが、しかしカンガルーはそれも横に飛んで避ける、が、そこに俺の居合忍法・抜刀影鎖によって発生した影の鎖が絡みつきその動きを封じた。
「やった!」
ルンのはなった火球が当たり、カンガルーを倒した。ルンが喜ぶ。戦いでトドメをさすと比較的レベルが上がりやすいとされる。
ルンはレベルを上げたがってるし出来るだけルンがトドメをさせるよう動くとするか。
八層は結構広い。動き回るとさっきの猿みたいな魔物やカンガルーみたいな魔物がよく出てくる。
そして今度はカンガルーに似ていて、それでていて一回り小さな魔物が出てきた。
全部で三匹か。それなりに広い空間で、片足を上げたまま魔物は動き回っている。
そして大きく踏み込んだと思えば鋭い蹴りを放ってきた。体を反らして避け蹴りが空を切り裂いた。
空振った蹴りは途中で軌道が変化し真上から振り下ろされる。躱しきれない。
「シノ!」
「ワウ!」
ルンとパピィの緊迫した声が耳に届く。俺が相手の蹴りを喰らったからだろう。地面にも叩きつけられるが――
「――ッ!?」
「変わり身だよ」
俺が丸太に変わって驚いたようだな。
「居合忍法・抜刀影分身!」
影分身によって増えた斬撃が魔物を切り裂く。これで一匹は倒した。残りは二匹だが、ルンとパピィは一匹を二人で挟撃していた。
いい手だ。足癖の悪い魔物だが、二人で掛かれば倒せない相手ではない。ルンの火球で飛び退いたところをパピィが噛みつき天地落としを決めた。
そして弱ったところでルンが火球で止めを刺す。
残った一匹は居合忍法・抜刀落雷と鎌鼬で倒した。
「パピィ助かったわありがとう!」
「アンッ! アンッ!」
「あはは、くすぐったいよ」
パピィが駆け寄りルンの顔をペロペロと舐めた。ルンだけじゃない。パピィもまたルンの魔法に助けられている。その御礼のつもりなのだろう。
さて、こうして俺達は八層の攻略も進めていき、最奥で物々しい扉を見つけた。
「これってもしかして?」
「あぁ、ボス部屋だと思う」
ダンジョンにはこうやってボス部屋が用意されている場合がある。もっとも絶対ではなく奥に進むとボスがいるというパターンもある。以前戦ったドラウグルなどがそうだ。
「ということは、この中のボスを倒したら攻略完了なのね!」
ぐむむ、とルンが拳を固く握りしめた。大分意気込んでるが、力み過ぎな気がする。
「ワン! ワン!」
「え? パピィ」
しかしルンの足元でパピィが吠えたことで、ルンの顔つきが変わる。屈み込み頭を撫でることで完全に力みも取れたようだ。やるなパピィ。
そして改めて俺とパピィはルンから鉄の刻印を施され、ルン自身は火の刻印を施した。
「さて、じゃあ攻略と行くか」
「うん!」
「ワンッ!」
そして俺達は扉に手をかけ、ボスの部屋へと足を踏み入れた――
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます