17 私はお礼がしたいだけなんですけど?
それからヴェインさんは、私の髪に櫛を入れて綺麗に整えてくれた後に目を開けていいと声を掛けてきた。
「シズ、目を開けても大丈夫だぞ。うん。可愛く出来たよ」
そう言って、目を開けた私にイケメンスマイルを向けてきた。
私の顔の善し悪しは置いておいて、頭が軽くなったような感覚と、目の前の世界がいつもよりも明るく広がるような感覚に眩しさを覚えていた。
頭の軽さを味わうように、首を振ってみる。
すると、いつもは面倒くさくて適当に縛っていた髪がサラサラと耳元で揺れる音が聞こえた。
肩甲骨に届くくらいの長さは変わっていなかったけど、毛先が整えられただけとは思えないくらいもっさりしていた私の髪が整えられていた。
それに、前髪も私のリクエスト通りにあまり短くはされていなかった。
目の上に掛からないくらいの長さに整えられていた。
開けた視界がなんだか珍しく思えた私は、キョロキョロと周囲を見回していた。
すると、直ぐ側にいたアーくんと目があった。
アーくんは、一瞬顔を赤くして怒ったみたいな顔をしてからそっぽを向いてしまった。
そんなアーくんの態度に、やっぱり髪を綺麗に整えてもブスはブスなんだという事実に俯きたくなったけど、もう俯かないと決めた私はなんとか下を向かないように堪えていると、ヴェインさんが呆れたような声で言った。
「はぁ。アーク?ここは素直になるべき場面だぞ?そんなんじゃ女の子にモテないぞ?」
「にっ、兄様!!別に僕はモテなくてもいいです!!それに、僕はいつでも思ったことは口にしている正直者です!」
「うんうん。アークは照れ屋だからな。分かるよ、シズを見て余りに可愛くってどうしたらいいのか分からない気持ち」
「ちっ、違います!!」
「違うのか?」
「そっ、それは……。可愛いと……僕だって思いますけど…………。あの大きな黒曜石のような瞳に見られると、ムズムズすると言うか……、こうなんていうかシズのこと……って、何でもありませんから!!今のは無しです!!なんでもないんです!!」
アーくんの言っていることが全然理解できなかった私と違って、ヴェインさんは何か分かったみたいで、ニコニコと笑顔を浮かべてアーくんのことを見ていた。
その姿に、流石兄弟だと感心してしまった。
だって、あの要領を得ないゴニョゴニョと言っていた謎の言葉を理解できるのは兄弟だからこそなのだと心から感心していたのだ。
私は、髪を切ってくれたヴェインさんにお礼をするため彼のことを振り返って見上げた。
振り返った私に、ニカって白い歯を見せて笑ったヴェインさんはイケメンだったけど、その服装はいただけなかった。
昨日見た鎧とマントを外した軽装になっていたが、シャツもズボンもヨレヨレでとこどころ汚れていた。
それに、ヴェインさんは頬の傷はそのままでいいと言ったけど、やっぱり気になってしまった私はお礼もそこそこにあることを提案していた。
「ヴェインさん。ありがとうございます。それで、お礼というわけではないんですけど……。ちょっと屈んでもらえますか?」
「いいって、俺が好きでシズの髪を切ったんだから。ん?屈めばいいのか?」
そう言って、ヴェインさんは私と視線を合わせるような格好で屈んでくれた。
私は、アイテムリストからポーションを取り出してヴェインさんの口に突っ込んだ。
「はい。飲んでください」
私がそう言うと、驚きながらではあったけどヴェインさんは素直にポーションを飲んでくれた。
効果はすぐに現れた。薄っすらと残っていた頬の傷があっという間に消えていた。
「良かった……。綺麗に治って。よし、次は採寸……、ってどうやればいいんだろう?ゲームの中だとサイズって特に気にしなかったけど……。う~ん。家庭科の授業をもっと真剣に受けていればよかったかな?いやいや、ここはフィーリングで?うん。適当に作って、後でちょいちょいってすればいいかな?」
そうと決まれば、大体のサイズを測るためまだ屈んだままの状態でいてくれていたヴェインさんの背後に回って背中に張り付いて手を前に回した。
「シっシズ……!むっ、胸が……、背中に……、背中が幸せすじゃなくて、アークじゃなが少し慎みをだな……」。
胴回りのサイズと背中から張り付いた感覚で大体のサイズの見当をつけて、出来上がりを想像していると、ヴェインさんが何やら言っていたので背中から離れて前に回り込んで声を掛けた。
「ヴェインさん?どうしました?」
「いっ、いや!なんでもない!なんでもないぞ!!」
「??」
慌てた様に早口で答えるヴェインさんだったけど、どうしたんだろう?
まっ、いっか。よし、次はアーくんだね。
「アーくんも……、アーくんはそのままでいいからじっとしててね」
そう言って、アーくんの背中にも張り付いて大体のサイズの見当をつける。
二人の大体のサイズは分かったし、次はさっぱりしてもらうことが先決だよね。
そう思った私は、ぼんやりしているヴェインさんと何やら難しい表情をしている二人に言った。
「それじゃぁ、お風呂に入ってきてくださいね。服は、脱衣所にある籠に放り込んでおいてください。後で洗濯して―――」
「ちょっと待て!今まで大人しくしていたが、もう無理だ!!シズ!!お前一体何者なんだ!!お前は神なのか?それとも女神なのか?いや、現人神なのか?いやいや、聖女か?お前の考えていることが全くわからない!!なんで、どうして謎の液体を飲んだだけで兄様の麗しい顔の傷が治ったんだ!!話は聞いた。ポーションだよな?その前に、ポーションってなんだよ!確かに話は聞いた!だが、実際にあれしきの液体を飲んだだけで簡単に傷が治るなんておかしいだろうが!!それに、僕はずっと言いたかった。どうして、半分に割れた家が一瞬で元に戻ったんだ!!おかしいだろう?それに、この家は見たこともない道具で溢れている。あの箱は何だ?なんで冷えているんだ?それに、昨夜だが、どうして夜なのにあんなに室内が明るかったんだ!どうして、水瓶がない?どうs―――」
「ストップストップ!!アーク落ち着け!!確かに俺も気になった。気になったが、今は待て!シズが固まってるから!ちょっと落ち着け!なっ?」
私は、アーくんから弾丸のような質問を浴びせられて完全にフリーズしていた。
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