5 私がゴリラでゴリラが私で
「どうしてここにモンスターが!!大変、早く捕らえないと!!」
そう言って、ゲーム内でいつも千歌子ちゃんが使っていた聖女スキルの光の檻を展開させていた。
そして、私をその光の檻に閉じ込めてから言ったのだ。
「このモンスターをここで処分するのは良くないわ。何が起こるかわからないもの。だから、このモンスターをここから何処か遠いところに移したほうが良いと思うの。ねぇ、何処かモンスターとか魔物で溢れていて、人が入れないような場所はない?」
突然目の前に現れたゴリラに驚いていたおっさんは、千歌子ちゃんの言葉を聞いて、慌てたように後ろに控えていた男になにか指示をしていた。
指示された男は、直ぐに何かを持って現れた。
おっさんは、指示していた男から受け取った何かを広げて千歌子ちゃんに見せて、何かを指差して言った。
「今いる場所がここです。貴方様が言うような条件に当てはまるのは、ここにある魔の森だけです」
おっさんが広げていたのは地図だったみたい。でも、千歌子ちゃんはその地図を見た後に、口元を小さく歪めて言った。
「そう。それじゃ、このモンスターをその森に捨てましょう」
千歌子ちゃんは、そう言った後に私に近づいて、私にだけ聞こえるような小さな声で言った。
「静弥、とってもいい気味ね。はぁ、今まであんたのお守りはすっごく大変だったんだから。だけど、今まで私の引き立て役として、役に立ってくれたことには感謝してるわ。だけど、あんたがいると、克人君が私を見てくれないの。だから、あなたは邪魔なの。消えて。二度と私達の前に現れないでね」
そう言ってから、以前私が千歌子ちゃんにあげたスクロールを取り出した。
千歌子ちゃんの手にあるスクロールを見た私は、千歌子ちゃんが何をしようとしているのかが分かってしまった。
助けを求めるように千歌子ちゃんに手を伸ばすけど、無駄だった。
地図とスクロールを持つ千歌子ちゃんの姿を見た私は、これから自分の身に起こることを理解して絶望した。
誰か、誰か助けて!!
そう言いたかった。だけど、私の口からは「うほうほ」という音しか出てこなかった。
助けを求める私は、無意識にもうひとりの幼馴染のかっちゃんを探していた。
私がいる場所から一番遠い場所に、かっちゃんはいた。
何かを探すように、周囲に視線を向けていて、私のことなんて全然見えていないみたいだった。
そうだよね、かっちゃんはいつも私のことブスとかどんくさいとか意地悪ばかり言ってたし、きっとかっちゃんも私にかまっていたのは腐れ縁となにかの気まぐれだったんだよね。
諦めの境地で、千歌子ちゃんを見ると、スクロールが光りだすのが見えた。
千歌子ちゃんの持っていたスクロールは、地図の場所に対象を転送させるという便利アイテムだった。
私は、EX職で修得した錬金術師のスキルでこのスクロールを作り出した。
そんな、自分で作ったアイテムでこれから、何処とも知らない場所に送られることになるなんて……。
だけど、スクロールの力で、知らない場所に転送させられる瞬間、かっちゃんが私のことを見た気がした。
気のせいだと思うけど、私に手を伸ばしてこう言ったように思った。
「しず!!!」
だけど、それを確かめるすべを私は持っていなかった。
だって、次に気がついたときには、たった一人で見知らぬ森の中にいたのだから。
こうして、私の長い回想は終了した訳で。
思い返すと、だんだん腹が立ってきた。
だって、だって。ずっと友達だと思っていた千歌子ちゃんは、私のことただ利用していただけなのだと知ってしまった時は悲しかったけど、いつも面倒事を押し付けられていただけなのだと気がついた途端腹が立って仕方がなかった。
だけど、いつまでも腹を立ててても仕方がないと、気持ちを切り替える。
そうすると、少しだけ気持ちが落ち着いてきた。
気持ちが落ち着いてくると、今度はお腹が減ってきた。人間って、どんなときでもお腹がへるんだよね。父さんと母さんがいなくなった時も、悲しくて寂しくて辛かったけど、お腹が空いたことをよく覚えている。
腹が減ってはなんとやら、ということでこれから生きるための行動をしようと私は決意した。
そうと決まれば、まずはこの檻から出ないと何も始まらない。
たしか、千歌子ちゃんの一次職の聖女のスキルで、光の檻だったかな?光の力で対象を閉じ込めることの出来るスキルだったと思うけど、どのくらいで効果が切れるんだろう?
隙間は人一人通り抜けられるくらいはあるけど、今のゴリラ姿では間を抜けることはできそうになかった。
そこで私はステータスの変更をしようと考えたけど、どうやってすれば良いんだろう?
ゲームや漫画でよくあるあの言葉を言ってみた。
「ウホーウホウーホホ(ステータスオープン)」
冗談交じりに言ってみたけど、目の前に半透明のスクリーン状のものが浮かび上がっていた。
そこには、私の名前や年齢といった基本的な情報が載っていた。
香澄 静弥(16)
LV:250
HP:5230000
SP:6320000
攻撃力:26150000
防御力:26220000
一次職:冒険者(初期職)
二次職:薬師(MASTER)・鍛冶師(MASTER)・木こり(MASTER)・坑夫(MASTER)・料理人(MASTER)・裁縫師(MASTER)・庭師(MASTER)・大工師(MASTER)・家具師(MASTER)・彫金師(MASTER)
EX職:錬金術師(MASTER)・家主(Lv19)
称号:ソロプレイヤー・駆け出しのベテラン・二次職ゴリラ・生産者の鑑・一国一城の主・真のゴリラ
えっ?ちょっとまって?JOBや称号は見慣れたものが並んでいるけど、HPとSPと攻撃力と防御力がおかしんですけど!!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます