69 あいつとの思わぬ再開

 結果から言おう。俺たちは、魔の森に入ることが出来なかった。

 何度足を踏み入れても、気が付くと森の外に出されていた。

 ソウのスキルを使っても無駄だった。

 森の木々を薙ぎ倒して進もうとしても、木々は直ぐに再生されて、全く踏み入ることが出来なかった。

 持ってきていた食料も無くなり、近くで動物を狩りつつ何度も魔の森に挑戦したが無駄だった。

 

 ソウは、何も言わずに俺の無茶に付き合ってくれたが、このままでは前に進まないと考え直した俺は、一度王都に戻って、もう一度魔の森について情報がないか調べることにした。

 それと同時に、ソウがベルディアーノ王国を離れる時に、念の為にと置いてきたという式神からの報告で、国が傾いていることを知った。

 王宮の中までは探れなかったため、詳しくはわからないということだったが、そんな国どうでもよかった。

 俺には、静弥のほうが大事だった。

 

 そして、王都に帰って直ぐに冒険者組合に行った時に、やけに印象の薄い男から、魔の森から帰還したという男の話を聞いた俺は、なんとしてでもその男から話を聞き出したかったが、印象の薄い男は、気が付けは消えていた。

 だが、男は手がかりを残してくれたのだ。

 男は、補佐官と言ったのだ。

 その言葉から、ソウと手分けして調べた結果、ヴェインという男のもとにたどり着いた。

 

 その男は、一ヶ月以上前に行方不明になり、帰ってきた時に美少女をお持ち帰りしていたという話を聞いた俺は、もしかしたらという気持ちで一杯になっていた。

 

「ヴェインという男が連れ帰ったという美少女……、気になるな」


「えっ?お前、幼馴染ちゃんが好きなんじゃなかったのかよ!この浮気者!!今頃、香澄静弥は、泣いてるぞ?」


「は?だから、その美少女が静弥だと」


「えっ!あらやだ、恋って盲目ぅ♡かっちゃんには、あの子が美少女に見えるフィルターが掛かってるんだね?」


 そう言って身をくねらせてしゃべるソウにイラッとした。それに、俺をかっちゃんと呼んでいいのは、この世で静弥だけだと言う思いから、ついつい怒鳴りつけていた。


「お前がかっちゃん言うな!!あいつは、世界一可愛いんだよ!!」


「はいはい。お前には悪いけど、俺にはどう見てももっさりメガネの地味子ちゃんにしか見えなかったが?それに、凄い猫背で、前髪も超長くて、顔なんて見えなかったしなぁ?」


「あいつの可愛さは俺だけが知ってればいいから、お前は見んな!」


「はいはい。ごっそさんです~。おっと、奴さんのしっぽ掴んだぜ?」


 そんなくだらない話をしていると、式神を飛ばしていたソウが言った。

 ここ数日、俺達はヴェインという男を嗅ぎ回っていた。奴は、毎日どこかに出かけていたが、その行き先は全く掴めていなかった。

 奴は、毎回違う道を通り、俺たちを警戒するように動いていたのだ。

 そんな奴に対して、ソウは式神を各路地に仕込んでセンサーを張っていたのだ。

 その結果、この日初めてヤツの足取りを掴むことが出来たのだ。

 奴は、三角屋根の家に入って行った。

 そして、日付が変わる前にその家を後から入っていった男と共に出て行った。

 

 そこに静弥がいるかも知れないと思うと直ぐにでも会いに行きたかったが、既に遅い時間だったこともあり、俺は日が昇ってからと考えて、その場を後にしようとした。

 しかし、俺の気配察知とソウの式神センサーに不審な人物が引っかかったのだ。

 気配を探ると、ヴェインとも、さっきヴェインと一緒にいた男とも違う気配だった。

 

 今にでも飛び出したいところだったが、ソウに一度様子を見たほうがいいと止められたため、少し離れた場所で窺っていると、家と併設されている店らしき扉を開けている姿が目に入った。

 ソウには止められたが、嫌な予感がした俺は開いていた扉に近づいていた。

 開いていた扉から、明かりが漏れているのが見えた時、しずの知り合いなのかと思ったが、明かりが点いてすぐに、その光が消えたことで何かあったのではないかと、急いで扉を開いて中に入った。

 すると、暗がりで誰かが叩かれているのが気配で分かった。

 

 考える前に体が動いていた。

 全力で、横たわる気配に覆いかぶさる人物を引き剥がし殴り飛ばしていた。

 殴る感触から相手は男だと分かった。

 男は、何やら口走っていたがそれを無視して、男が動かなくなるまで殴り続けていた。

 

 その頃には、暗闇に目がなれていた。

 男を大人しくさせた後に、横渡る気配に視線を向けた。

 

 そこには、薄着でボンヤリとした表情の静弥がいた。

 唇が切れて、頬が腫れている姿が目に入った時、あまりの痛々しさに抱きしめていた。

 

 腕の中に感じる、求めていた柔らかく温かい体温を感じて、泣きたくなった。

 

 俺の腕の中で、ぼんやりしていた静弥は、堰を切ったように泣き出していた。

 

「うぁぁぁ!!うっ!!ひっく!!わ、わたし……、し、死んじゃうって……。こ、こわ。怖かったよ!!ヴェインさん!!ヴェインさん!!わ、わたし、わたし!!うぁぁぁぁん!!」


 必死に助けを求めるその声は、俺ではない男の名を呼んでいたことに、知らず知らず、抱きしめる腕の力が強くなっていた。

 

 

 その後、外で様子を窺っていたソウが、俺が殴り飛ばした男を縄で縛って、騎士団に報告に走っていた。

 

 気を失った静弥を離して、横にさせていると、後ろから襲いかかられていた。

 まだ仲間がいたのかと、舌打ちしながら腰の刀を抜いていた。

 

 結局、俺と打ち合っていた男が、静弥が助けを求めたヴェインだと分かり、苛つきながらも刀を収めた。

 

 こうして、静弥と思わぬ形で再会することとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る