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……それは白い月の光だった。
いつの間にか、みちるの見る真っ暗やな闇夜の中に、一つの明るい白い月が浮かんでいた。
その白い月の照らし出した(手に傷のある)男の子の姿は、みちるが期待した……くんの姿ではなかった。
そこにあったのは、みちるの幼馴染みである、……の姿だった。
……ちゃん?
思わず、みちるは目を丸くしてそう呟いた。
すると、……はにっこりといつのように明るい、みちるがすごく安心できる昔からの柔らかい、誰しもを包み込むような優しい笑顔で笑ってから、みちるの体を自分のほうに引っ張って、そして、強引に、そのまま、天の原みちるの華奢な体をぎゅっと、優しく抱きしめた。
みちるはすごく驚いた。
優しい……ちゃんは、いつもふざけてはいるけれど、……ちゃんはすごく穏やかな人で、こうして無理やり、女の子の体を強引に抱きしめるような性格の男の子ではないことを、……ちゃんの幼馴染みの早みちるは世界で一番よく理解していたからだった。
でも、みちるは全然嫌じゃなかった。
ううん。
むしろ、ずっと前からこうして欲しい、と思ったりした。
……ちゃんはなにも言わなかった。
みちるもなにも言葉を話さなかった。
二人(世界)は静かに沈黙していた。
そこには、真っ暗な闇と、そして二人をその闇の中に照らし出している白い月の光だけがあった。
……の安心できる意外に大きな腕の中で、ずっと忘れていた、すごく懐かしいことをみちるは思い出していた。それは、今よりもずっと小さな子供のころのこと。……泣き虫のみちるがよく泣いていると、いつもこうして……ちゃんが私のことを優しく慰めてくれたな……。そんなことを思ってみちるはにっこりと微笑んだ。まるで昔の、今よりもずっと小さな女の子だった自分に戻ったみたいに。
子供のころ、すごくやんちゃだったみちるはよく、幼馴染みの……ちゃんに、迷子になった自分を探してもらうことがあった。
そのとき、みちるはいつも不安で泣いてばかりいて、……ちゃんはそんなみちるを安心させるためにいつも優しくにっこりと笑っていた。
ありがとう、……ちゃん。
やがて、みちるは……ちゃんの腕の中で言った。
……なんのありがとう? みちるを見て、……ちゃんは言う。
……あのころみたいに、私を、ちゃんと迎えに来てくれて。
……の顔を正面から見ながら、にっこりと笑って天の原みちるは、その両目から透明な涙を流しながら、……にそう言った。
そこでみちるは夢から目覚めた。
……こうして、みちるのひとりぼっちの夜は、終わった。
見ていた夢の記憶を、朝、太陽の光の中で、目覚めたみちるは覚えてはいなかった。
それはもう、みちるの知らない遠くの世界のどこかに消えて無くなってしまったのだ。
それは、きっと、どこかに行ってしまった。
広大な緑色の世界の上に吹く、目には見えない透明な、鳥の巣の開けた襖の間から吹き込んでくる気持ちの良い早朝の夏の風のように……。
その風の中で、みちるは自分の頬の上に残っている涙のあとを静かに拭った。
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