守りの転生者

山賀 秀明

第1話 新たなる出発

「今日の夕飯どうしよう」




 ハヤトは悩んでいた。夕飯に何を食べるかではない。夕飯を食べるお金が無いことに対してだ。


 転生した彼はまず生き残る事を考え女神に「防御力特化にしてくれ!」と頼んでしまった。


 確かに防御においては一級品で絶対に死ぬことは無かった。しかし、怖がりな彼はモンスターを倒すことも出来なかった。


 最初の頃は絶対死なない男として数多くのパーティーからお誘いが来たが、バトルにおいて役に立たないことが知れると、どこからも誘われる事はなくなった。


 今は貯金だけで食っている状態だ。しかし、その貯金ももうすぐ尽きそうになっていた。




「ねえ、私たちのパーティーに入らない?」




 ハヤトが見上げると可愛らしい女の子が立っていた。


 久しぶりに誘われたハヤトは周りをきょろきょろと見るが、ギルドの酒場にはまばらにしか人はいない。


 自分に話しかけているのは間違いないようだ。




「俺でいいの?」


「ええ、逆に私たちで良かったらって言いたいくらいなんだけど……」




 彼女が後ろを振り向くと、目線の先のテーブルにはファイターとシーフ、メイジらしき三人が座っていた。


 彼らは明らかに若く、見るからに駆け出しだった。


 ハヤトは考えた。自分の様な役立たずがパーティーに入ったところで戦力にはならないだろう。しかし、今は金が必要だ。少し気が引けるが夕食の事を考えれば断るという選択肢は無かった。




「俺でよければ協力するよ」


「よかった。私はプリーストのラケシス。よろしくね!」




 彼女はOKが出たサインを送ると、三人の仲間たちは嬉しそうにすぐに近寄ってきた。




「オレはファイターのアレクだ。よろしく!」


「ボクはシーフのリーフです。よろしくお願いします」


「あたしはパティ。メイジよ」




 三人の嬉しそうに自己紹介をする姿を見て、ハヤトはなおさら胸にチクッとした痛みを感じた。


 しかしながら、その痛みが別に感じる必要も無かった事がすぐにわかった。


 彼らは駆け出しというのもためらわれるほどに、戦いのセンスが無かったからだ。








 ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦






「ゴブリンが三匹か。俺達でも何とかなるだろう。さてどうやって戦・・・」


「よっしゃ! 今日こそは快勝してやる! うおぉぉぉぉぉ!!!」




 ハヤトが作戦の相談をしようとする前にアレクがゴブリンに向かって走って行った。




「おっ、おい、ちょっとまて!」


「まったくしょうがないな。いつも通りラケシスは回復。パティは魔法で援護を頼む」




 リーフはアレクの後を追い走り出す。するとすぐにパティは魔法の詠唱をはじめた。




「バルバド・ゴラ・ラグラゴラス。炎の精霊よ敵を焼き払え! バガル!!」




 パティの持つ杖の先から火球が飛んでいく。それは敵に命中することはなくアレクの横をかすめていった。




「おい! あぶねーだろ!!」


「仕方ないじゃない! 動いてる敵に魔法を当てるのって難しいんだから!!」




 そんな言い合いをしながらもアレクはゴブリンに会心の一撃を与えようと強烈な一撃を放つ。


 が、大振りな攻撃はゴブリンによけられて地面にガツンと当たる。


 そのすきに別のゴブリンの一撃がアレクに当たった。




「いってー! やりやがったな!!」


「大変! 回復しなきゃ。えーと、癒しの神メンヒルトよ。傷を癒す力を授けたまえ」




 ラケシスの回復魔法でアレクの傷がみるみるにふさがっていく。




「もう一発! バガル!!」




 パティの気合の入った二発目もゴブリンにかすることなくあらぬ方向に飛んでいく。


 リーフは素早く近づきゴブリンの攻撃を上手く避けてナイフで一撃を与えるが、武器のせいなのか力が無いせいなのか、あまりダメージは与えられて無い様だ。




「こんなんじゃ戦いにならないだろ!」




 ハヤトは盾を構えてゴブリンにチャージングを仕掛けると上手く当たりゴブリンが転がる。


 タイミングよくアレクの一撃が息の根を止めた。




 そんな感じで乱戦状態の戦闘は続き、ゴブリン三匹を倒すころにはアレクは傷だらけになりリーフは動きすぎて疲れ果て、ラケシスとパティの魔力は尽き果てていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る