112 私、今はとっても力持ちなんです……
魔の森に着いた時、かっちゃんと野上君が変なことを言い出した。
「変だ。
「ああ、これは異常事態かもしれないね」
私が二人の言葉に首を傾げていると、それに気が付いた野上君が眼鏡のブリッジを上げながら教えてくれた。
「魔の森の入り口に野営用のテントが無いのが変なんだよ。と言うか、ここに誰かいたという形跡すらないのが変なんだよ」
「ごめんなさい。私には何が変なのか分からないよ……。入り口じゃなくて、森の中に野営用のテントを設置したんじゃないの?」
私がそう言うと、野上君は首を振ってからもう少し詳しく教えてくれた。
「魔の森は、侵入を硬く拒むんだ。中に入ろうとしても、いつの間にか入り口に戻って中に入ることが出来ないんだよ。だから、中に入れないはずのアグアグたちは、魔の森の入り口に野営用のテントを設置する以外にないんだよ。それなのに、何も無いのがおかしいんだよ」
そう言われた私は、前にヴェインさんとアーくんに聞いた魔の森のことを思い出していた。
そうだ、二人も魔の森を人が踏み込めない魔境って言っていたっけ。
でも、そうなるとヴェインさんとアーくん、それに他の騎士の皆さんはどこに行ったんだろう?
行違った?
そんなはずない。
だって、すれ違ったら気が付くはずだもの。
私がそんなことを考えていると、シロが鳴きだしていた。
「わんわんわん!!うぅぅぅ……。わんわん!!」
はげしく鳴いたと思ったら、一人で森の中に入って行ってしまったのだ。
私は、驚きながらもシロを一人にはできないと、慌てて追いかけていた。
「シロ!!待って、一人は危ないから!!」
そう言って、私が走り出すと、それを追ってかっちゃんと野上君も森に入っていた。
森に入った私は、その穏やかな空気に呆気に取られてしまっていた。
そよ風が吹き、木々を優しく揺らし、木漏れ日が降り注いでいた。
小鳥たちの鳴き声も聞こえて、心が穏やかになるのが分かった。
想像していた恐ろしい場所とのギャップにボンヤリとしていると、シロが少し遠くで止まっていたのが見えた。
私は、シロに追いついてその小さな体を抱き上げてから、シロの額に自分の額を突っつけてお説教してしまっていた。
「シロ、勝手にダメでしょ?めっ!」
そうやってシロを怒っていると、後ろから追いかけてきたかっちゃんが唖然としたように言ったのだ。
「信じられない……。前に、しずを探しにここに来たことがあったが……。あの時は、魔物が徘徊して、周囲にはどす黒い殺気が満ちていたんだが……。なんだ?この澄んだ空気は?」
そう言って驚くかっちゃんに同意するように、野上君も周囲の穏やかな空気に目を見張っていた。
かっちゃんは、私と野上君に真剣な表情で奥に進むことを提案していた。
「ヴェインたちも奥にいる可能性がある。俺たちも行ってみよう。だが、注意だけは怠らないでくれ。何があるか分からないからな」
私と野上君はかっちゃんの言葉に深く頷いてから、武器をそれぞれ手に持って慎重に奥に進んだ。
かっちゃんは刀に手を掛けて、野上君は鉄扇を構えて、私は……とりあえず一番硬くて重い槌をアイテムリストから取り出して担いで見せた。
そんな私に、かっちゃんと野上君はそれぞれが違う表情になっていた。
かっちゃんは、引きつったような複雑な表情で、野上君はというと……。
何故か爆笑していた。
「ぶっ!!ぶふふふ!!何それまじで!ギャグでしょうが!!静弥ちゃん最高に面白んだけど!!」
「静弥……。お前のばぐったゴリラ?の能力は知っていたけど、実際に見ると……。すごいな……」
「えっ?何か変だった?別の武器の方良かったが良かった?」
「そうじゃねーよ!!」
「ぶっふふふ!!カツ、そのツッコミナイス!!てか、静弥ちゃん、気にするところ違うから!!ちなみにどの位重いのそれ?」
二人が何を気にしてるのかはよく分からないけど、とりあえず槌の重さが気になっている野上君に担いでいた槌を差し出した。
野上君は、好奇心に満ちた瞳で私の差し出した槌を片手で受け取って……。
「ふえ……?ぐえっ!!!」
地面にべしゃってなっていた……。
うん。ごめんなさい。今の私って、超力持ちだから……。
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