国立ワクチン研究所(5) 拉致

 赤城と黒田がワクチン研究所を去った十分後、福山は自身の通勤用の高級国産車に乗って北関東医科大学に向かおうとしていた。「ひょっとしたら、あの男かも知れん」と心に浮かんだ疑念を晴らすため、福山は北関東医科大学の事務部を訪ねようとしていた。

 福山が駐車場から車を発進させてワクチン研究所の門に近づくと、門をふさぐように若い女性が倒れていた。福山は「邪魔だ」と思いながら「チッ」と舌打ちをして、軽めにクラクションを鳴らした。しかし、うつむいた女性は一向に動く気配がなかった。何度か鳴らしたクラクションにも動こうとしない女性にしびれを切らした福山は、車から降りてその女性に話しかけた。

「どうされましたか? 体調でも優れないんですか?」

「急に眩暈めまいがして倒れたんですけど、その時に足首をひねったみたいなんです」倒れている女性が応えた。

「病院には務めていないが、私も一応医者だ。ちょっと見せてみなさい」福山がかがんで女性の足首を触ろうとした瞬間、女性は隠し持っていたスタンガンを福山の首筋に押し付けた。福山は自身に何が起きたかもわからないまま、その場に気絶して倒れた。福山が気絶したのを確認して、女性が合図を送ると、近くの木陰に隠れていた男性が現れて二人の方に近づいてきた。

「先生、大丈夫ですか? 気分が悪くなったんですか? 病院までお連れしましょう」男性は周囲に聞こえるように、気絶している福山に声を掛けた。

 その男性と女性は、二人で肩を貸すように福山を車内の後部座席に運び込んだ。女性は福山を介護するよう格好で福山の隣に座った。三人は、男性の運転でワクチン研究所の正門から堂々と出て行った。男性は人気ひとけのない場所まで車で移動し、そこで福山に目隠しをして、さらに手足をひもで縛った。こうして福山は、ワクチン研究所から拉致された。

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