第12話 サムジャ、対ドラウゲル

 俺が隠し通路から出ていくとすぐさま奴の拳が飛んできた。


「乱暴なやつだな」

「フン、やっと覚悟が決まったようだな」

「何のことだ?」

「愚かなやつだ。武器も無しにこれ以上何を、む?」


 ドラウグルの目が俺が手に入れた刀に向けられる。


「なるほど、性懲りもなくそんなものを作ってきたというわけか。だが無駄なこと!」


 ドラウグルが強烈な腐臭のする息を吐きかけてきた。全く、口が臭すぎだろこいつは。


「ハハッ、これでその武器もボロボロに、ボロボロ――」

 

 だが、ドラウグルの動きが止まり、俺の刀をジッと見てきた。表情に動揺が走る。


「馬鹿な、何故、腐敗しない!」


 そう。俺の刀は無事だった。纏っている土もだ。苦無もまた作成して持っているがそれも無事である。


「お前、この奥に何が隠されていたのか知らされていないのか?」

「隠されていた? そんなもの知るか。俺はここを守れと言われているだけだ!」


 なるほど。道理で。しかし、隠し通路を暴かれた時点で全く守れていないけどな。


「それは御愁傷様だな。居合忍法・抜刀鎌鼬!」


 飛んでいった鎌鼬が奴の右腕を斬り飛ばした。だが、ドラウグルはなんてこともない様子で腕を広い投げつけてきた。地面に落ちると同時に爆発し瘴気が俺を包み込む。


「グハッ! 浴びたな俺の瘴気を! これで更に毒に蝕まれる!」

「さて、それはどうかな?」


 俺がそう答えると、ドラウグルが目を眇めた。


「馬鹿な、何故そんなに平気でいられる? 大体さっきの毒だってある。それなのに、何故だ!」

「悪いが俺にもう毒は通用しない。腐敗の効果もだ。そしてお前はもう少し自分の身に起きていることを理解したほうがいい」

「何だと?」

「腕を見て見るんだな」


 俺がそう継げると、ドラウグルがさっき切断された腕の付け根を見て、驚愕した。


「ば、馬鹿な! 再生していないだと! な、何故だ!」

「どうやら本当に知らなかったようだが、この奥に隠されていたのはこの刀」

「かた、な? その武器のことか!」


 ドラウグルがカッと目を見開き言葉を強めた。


「そうだ。この刀、銘は数珠丸恒次。伝説の天下五剣の一刀――その効果は浄化。持ち主を病魔や毒から守り、そしてアンデッドに対して強い特効を持つ。理解できたか?」

「なッ!?」


 驚き仰け反るドラウグルに向けて疾駆し、俺は新しい刀の切れ味を試すことにした。


「居合忍法・抜刀影分身!」

「ぬぐうううううぅうう!」


 十二の斬撃でドラウグルの肉片が飛んだ。見る限り再生する様子も見せない。


 やはりアンデッド相手にはかなり強い。まさに起死回生の名刀だ。


「く、くそがぁあああぁああ!」


 飛び散った肉片を爆発させてくる。だが無駄だ。いくら瘴気を浴びても今の俺には通用しない。


「居合忍法・抜刀燕返し爆撃!」


 斬ると同時に二回の爆発。ドラウグルの腐肉が弾け飛び一部が炭化し腐肉の黒味がより強まった。


「馬鹿なぁあ! ありえない! 俺のレベルは5! レベル2程度の貴様に遅れを取るわけがないのだぁああ!」


 レベル5か。基本的にレベルが1違うとその能力差は2から3倍程度になると言われている。


 レベル2対レベル5――3レベル分の開きは本来致命的な差だ。だが――


「ゲボオオォオォオォオオオオ!」


 ドラウグルが溶解液を吐き出してきた。


「居合忍法・抜刀土返し!」


 しかし捲れた土が壁となり遮る。もっともそれも一瞬あっという間に液に飲み込まれるがその時には既に俺は空中に逃れていた。


 そしてチャクラ操作で空中を蹴り駆け回り相手を翻弄する。


「ぬぐぅうチョコマカと!」

「悪いが、この武器はお前とのレベル差を埋めるに十分な代物だ――」


 チャクラ操作で刀にチャクラを纏わせた。これでより切れ味は増す。


「居合忍法・抜刀影分身燕返し!」

「グ、グオォオオォオオオオオッ!」


 二十四の斬撃が飛び交いドラウグルの腐肉を切り刻んだ。痛みは感じていないのだろうが、それでも今自分に何が起きているか理解しうめき声が漏れたのだろう。


「ば、馬鹿、な――」


 ドラウグルの肉体がボロボロと崩れ落ちていく。数珠丸恒次の斬撃をこれだけ喰らったのだ。浄化作用でもう肉体を維持することも不可能となり、そして最後には灰となって崩れ落ちた。


 同時にレベルアップの感覚。これでレベル3になれたようだな。


「うん、これは?」

 

 俺は朽ちたドラウグルが残した灰の中に転がっている玉を見つけた。手にとってみるが、これはダンジョンのコアだな。


 つまりこのドラウグルはダンジョンコアを直接媒体として生み出されたというわけか。確かにその方がより強力なボスを生み出せる。


 だがそれはダンジョンマスターにとってはリスクも高い。コアを直接ボスとして利用した場合――俺の手の中でコアに罅が入り砕け散った。


 そう。その場合ボスが倒されることでコアの寿命が一気に尽きる。このダンジョンはこれでもう維持ができな、しまった!


 俺は影走りを行使し急いで出口に向かった。案の定、閉じていた壁も開いていた。ダンジョンが維持できなくなったからだ。だがそれより問題なのは来た! 大きな揺れ!


 全力疾走でダンジョンの入り口を目指す。見えた! 俺は地面を蹴り外に向かって飛び出した。


 途端にダンジョンが崩落、入り口が完全に閉ざされてしまった。


 ふぅ、危なかった。コアの寿命が尽きるとダンジョンはその形を維持できなくなるからな。


 ちなみに通常はダンジョンの寿命が近づくと内部で余震が見られるようになる。冒険者はそれで寿命が尽きそうかどうかをある程度判断する。


 それにしても今世で初めてのダンジョン攻略だったがいきなり中々のハード展開だったな。


 もっともその分見返りも多い。この数珠丸恒次はサムジャの力をより発揮できる刀だ。


 錬金で作った刀と違い、当たり前だが維持できている時間を気にする必要もない。


 さて戻るとするか。


「あれ? あんた一人かい? 他の三人は?」


 山を降りたところで御者が声をかけてくれた。蒼の流星が手配した馬車だ。


「……あの三人はもう戻ってくることはない」

「――そういうことか。それは残念なことをしたな」

 

 神妙な顔で御者が言う。ダンジョン攻略に行くのは知っていたし勝手に察してくれたのだろう。


 もっとも俺を裏切ったことやアンデッドになって襲ってきたなんてことまでわかるわけないが敢えて御者に言う必要もないだろう。


 俺も疲れていたから折角だから馬車に乗って戻ることにした。この手のは前金払いが基本だから俺が支払う必要もない。


 冒険者はいつ死ぬかわからないからな。前払いでもらっておかないととりっぱぐれる可能性もある。


 俺も裏切られたわけだし、これぐらいの恩恵を受けても問題ないだろう。


 さて、あとは街に戻った後、ギルドに報告しないとな――

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