47 私はその事実を受け入れられない
私が一人で考えている間も、エレナさんはヴェインさんにくっついて楽しそうにしていた。
そして、気が付いたら、私はヴェインさんの腕に抱きついてエレナさんに言っていたのだ。
「だ、駄目です!!」
自分でも驚いたけど、ヴェインさんも驚いた表情で私を見ていた。
すると、エレナさんは楽しそうにしながら、私が抱きついたのとは別の腕に絡みついて挑発するように言ってきた。
「あらあら?あなたにそんな事言う権利あるの?」
言ってしまえば、そんな権利なんて無いです。何も言えない私は、黙ってヴェインさんの腕をさらに強く抱きしめていた。
そんな私を面白そうに見ていたエレナさんは、ヴェインさんの耳元に唇を寄せて何かを囁いていた。
「うふふ。良かったわね。ヴェイーン。あたしのおかげよぉ。今度何か奢ってねん。それじゃ、もうちょっと揺さぶりますかぁ」
「ちょっ、エレンやめろ。抱きつくな。骨がゴリゴリ当たって痛いから離れろ」
「んまぁ!失礼な。乙女に向かってなんてこと言うのよ」
「おまっ!!誰が乙女だ!!」
「うっさいわ!!何よ、逆の腕は美少女ちゃんのお胸がたゆんたゆんで、とっても気持ちいいわよねぇ?」
「たしかに……、って何を言わせるんだ!!」
「ふんっだ!!ヴェインがそういう気なら、あたしだって!!」
何やら、二人で肩を寄せ合って楽しそうに話していたと思ったら、エレナさんがヴェインさんのほっぺにキスをしだしたのだ。
呆気にとられて見ていると、ヴェインさんの頬には真っ赤なルージュの痕が……。
なんだかその光景がショックで、私はヴェインさんに抱きつく力が弱くなっていった。
「おほほほぅ~。あたしは、ヴェインとこんなに仲良しなのよん」
「ちょっ!お前、気持ち悪いことするな!!」
エレナさんのキスに照れているヴェインさんの姿と、勝ち誇ったようにそう言って微笑むエレナさんに、私はさっき気が付いたばかりの気持ちを吐き出していた。
「―――なの」
「ええぇ?なぁにぃ?聞こえなぁい」
「ヴェインさんは、私にとって父さんみたいな人なの!!だから、ヴェインさんを取らないで!!」
私はそう言って、ヴェインさんに思いっきり抱きついていた。
いつの間にか、私にとってヴェインさんは、父さんみたいな存在になっていたのだ。
多分、ニカッと笑う姿がいつか見た父さんの笑顔と重なって見えた時から、私にとってヴェインさんはかけがえのない大切な人になっていたのだと思う。
私としては、父さんがいつの間にか恋人を作っていて、その女性が急に私の母親のように振る舞ったみたいな、そんな不愉快さがあったのだ。
うん。私って、ファザコンだったんだね……。
そんな私を見たエレナさんはというと……。
大爆笑していた。
もう、美人が台無しというくらいの大笑いだった。
「あはははは!!マジか!!そう来るのかよ!!ありえねぇわよ!!ひーっ!!腹筋割れる!!げほっ!!父親とかマジないわ!!男として見られる以前の問題だわ!!ひー、ひーっ!!おかしすぎ!!」
そう言って、地面を叩いて涙を流しながら転げ回っていたのだ。
ヴェインさんはというと、何故か膝を抱えて地面にのの字を書いていた。
「どうせ俺なんて、父親ポジションだよ。知ってた。でも、せめてお兄さんと言って欲しかった……」
その後、一頻り笑ったエレンさんは、ニコニコとした表情で私に謝ってきた。
「うふふ~。ごめんね?ついつい面白くてからかっちゃった。てへ?ごめーんね?あたしとヴェインは、ただの幼馴染だから安心して」
「幼馴染……」
「そうそう。だから安心してね?シーにゃん。うふふ~」
そう言ってニコニコするエレナさんにアーくんは呆れたように言った。
「エレジーロ兄さん……、いい加減にしてください。これ以上兄様をからかうのは止めてください」
「もう!!あたしのことはエレナって呼んでって言ったでしょう!!百歩譲って、エレンね!本名は可愛くないから呼ばないで欲しいわ!!もう、アグの意地悪ぅ~」
「正直、気持ち悪いです。昔のエレジーロ兄さんを知っている身としては……」
「いやん!昔のあたしのことは忘れてって言ったじゃないのよぉ~。体は男だけど、心は乙女なのよん」
「はぁ。でも、女性が好きなのでしょう?」
「もちろんよ!!男と付き合うなんて死んでも嫌よ!!あたしは、可愛くて柔らかくていい匂いの女の子が好きなのよぉ。そう、シーにゃんみたいなね。でも、ヴェインとアグが本気そうだから、あたしは……、今はただ見守るだけにするわん♡」
途中から、アーくんとエレナさんの会話が頭に入ってこなくなっていた。
だって、こんなに美人で綺麗な人が男の人?
ないない、あり得ないよ!!
ちょっと、背が高くて、声がハスキーだけど。
どう見ても完全に女の人だよ!!
その後、エレナさんは仕事があるって行ってしまった。
本当に嵐のような人だったよ。
それに、男の人だって絶対に信じられないよ。きっと私、からかわれたんだね……。そうだと言ってよ。
三人での昼食は思わぬ人物の登場で、慌ただしく終わってしまった。
アーくんも、午後の訓練の時間になるからと言って、行ってしまったのだ。
その場には、なんだか気まずい雰囲気の私とヴェインさんが残されたのだった。
でも、ヴェインさんは大人だった。
気まずい雰囲気を吹き飛ばすように、ニカッと笑って言ってくれたの。
「エレン……、エレジーロのことは気にするな……。変なやつだが、良いやつではある……。それじゃ、中央図書館に行こうか」
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