脱出編
19 私と垣間見る異世界事情
自分がやらかした数々の無礼な行動を考えて、身動きがとれないままヴェインさんと見つめ合うこと数秒。
ヴェインさんは、耐えられないとでも言うように、両手で顔を覆って弱々しく言った。
「ごめんな……。俺、硬くて……。それに、臭いだろう?すまない。だが、目の前で小さく震えるシズから離れたくなくて……。考えた結果、寝苦しいとは思ったが、膝枕をだな……」
「そっ、そんな事ないです!!確かに硬いとは思いましたけど、好きです!!」
「す、好き!!えっ、俺?えっ?」
「はい。シトラス系の好きな匂いだと思いました!!臭くないです!!」
「あっ、そう……。匂いが好きなんだね……。匂いが……」
「?」
臭くなんて無かったと、力説したつもりが何故かヴェインさんは少しがっかりした様な沈んだ声を出していた。
あれ?伝わらなかったかな?
「ヴェインさん(の匂い)好きです」
あっ、今度は伝わったみたいかな?ちょっと嬉しそうな顔になってる。
うんうん。イケメンは沈んだ顔よりもそう言った明るい表情が良いと思うよ。
そんなことを考えていると、呆れたようなアーくんの声がした。
「兄様……、匂いのことですからね……。はぁ。それよりも、いい加減兄様の膝枕から退いてください。そんなに、膝枕されたいなら、僕が……、兄様よりも少しは硬さはないと……、ってそうではなく。ゴホン!!落ち着いたなら、きちんと説明をしてください」
アーくんから言われたことで、まだ膝枕状態だったことを思い出して慌ててヴェインさんの膝枕から転がり落ちた。
転がり落ちた低姿勢のまま、再びの謝罪。これまた土下座で。
「ヴェインさんごめんなさい。また大泣きした上に、膝まで貸してもらって!!」
「いいさ。それよりも……」
「はい。きちんと説明させて―――」
「いや、その前に風呂を借りよう」
「はい。お風呂を―――?お風呂?」
「ああ。貸してくれるんだろ?」
「はい……。えっ?でも?え?」
覚悟を決めて今までのことを二人に話そうとした私は、出端をヴェインさんに見事に挫かれていた。
混乱する私に、何故かヴェインさんは恥ずかしそうに言った。
「シズは、俺に気を使って臭くないと言ってくれたが、俺とアークは確かに汚れている。できれば身綺麗にした上で話を聞きたいと思うんだ。いいかな?」
ヴェインさんの申し出に頷いてから、二人をお風呂に案内した。
「えっと、使い方は大丈夫だとは思いまずが……。一応軽く説明しますね」
そう言ってから、脱衣所、内風呂、露天風呂の順番で軽く説明をする。
「えっと、ここは脱衣所です。この棚の中にある籠に服とか入れてください。でも、今回は二人の服を洗濯するので、脱いだ服はあっちの籠にお願いします。それと、あそこの鏡の前にあるドライヤーは好きに使ってくださいね。それで―――」
「ちょっ、待て待て。待ってください。シズ、ドライヤーとはなんですか?」
「えっ?髪を乾かす道具ですよ?」
私は、それがなにか?って感じながらも、ドライヤーを実際に使ってみせた。温風をアーくんに向けると驚いた表情をした後に、何故か諦めたように言った。
「はぁ。今はいいです。今は……」
「それならよかったです?それじゃ、次に内風呂ですけど、分かっているとは思いますが、最初に洗い場で体を洗ってから湯に浸かってくださいね。それと、シャンプーとコンディショナーとボディーソープは、私が使っているものを使ってくだい。シャワーは、こっちを捻るとお湯が出て、こっちを捻ると水が出るので―――」
「シズ!!待って、待ってください!シャン?コン?何ですそれは?なにかの呪文ですか?それに、お湯が出る?何のことです?湯に浸かるだと?そんなもったいないことできるか!」
「え?」
こんなところでまさかの異世界ギャップとでも言うような事実がボコボコ出てきていた。
アーくんの口ぶりだと異世界にお風呂ってないの?
えっ、でもさっきヴェインさんお風呂借りたいって……、え?
「えっと……。シャンプーが髪を洗う洗髪剤で、コンディショナーは髪の毛の表面を保護して、キューティクルを―――」
そこまで説明したところで、二人がちんぷんかんぷんだという表情をしていたことに気がついたため、説明をさらに簡単に端折った。
「えっと、洗った後の髪を整えるものです。それと、ボディーソープは、体を洗う液体石鹸と考えてください。シャワーは、このホースに付いている部品からお湯とか水がでる道具です。お湯は、沢山あるので遠慮なく使ってくださいね」
分かってくれたか心配で二人の顔色を伺いながらそう説明した。なんとなく伝わったみたいで、二人は微妙な表情だったけど私の説明に頷いてくれた。
「露天風呂はあの引き戸の奥です。体を洗った後でしたら、好きな方に入ってくれて構いません。それと、洗濯中着ていただくものが無いので、バスローブを置いておくのでそれで我慢してください」
そう言って、二人を見ると無言で頷いてくれた。
私は、二人にバスタオルと体を洗うためのタオルを渡してお風呂場を後にした。
二人が、お風呂に入っている間にやることがあるから、私は急いでリビングで作業することにした。
まずは、アイテムリストから数種類の布と糸を出す。次に、裁縫師のスキルから型紙のリストを表示させた。
以前、JOBレベルを上げるために色々作った中から、男性用のシャツとズボンと下着の型を選んだ。
それぞれの型を2つずつ用意してから、大体のサイズを登録していく。
それが終わったら、出しておいた布と糸を型紙の上にセットする。
次に、スキルで裁断とオートミシンをしたら一式完成!
急いで作ったから、簡単な白いシャツと紺のズボン。普通の白い下着だったけど、もし二人が気に入ってくれたらもう少し手間をかけて作ろう。
そんなことを考えていると、リビングにバスローブ姿のヴェインさんとアーくんが現れた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます