59 彼女の幼馴染だという男
その後、事の報告をするために、中隊本部にソージを連れて向かうことになった。
家にカツヒトを残すことはなにかと心配だったが、アークが居れば大丈夫だと考え直して向かった。
走るような速さで歩いていたが、ソージは何かを察したのか、何も言わずに黙って俺の速度に付いてきた。
中隊本部に着いた俺は、直ぐに中隊長の執務室に向かっていた。
今日は、大人しく書類仕事をしていた中隊長に、ソージは俺達に話したことをもう一度語った。
中隊長は、話を聞き終えた後、難しい表情をしながら言った。
「分かった。大隊長と陛下に報告してくる。ソージと言ったな。付いてこい。ヴェインは、お嬢ちゃんのことが心配だろうから、このまま戻っていい」
そう言った中隊長は、ソージを連れて王城に向かった。
俺はと言うと、少しでも早くシズの元に戻ろうと、全力疾走していた。
走る間、あの日見た光景が俺の頭をよぎっていた。
嫌な予感のした俺が、シズの家に向かった時のことをだ。
ドアノブが壊されて、店の入口が開いているのを見た俺は、溢れそうになる殺気を必死に抑えながらも、自分に冷静になれと言い聞かせて、身を潜めながら扉を開けた。
逸る気持ちを抑えて中の様子を窺うと、中に三人分の気配があった。
そのうちの一つは、シズのものだとすぐに気がついた。
シズの近くに一つ。距離を取るようにもう一つ。
腰の剣に手を掛けて、抜きながらシズの近くの気配に切りかかった。
相手は、既の所で俺の剣を弾いていた。
シズから離そうと、剣を振るうも相手はそれなりの使い手らしく、埒が明かなかった。
剣を合わせながら、もう一つの気配を探ると、意識を失っているようだったので、剣を合わせている男に怒気を孕んだ声で言い放った。
「どういうつもりだ。シズから離れろ」
俺がそう言うと、相手が意外なことに言い返してきたのだ。
「お前こそ何者だ。しずを襲ったやつの仲間か?なら、お前も半殺しだ」
「は?何を抜け抜けと!!お前とあそこで伸びているやつでシズを襲ったんだろうが!」
話は平行線のまま、剣を合わせること数分。
打ち合いは、アークの言葉によって終わったのだった。
「兄様!!待ってください!!その男は、シズを助けてくれたんです!!」
鍔迫り合いの状態で、互いに睨み合っていると、さらに別の声が言った。
「ちょっ!カツ、待て待て!!その人は、香澄を保護してくれている、ヴェインさんだ!!剣を納めろ!!」
その声を聞いた、目の前の男は何故か俺に、さらなる殺気を放ってきた。
それに気が付いたのだろう、慌てたように謎の声は言った。
「カツ!!香澄が泣いて縋った相手だとしても、お前のそれはお門違いだ!!」
男の言葉に、俺は力の限り目の前の男の剣を弾いていた。
シズが泣いて縋った?どういうことだ?
そんなことを一瞬考えたが、相手の男の吐き捨てた言葉を俺は聞き逃さなかった。
「こいつが、ヴェイン……。しずが助けを求めた相手……」
こんな状況だと言うのに、俺は一番に俺のことを思い出して助けを求めたという事実に嬉しさがこみ上げていた。
そうしていると、アークがシズを介抱している姿が目に入った。
俺は、剣を収めてアークに聞いた。
「アーク、シズは?」
「頬が腫れて、唇も切れてます。頭も打っているようで、瘤になってますね。幸いなことに、衣服に大きな乱れはないので、乱暴はされていないようです。ですが、早く医師を呼ぶべきですね。ポーションがあれば、直ぐに傷は治るとは思いますが、シズに出してもらわないといけないので、今は医師に頼る他にないですね」
大きな外傷はなさそうだと聞いた俺は、安心した。
シズをそっと抱き上げて、彼女の部屋に運ぼうとしたが、謎の男がそれを遮った。
「おい、俺がしずを運ぶ」
「俺が運ぶ。お前はここにいろ。聞きたいことが山ほどある」
俺がそう言うと、謎の男は悔しそうに顔を歪めて押し黙った。
シズを寝かせている間に、アークが息を切らした女医を連れてきた。
診察をしてもらうため、俺とアークは部屋を出て診察結果を待った。
部屋から出てきた女医が言った。
「顔と頭の打撲と、唇が切れていること以外に外傷はありませんでした。それと……、性的に乱暴されたという形跡はありませんでしたので、安心してください。これから、熱が上がっていくと思いますので、解熱剤を置いていきますね。明日また診察に来ます」
女医に礼を言って見送った後に、店に残したままだった謎の男達に声を掛けた。
「それで、お前たちは何者なんだ?」
俺がそう言うと、俺と剣を合わせた方の男が言ったのだ。
「俺とそこにいるメガネは、しず……、静弥の……。同郷の者だ……」
その言葉を聞いた俺は、シズがクラス単位でこの世界に召喚されたという話を思い出していた。
そんな俺に、男は続けて言った。
「俺は……、しずの幼馴染だ。だから、これからは俺がしずを守る……。もう、しずを一人にしない……。絶対だ。もう間違わない。奏弥さんとの約束を今度こそ守る……」
これが、俺とカツヒトとの最低最悪な出会いだった。
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