14 私が信じたいと思えた人

 泣いてしまった……。号泣ってレベルを超えたガチ泣きだわ。

 出会って間もない男性の腕の中で泣きじゃくるブス……。恥ずかしすぎて、顔を上げられぬ!

 うわぁ……、無いわこれ。イケメンヴェインさんのシャツに涙と鼻水が……付いてしまった。

 

 でも、本当にヴェインさんはいいお兄ちゃんだね。急に泣き出した女を優しく慰めるその手腕。今日から兄貴って呼ばせて下さい!!

 

 ちょっとだけ現実逃避していた私だったけど、ヴェインさんが私の肩をちょっとだけ強く抱きしめたことで我に返った。

 

「のわわわわわぁ!!はわわわわ!!」


 謎の言語を口から発して、スライディングの勢いで、その腕から抜け出して地面に這いつくばって謝罪していた。

 世にいう、土下座ってやつだね。

 

「ぬわぁぁ!!ごめんなさい!!それに、服も汚しちゃって、ごめんなさい!!」


 私が、二人から距離をとった場所で土下座で謝っていると、ぐっと強い力で体を起こされていた。

 目の前には、真剣な瞳をしたイケメンヴェインさんがいた。

 

「シズ……。何も謝ることなんて無い。謝らなければいけないのは、君をこんな目に遭わせた人間だ。シズさえ良ければ、ここを出て俺達と暮らさないか?出会って間もない男の言うことなんて信じられないと思うけど、俺は本気で君を守りたいと思っている。だから、一緒に帰ろう。君が心配で、君を残してここを出るなんて俺には出来ない。身勝手な願いだとは分かっているが、どうか了承してくれ」


 そう言ってから、ヴェインさんは目元を和らげて、優しく私に微笑んでくれた。

 その温かい微笑みが、最後に見た父さんの笑顔にちょっとだけ似ていて、また涙が溢れてしまった。

 また、涙を流し始めた私を見て焦ったヴェインさんは、あたふたとしながらもまた、力強く言ってくれた。

 

「一緒に帰ろう」


 私だって、変だと思うよ。初めてあった知らない人の言葉にこんなに心が惹かれるだなんて。

 今までだって、一人で大丈夫だった。これからだって大丈夫よ。だから私は、嬉しかったけどヴェインさんの申し出を断ろうとした。

 だけど、私の本心は違っていたみたいで。

 

「……。はい……。はい、お願いします。私を連れて行って下さい」


 思いの外人恋しかったのかしら?断るつもりが、承諾してしまっていた。

 でも、この人なら私に真摯に向き合ってくれる気がして、私は自分の直感を信じることに決めたんだ。

 二人で見つめ合ってると、パンパンと手を叩く音が背後から聞こえてきた。

 あっ、完全にアーくんのこと忘れてた……。

 私とヴェインさんは、気まずい思いでぎこちなく背後に立っているアーくんを振り返った。

 

 アーくんは、呆れたようなというか、完全に呆れた表情で私とヴェインさんを見ていた。

 

「はいはい。分かりました。流石兄様。困った幼女を放おっておけないその正義感。流石です。ですが、ちょっとベタベタし過ぎでは?それに、シズも仮にもレディーなのですから、慎みを持って下さい」


 バツが悪かったのだろう、ヴェインさんは少しだけ顔を赤くして私から離れていった。

 私はと言うと、さっきから二人に言われている言葉に引っかかりを覚えていた。今更だっけど、二人は私のこと何歳だと思ってんのかと。

 ここは、勇気を持って確かめるべきだと判断した私は、恐る恐るといった感じで声を掛けた。

 

 

「あの……」


「ん?どうした?」


 ちょっ、ヴェインさんの私に向ける笑顔が急に眩しく思えるのはどうしてなんですか?

 私に向けられた、心が暖かくなるような柔らかい笑顔に、何故か動揺しながらも言葉を続けた。

 

「えっと、二人共さっきから私のこと、小さいとか幼いとか……。私背はちっさいけど、もう16歳なんですけど……」


「えっ?」


「はっ?」


 あぁ、二人の反応から理解しました。完全に中学生くらいだと思われていたことを。


「冗談だろう?シズは10歳くらいだと……」


「いや、流石にそれはないですよ。10歳であの……。ゴホン。12歳くらいが妥当でしょう?」


 へっ?まさかの小学生……。いやいや、ないない。あぁ~、でも、そうなると二人ってもしかしてもっと若いの?私、二人のことヴェインさんが22歳位で、アーくんは18歳位だと思ってたけど……。 

「えっと、二人の失礼な勘違いは置いておいて、二人こそ何歳なんですか?」


 私の質問を聞いた二人は顔を見合わせてから、然も当然だと言う感じで言った。

 

「えっ、俺は19だけど?」


「僕は16ですが?」


 うわぁ~、ヴェインさんまだ未成年だったよ。それに、アーくんが同い年だったなんて……。こっちの世界の人は大人びて見えるなぁ。

 私の考えていたことを見抜いたのか、アーくんはジト目で私のことを見ていた。

 私は、誤魔化すように別の話題を振った。

 

「そっ、そうだ。ヴェインさんのほっぺの怪我。気になってたんですよね。ポーションで治しちゃいましょう!!」


「「ポーション?」」


 何故か、私の言葉を不思議そうに復唱する二人を見て、まさかの考えが頭を過ぎっていた私は恐る恐る二人に聞いていた。

 

「えっと……、もしかしてなんですけど……、ヴェインさんたちの国では、怪我を簡単に治せるようなアイテムは存在していないんですか?」

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