34 私と美女

 お姉さんが出ていったのを首を傾げて見ていると、後ろにいたヴェインさんとアーくんが私の出した石ころについて聞いてきた。

 

「なぁ、シズ……。これはどこで……?」


「兄様……、シズですから何があっても心を強く持たないといけませんよ」


「あっ、ああ。覚悟してるさ。それで……」


 二人の言っていることがよく分からないけど、こんな石ころを出した私を笑うこともなく真剣に向き合ってくれる二人に嬉しくなった私は、ついつい緩んでしまう表情を取り繕うこともしないで、素直な気持ちと表情で答えていた。

 

「森で拾いました」


 素直にそう答えると、何故かヴェインさんとアーくんは眩しそうに目を細めていた。

 あれ?何か眩しいものでもあったっけ?

 二人は何を眩しく感じたのか不思議に思っていると、震える声でヴェインさんが言った。

 

「まさかとは思うけど……、いや……。ふうぅ。シズ、森のどこで拾ったんだ?もしかして魔物の死骸の近くとかだったりするか?」


 ヴェインさんに聞かれた私は、石を拾った場所について考えた。

 別に、魔物の死骸の側ではなかったけど……。

 そこまで考えてから私は思い出していた。

 そうだ、魔物を倒した後に、その死体を焼いて……。なんとなく血の跡にキュアポーションを撒いて……、それで焼いた時に残った残骸を埋めて戻ってきた時にこの綺麗な石が落ちてたんだった。

 

「えっと……、死骸のあった場所に落ちてましたけど?」


「そ、そうか。あぁ、あれだ。もしかして、シズが魔物を討伐して、その死骸に何かしたりしたのかな?」


「はい。私のいたところでは、死体は火葬するものだったので、焼きましたけど?」


「そうか……。ええと、焼いた他に何かしなかったか?例えば、黒い塊にだ」


「黒い塊?う~ん、あったかなぁ?ごめんなさい。そのあたりは、よく覚えていないです。最初の頃は無我夢中だったし、ある程度戦えるようになってからは、討伐したらすぐに焼いて、その場所にキュアポーションを撒いていたので……」


「そうか……。それで、この石は?」


「キュアポーションを撒いた場所に落ちてましたけど?」


「あああああぁぁ……、やっぱりか」


「兄様……。シズのすることです……。諦めましょう……」


 あれ?二人共どうしたんだろう?

 不可解な行動を取る二人に首を傾げていると、奥の方から人の話す声が聞こえてきたので、気になってそっちを向くのと同時に、奥の扉から受付のお姉さんと一緒に背の高い美女が現れた。

 

「はっ?まさかありえん!!もしそんな上物が来たとしたら、何が何でも買い取るさ。それが本当なら来月分の予算に手をつけてもいいが、キャシーの見間違いだ」


 そんなことをいいながら、奥から現れた美女は、見惚れるくらいの美しさだった。

 長身で長い手足と、メリハリのある胸から腰、そしてくびれた腰からの美しいお尻のラインは、同性の私から見ても見惚れるくらいだった。

 それに加えて、エキゾチックな褐色の肌に、ハニーブロンドの髪は豊かに波打っていてとても良く似合っていた。

 胸の大きく開いた服から零れそうなお胸が、本当にこぼれてしまいそうでハラハラしてしまった。

 そして極めつけは、神秘的な紫水晶のような瞳と、赤い口紅が引かれた唇がとても大人の色気を醸し出していて、私はその美女に目が釘付けになっていた。

 そして、その美女と私は目が合った。

 

「もし、仮にだ。仮に本物の魔石だとしたら、囲い込んぶぶぶふぅぅぅっぅ!!!!!!!」


 えっ!目が合った瞬間、目の前の美女が鼻血を吹き出していたことに私は驚き、何度も瞬きを繰り返した。

 

「や、ヤバい!!キャシーお手柄よ!!今世紀最大級の大物よ!!はぁぁん♡嘘みたい……。タイプドンピシャじゃないのよ!!じゅるっ!!はぁぁん♡何これ最高すぎるわ!!大きな瞳は黒曜石のような美しさがあって、小さなお口はさくらんぼのようでむしゃぶりつきたいくらいよ!!それに、あのたわわな果実が最高に美味しそうよ!!あの白い果実に触れればきっと柔らかくて舐めてしゃぶれば甘くて蕩けてしまうに違いないわぁ♡きっと触ったら、あたしの指が埋まってしまう……、いえ、違うわ。優しい弾力であたしの指を押し返すのよ!!はぁぁん♡あのたわわな白い果実に埋もれたい……、あの子と一晩よろしくできるなら、あたしの全財産を注ぎ込んでもいいわ!!」


 鼻血をものすごい勢いで出し続ける美女は、謎の言葉を話しつつも、カウンターを飛び越えてぐっと私に顔を寄せてきたの。

 現在進行系で大量の鼻血が美女の鼻から滝のように流れていき、足元に真っ赤な水たまりが出来ていた。


 えっ?これ危ないんじゃない?致死量出ちゃってませんか?

 心配になった私は、美女に言っていた。

 

「あの……、大丈夫ですか?えっと……、このハンカチ使ってください。止血しないと……」


「ぶぅふぅぅ!!天使!!マジ天使!!」


「えっ!天使が見えるんですか!?大変!幻覚が見えてる……、どうしよう……、ヴェインさん、アーくん、美人なお姉さんが死にそうだよ!!増血剤?ポーション?どうしようどうしよう!!」


 鼻血の出し過ぎで幻覚が見え始めている美人を助けるにはどうしたらいいのかと、後ろにいるヴェインさんとアーくんを振り返ると、二人は怒ったような顔をしていたけど、優しい笑顔を見せてくれた後に何故か私の目と耳を塞いでいた。

 

「このクソ上司のクソ姉!!!うちの子を変な目で見るな!!よほど臭い飯が食いたいみたいだな!?あ゛あ゛ん゛!!」


「兄様……、口調が荒くなってます。ここは紳士的にですよ?ということで、そこのド変態の痴女さん、公然わいせつ罪で連行させていただきます。ああ、そうだ。連行する際に、手違いで罪人が事故にあって五体満足でない状態になってしまっても事故なら仕方ないですね。事故ならどうしようもないですよね?」


「待て待て!!ヴェインと、毛根キラーアグローヴェの連れか!?ちょっ、たんまたんま!!今の無し!!だから勘弁してくれ!!あたしは女だぞ!?あんた……、まさかあたしの毛根も死滅させる気なのか?そんな事されたらあたしは弟みたいにスキンヘッド……。駄目だ駄目だ!!そんな事になったら、あたしの魅力は低下してしまう!!そんな恐ろしい事になったら、大勢いるあたしの子猫ちゃんに小リスちゃん、小オオカミちゃんに子犬ちゃん達に嫌われちゃうわ!!勘弁してください!!!」


 目と耳を塞がれていたので何があったのか分からないけど、少ししてヴェインさんとアーくんが離してくれたから目を開けると、何故か真っ赤な水溜りの上で土下座する美女の姿があった。

 一体あの短時間で何があっただろう?

 ヴェインさんとアーくんに聞いても、知らない方がいいこともあるって教えてくれなかった。

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