7 私と異世界新生活

 目の前のウインドウに表示されているマイホームに触れてみると、いくつかの項目が表示されていた。

 それは、ゲーム内でも見慣れた項目だった。

 

 範囲指定、移動、設置、収納。

 

 私は、範囲指定を選んだ後に、目の前に広がる開けた場所に赤色に光る範囲線を表示させた。

 赤色に光る範囲線を動かしてから、マイホームをその範囲線の中に移動させた。

 納得のいく位置と向きになったことを確認した後に、設置を選ぶと範囲線は消えて、開けた場所には立派な庭付き2階建ての家が現れていた。

 

「わぁ……。なんか、ゲーム内で想定して作ったものよりもなんか立派なんだけど……。うぅぅぅ~~~~~、何これ何これ!!すごいんだけど!!コツコツ作ったマイホームが現実に現れるだなんて最高なんですけど!!」


 我が家を見た私は、最高潮にテンションが上がっていた。

 嬉しさから、空腹感も忘れて家の周りをぐるぐると周って、外観を心ゆくまで眺めた。

 

「何これ何これ!!想像以上に素敵なんだけど!!お庭も頑張って整えた甲斐があるってものでしょうが!!自分で作ってなんだけど、まさに理想の住宅!!」


 なんだかよく分からないテンションになってきた私は、そのまま家に入って、内部も堪能した。

 一階は、広いリビングとダイニングキッチン。ゲストルームに、和室。トイレと洗面所。お風呂はすごいことになっていた。広めの内風呂には、外につながる引き戸があって、そこから外に出るとあら不思議!なんと、広々とした露天風呂が広がっているこのパラダイス。

 二階は、自分の部屋の他に空き部屋が4つもあった。

 4つもある空き部屋を見て私は、家を設計した当初を思い出していた。

 

「あはは~。あの時は、2階建てに拡張できるって知って、なんだか張り切っちゃって、無駄に部屋を作ってしまったっけ……」


 そう、マイホームは誰にでも作れるものではなかった。

 私も詳しくはわからないけど、いくつかのクエストをクリアしたらEX職に家主が加わっていたのだ。

 家主は、ゲーム内で自分だけの拠点を作れるという破格のJOBだった。

 家主を得てから、二次職のスキルを駆使してマイホーム作りに没頭したのは言うまでもないわね。

 初めは、小さな小屋からスタートした。家主レベルが上がるごとに、マイホームはレベルアップしていった。

 小屋から平屋に。平屋から2階建てに。2階建てが完成した頃には、家主レベルは18になっていて、庭も付けられるようになっていた。

 心血を注いだと言っても過言ではないマイホームで実際に暮らせるなんて最高すぎるよ!

 

 十分にマイホームを堪能したら、お腹が空いていたことを思い出した。

 マイホームが使えたということは、薬師のスキルで作った畑も呼び出せるんじゃないかと思いついた私は、薬師スキルのリストを確認することにした。

 リストには菜園と畑の両方が表示されていた。

 でも、ゲーム内ではNPCから畑や菜園を借りるか買い取って、指定された場所でしか育てることができなかったのよね。

 この場合、どうなるんだろう?

 そんな事を考えながらも、試してみないことには何も始まらないと畑の表示に触れてみる。

 すると、マイホームの時と同じ項目が現れたのだ。

 

「もしかして、マイホームと同じ手順で畑と菜園も設置できるの?」


 思わずそう口に出して驚いていた私だったけど、直ぐに家の外に出て畑を設置してみることにした。

 マイホームを設置した場所にはまだ空間があったので、そこに畑を設置してみる。

 予想していたよりも立派な畑がマイホームの横に現れていた。

 

「~~~~~!!!私の丹精込めて育てた畑が~~~!!」


 ゲーム内だとしても、毎日水をやり肥料をまいて手入れをしていた畑が目の前に広がるさまは感動モノだった。

 畑には、色とりどりの野菜が実っていた。

 早速収穫したい気持ちもあったが、先に菜園も設置することにした。菜園は、ポーション造りに欠かせない薬草類を育てていたのだ。

 こちらも、毎日世話をしていた可愛い薬草たちだ。

 畑の横に設置した菜園も見事に薬草が育っていた。

 

「うぅぅぅぅ~~~~!異世界最高だよ!!」


 もう、失うものなんて何もなかった私は、飛ばされた先で始まったたった一人の生活を心の底から楽しめそうだと心の底から思うことができた。

 父さんと母さんのお墓参りには行けないけど、ここからだって二人のことを思うことは出来る。

 二人だって、私が俯いて縮こまって生きるよりも、たった一人だとしても二人が生きていたときのように生き生きと暮らしていたほうが喜んでくれるはずだと。

 

 こうして、突然始まった私の異世界生活は、意外と快適な住まいを得ることでスタートした。

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