第27話 サムジャ、名付ける!
大神官ハデルはシノとの一見が終わった後、アグールを私室に呼び出した。
「全く。あのようなものに聖女の力を使わせるとはな」
「も、もうしわけありません大神官ハデル。し、しかしお布施はしっかり頂きましたよ」
「ふん、百万ゴッズ程度、この教会の最低額ではないか」
ハデルがこの教会に配属されてからというのも、教会の寄付金の金額は上がり続けていた。以前の司祭は奉仕こそが教会に務めるものの役割と信じて疑っておらず、その結果、資産といえるものがほぼなく常にカツカツであった。
そのことに不満を持っていた者も多くいて、このアグールもその一人であった。
そしてハデルに変わってからは教会の資金も潤沢となり神官への手当も増えた。
故に教会に属する多くのものはハデルを支持している。しかしかつての司祭を慕っていたものは逆にハデルのやり方に批判的であった。
もっともその何人かはハデルの手で教会から放逐される事となり、結果的に彼の立場は現状盤石である。
「……とは言え、得られるものが全くなかったものではない。だから今回は大目にみるがその代わり一つ仕事を与える」
「はい! このアグールに何なりとお申し付けを!」
アグールはハデルが子飼いにしている神官の一人だ。勿論ハデルの考えを全て聞かせているわけではないが、余計なことを散策することもなく従順である為扱いやすい。
「……あのシノという冒険者について調べろ。それとここ最近冒険者が攻略したダンジョンについてもだ。特にダンジョンについては事細かに調べるんだ。決して抜けがないようにな」
「は! しかし、何故またあのような粗雑な者を?」
「あいつは聖女と親しいようだったからな。おかしな虫がついてはかなわん」
「なるほど! 確かにわかります。聖女セイラは見目が良いですからね。おかしな連中に付け狙われても大変です」
「そういうことだ」
「つまりダンジョンもその関係ですか?」
「……そうだな。もういいだろう。お前は私の言ったとおり動けばいい」
「これは失礼致しました。それではこの命に代えても、この特命は全うしてみせます!」
「……頼むぞ。ただし目立たぬようにな」
アグールが意気込むがそこまで難しいことを頼んだ覚えはなかった。冒険者はその名が示すように冒険譚などが大好きだ。ダンジョン攻略などがあればその話題は必ず話題に上がる。
ただ大神官のハデルが直接聞くには外聞が悪く目立つ。だからこそアグールに頼んだ。
この男なら平服に着替えて適当にしてれば聖職者には見えない。
「しかし、まさかアレが見つかった上に、使いこなせる天職持ちが現れるとはな――」
そして遠くを見るような目でハデルが一人呟くのだった――
◇◆◇
「さて、俺と口寄せの契約を結ぶつもりはあるか?」
「ワウン?」
尻尾を振りながら小首をかしげた。かわいい仕草だ。
う~ん、まずは名前を決めた方がいいかもしれない。
「名前か――」
「ワウ!」
子犬がどこか楽しそうに一声吠えた。その後は前足で自分の顔を撫でている。
それはそれとして名前、名前と――
「パピィ……」
「ワウ?」
「パピィという名前はどうだ? これからのお前の名前候補なんだが」
「!? ワウ! アン! アンッ!」
おお、どうやら気にいってくれたようだな。
「よし、これからお前の名前はパピィだ!」
「ワンッ! アンッ!」
抱えて名前を宣言すると勢いよく尻尾を振ってくれた。表情も笑ってるように見える。
「よし、名前を決めたところで改めて、口寄せの契約をしたいと思うのだが、いいかな?」
「ワウ?」
パピィが、何だろう? という顔で小首を傾げた。なんとも可愛らしい。
「口寄せは、まぁ俺との契約だ。これをするとどこにいても俺の下へすぐに戻ってこれる。それに俺のチャクラを分けることで肉体的に強化もされる。どうかな?」
「!? ワウワウワウワウ!」
俺の周りを駆け、吠えまくってきた。何かすごく興奮しているようにも感じる。嫌というわけではなく、むしろすぐにでも契約がしたいぐらいの様相だ。
「よし、なら契約しよう」
「ワンワン!」
パピィも納得してるようなので契約の術に入る。本来ならかなり複雑な印を結ぶ必要があるがサムジャならそれもすぐだ。
「居合忍法・口寄せ――」
居合省略でちょっとだけ抜いて鞘に収める。これで契約終了だ。パピィの肢体が一瞬光ったから間違いないだろう。
口寄せすると契約した相手のステータスを見ることも出来る。ちょっと見てみようかな。
ステータス
名前:パピィ
レベル:1
天職:忍犬
スキル
気配遮断、気配察知、周囲探知、五感強化、空蝉の術、天地落とし、影走り、影潜り
これがパピィのステータスだった。よく見ると天職が忍犬になっている。口寄せの術によって天職がついたのだろう。ただ、これは犬なら何でもつくというわけではない。
天職がついたということは、元々素質があったのだと思われる。
「凄いなパピィ。忍犬になれたぞ」
「ワウ? アンッ! アンッ!」
はは、嬉しそうだな。しかし、スキルも豊富だ。
俺の持ってる忍術と同じ物もあるが、一部パピィだけの物もある。
例えば周囲察知。これは気配察知よりもさらに仔細に周囲の状況がわかるスキル。そして影潜り。影の中に潜ることが可能なスキルだ。
「凄いぞパピィ。天職がついてスキルもたっぷりだ」
「ワウ? アン! ワン!」
パピィがしっぽをパタパタさせながら駆け回る。すごく嬉しそうだ。
「ワンッ!」
「お?」
するとパピィが突然消えた。いや、そうか影に潜ったのか。
「アンッ!」
そして影の中から飛び出して俺の胸にダイブしてきた。
「ワンッ! ワンッ!」
ベロを出してつぶらな瞳で俺を見てくる。何か、褒めて褒めて~と言われてるような気がしてきた。
「凄いぞパピィ。早速スキルを使いこなしているな」
「クゥ~ンクゥ~ン」
褒めると嬉しそうにじゃれついてきた。本当に甘えん坊さんだな。
……いや、よく考えてみたら飼い主を突如失ったパピィは、甘えたくても甘えられない状態が続いた。
その上、仇を取ろうと必死に犯人を探していたんだろうなというのが伺い知れる。
犯人か……間違いなくあの手配書にあった通り魔だろう。あの場でもそんな話が聞こえてきた。
別に俺は正義の味方じゃないから、通り魔なんて許せん! 俺が絶対になんとかしてやる! みたいな考えもなかった。
だが、これからはパピィのことは俺が面倒を見ることになる。ならば飼い主としてできるだけのことはしてやりたい。
とは言え、考えなしに突き進むわけにもいかないしな。とりあえず明日ギルドに行ってから色々と聞いてみるか――
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