第226話 えっちな拷問
ドンッ、と大きな音を立ててファング枢機卿がテーブルの上にボストンバッグくらいの大きさのある道具箱を置いて、開錠した。
苦悩の梨、ブレストリッパー……どう使うのかフィーには全く分からない、魅惑的な拷問器具が次々と出てくるが、それらは今回は使わない。いずれも後遺症の残るような器具ばかりだからだ。
しばらくごそごそとやっていたファング枢機卿であったが、やがて目当てのものを見つけたようで箱から何かを取り出して天高く掲げた。
それは、数本の
「おお~」
「なるほどなるほど」
ヒメネスとビグルスが感嘆の声を漏らす。しかしフィーはいまいちピンとこないようで呆けている。
「そんなもので拷問するの? それ拷問になるの?」
「ふっふっふ……余裕でいられるのも今の内だ。見てろ、今にそんなセリフ……」
フィーの質問には一切答えず、ファングは彼女のブーツを脱がせ始める。
「ククク……この拷問に耐えられ……んぐっ、くss……オ゛エ゛ェ……」
「ちょっと! 失礼でしょ! レディに対して!!」
実際臭いのだから仕方あるまい。まだえづいているファングを放っておいて、ビグルスが慌てて再度彼女にブーツをはかせる。
「くそっ、マジかよ……エルフの足はフローラルの香りがするって聞いてたのに違うじゃねーか……」
生き物である以上、汗で蒸れた足からそんな匂いがするはずがない。エルフに幻想を抱きすぎである。女の子に幻想を抱く中学生男子か。きっとエルフはムダ毛の処理なんてしないとかも思ってるに違いない。
エルフ舐めるなよ。元々は北欧伝承だから普通に体毛も濃いしひげも生えるぞ。
「クソッ、思い知らせてやる!」
復活したファングが羽根帚を持っておもむろにフィーの脇をこちょこちょとくすぐり始めた。どうやらくすぐりの拷問と言うことのようだ。椅子のひじ掛けに両手を固定された状態なので脇は閉じられているが、しかしそれでもファングはお構いなしに容赦なくくすぐり続ける。
「うひひひ……ちょ、ちょっと! あひゃひ、アハハハ……ちょ、くふ……っらあッ!!」
その刹那であった、固定が甘かったのか右手のベルトが外れ、速射砲の様なフィーの右ストレートがファングの顔面をとらえた。ファングは意識を失いこそしなかったが、突然のことに鼻血を出しながらしりもちをついてしまった。
「お前、違うだろーが!! いきなり脇から行くか普通! バカか!!」
どうやら拷問自体に起こっているわけではないようだ。ファングは鼻を抑えたまま目をぱちくりさせているが、そうこうしているうちにフィーは全てのベルトを外して立ち上がった。
「ちょっと……お前、脱いで座れ」
フィーがくい、と顎で椅子を指す。拷問されているのはフィーだったはずなのだが、あまりの迫力に誰も言い返せる雰囲気ではない。ファング枢機卿が渋々ローブを脱いで頭巾とパンツだけになり、椅子に座ると、フィーがベルトを締めてがっちり固定する。
「ベルトの固定も甘いし……エロ拷問の基本のキの字も分かってないわね……」
固定の終わったフィーは羽根帚を手に持って三人に諭すように話しかける。
「いい? こういうのは基本的に鈍感な、外側の部位からじっくり、じわじわ、じらすように、が基本よ。『基本の3J』よ! どうせあんた達あっちの方も似たような感じで奥さんに『単調だ』って呆れられてんじゃないの!?」
三人はフィーに罵られてしょんぼりしている。どうやら図星だったようだ。
「こうやって、まずは肩とか腹とか、そういうとこからじっくりよ……」
フィーが羽根帚で触るか触らないかくらいの距離でそろそろと動き続ける。しかしファングは全然平気な表情である。正直言ってフィーもこういったことは頭でっかちの耳年増である。大丈夫だろうか。
しかし段々と時間をかけて脇腹、胸、膝と、少しずつ体の内側、あまり皮膚の強くない敏感な部分に近づきながら触れてゆく。
「んふっ……んっ……」
少しずつ、ファングがうめき声を漏らし始めた。押し殺すような、くぐもった声……覆面パンツの中年男性でなければ、少し艶っぽさを感じさせる声である。
その声を聞いてフィーはにやり、と笑みを見せる。彼女の余裕の表情と反比例して、ファングはどんどん余裕がなくなり、顔が、そして全身が少しずつ紅潮してゆく。
「どう? そろそろ限界かしら?」
そう言いながらフィーは彼の乳首に羽根帚を這わせる。
「んんっ!……んふっ……ひあっ!?」
まるで乙女のような反応であるが、しかし実際は中年男性である。覆面パンツの。
フィーはノリノリで羽根帚を脇腹、脇の下、喉、乳首と攻撃を続ける。ファングは逃げようとしても身動きが取れず、段々と声を押し殺すこともできずに嬌声を上げ、地下室はなんとも艶めかしいような、気持ち悪いような、変な空気に包まれていった。
「んふっ、うひぁあははぁっ……んひっ!?」
「ふんっ、まあ、ざっとこんなもんよ!」
どうやらようやくフィーが満足したようで羽根帚をファングの体から遠ざけ、これでもかと胸を張る。ファングはだらしなくよだれを垂らしハァハァと荒い呼吸をして脱力しきっている。コレが美少女であれば随分とサービスシーンになるのであるが、しかしやはり、何度見ても、覆面パンツの中年男性である。
拘束を解かれたファング枢機卿はカクカクと膝を笑わせながら数歩歩き、ひざを突いて四つん這いになってしまった。よほど『効いた』ようだ。
「フフン、コレで私の実力がわかったかし……」
いい終える前にヒメネスとビグルスに押さえられ、フィーは拘束椅子に着席させられ、そのまま両手足のベルトを締められた。
「あ……え……? 私の、番?」
当然である。ちょっと前まで何をしていたのか忘れているのかこの女は。
ファング枢機卿がニヤリ、と笑ったのかどうかは覆面をしているので実際よく分からないが、ともかくそんな雰囲気を見せながら羽根箒を手にする。
「あ……お手柔らかに……」
フィーは半笑いでそう言うが、ファング枢機卿はあまり冷静な状態ではないように見受けられる。
スス……と、羽根箒の毛先がフィーの肩をなでる。ぞくぞく、とおぞましい感覚を受けてフィーの肩には鳥肌がたった。いよいよ本番である。
「ひぃ……いひひ……」
触れるか触れないかくらいの距離でファング枢機卿の必殺の羽根箒が走る。フィーは思わず身をよじりながら声を押し殺している。様子を見る限りではくすぐりに対してフィーはファングよりもだいぶ弱いように見受けられる。
この小説は一般向けなのでフィーはさすがにファングの様に胸を丸出しにはしてはいないのだが、しかしいつもの胸元の大きく開いたトップスにフトモモも露出している。少しきわどい衣装だ。
その胸の谷間に、内ももに、鎖骨のくぼみに、耳の裏にと、少しずつ羽根帚はその侵食領域を広げていく。フィーは声を噛み殺しながらそれでも何とかこらえてはいるのだが、しかしその苦悶の表情こそが男たちの劣情を刺激してゆくのだ。非常にまずい状態である。
(私……自分自身が拷問されてる最中だってのに……なんで敵に拷問の指南なんてしちゃったんだろ……!!)
フィーはようやく後悔し始めたのであるが、しかし今更もう遅い。その場の勢いだけで行動しているからこんなことになるのだ。
そうこうしているうちに、ビグルスとヒメネスも羽根帚を持ち出したのだった。
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