3 私は今日を振り返る

 私は、この日も空気みたいに過ごしていたけど、いつもよりちょっとだけテンションが上がっていた。

 私は、【FREEE JOB ONLINE】通称、FJOという、スマホゲームに熱中していた。

 ものすごくマイナーなゲームみたいで、クラスで私だけが遊んでいたほどの過疎ゲーだったんだけど、よく分からないうちに知名度が上がっていて、今ではクラスメイト全員が遊んでいるほどだった。

 

 休み時間とかに、クラスメイトがFJOの話をしているのがよく聞こえてきていた。

 話に混じりたいとは思いつつも、そんな勇気もなく、ただクラスメイトたちの楽しそうな声をその横で聞いていた。

 

 私は、FJOをサービス開始時からプレイしていたので結構な古参プレイヤーだった。それに、ちょっと特殊なプレイをしていたみたいで、珍しい称号とかも色々持っていたけど、ゲーム内でも現実世界と一緒でソロだった。

 ゲーム開始直後は数人だったけど、フレンドになった人もいた。だけど、いつの間にかゲームを引退していて、気がついたらフレンドが誰も居なくなっていたのだ。

 だけど、千歌子ちゃんがFJOを始めた時に、私に声を掛けてくれたんだよね。一緒に遊ぼうって。だから、今は千歌子ちゃんとFJOを一緒に遊ぶのがすごく楽しい。

 でも、最近は千歌子ちゃんとは素材集めとかレベリングの手伝いをする以外で一緒にゲームをすることがなくなっていて少し物足りなくもあった。

 

 だけど、今日はFJOが久しぶりに大きめのアップデートが行われることになっていたのだ。

 だから、私はアップデートが楽しみでテンションが上がっていた。

 事前の告知だと、称号によるスキルのデメリットの緩和や、バランス調整、レベルキャップの上限解放などが予定されていた。

 メンテナンスは、12時に終わる予定だったけど、現在絶賛延長中だった。

 予定通りに終わっていれば、お昼休みに少しだけでも遊べたのに、延長とはものすごくがっかりだよ。

 でも、延長するってことはきっとなにかいいアップデートもされているかもと、ワクワクしていた。

 今日はついていることに、5限目は古文の小テストだった。古文の先生は、自由な人でテストが早く終わった人は、提出すれば自由にしていていいという先生だった。

 寝るもよし、本を読むもよし、ゲームをしていてもいいという大盤振る舞い。ただし、教室を出るのはNGだったけど、テストを提出さえしてしまえば教室内で好きに過ごしていいというのだ。

 私は、古文は得意だったので直ぐに全問といた上で提出していた。

 自由の身となった私は、スマホを取り出しFJOの公式のお知らせを眺めることにした。

 運がいいことに、アップデートが終わっていたのだ。私は、直ぐにゲームを起動させた。

 ゲーム画面に今日のアップデートの内容が色々と載っていた。

 私が一番に気になっていた、称号によるスキルのデメリット緩和について確認することにした。

 私の持っているレア称号、【二次職ゴリラ】によるゴリラスキルは、攻撃力と防御力が10倍になるという破格の効果を持っている。

 ただし、デメリットがあって、スキル発動中は、ゴリラになってしまうというものだった。更に、発する言葉も全て「うほうほ」と変換されてしまうので、一切のコミュニケーションが取れなくなってしまうというものだった。

 だけど、ソロプレイヤーの私には、コミュニケーション?なにそれ美味しいの?的なデメリットなので、私は好んでゴリラになっていた。

 だって、私の一次職は未だに冒険者だったからだ。

 FJOは、全員が冒険者からスタートすることになっている。

 最初に受けるいくつかのクエストをクリアした時に、冒険者から初級職にジョブチェンジするのが普通なんだけど、何を間違ったのか私は最初に二次職、つまり生産系の職業についていたのだ。

 だけど、生産系の二次職が面白すぎて、一次職のことを完全に忘れていた私は、冒険者のまま二次職のJOBを粗方マスターしていったのだ。

 その結果、レア称号の【二次職ゴリラ】を得たのだった。

 

 という訳で、ゴリラスキルで初期職にもかかわらず、上級職にも劣らないステータスを手に入れた私は、変なスイッチが入ったみたいで、いっそこのまま冒険者のまま二次職でのし上がってやる!!

 ってなっちゃって、ゲーム内では孤高の謎ゴリラの人って言われるようになったのだった。

 ちなみに、私は千歌子ちゃんに教えられるまで、そんな風に言われているなんて知らなかった。

 だけど、千歌子ちゃんが何気なく私に暴露してくれたんだよね。そんな情報知りたくなかったよ。

 

 そんなこんなで、私が愛するゴリラスキルはどうなったのかと気になってステータスを確認していると、デメリット部分に変化があった。

 デメリットの説明文にゴリラの脱着可能という文章が付け加えられていた。

 えっ?ゴリラの脱着?つまり、もとのアバターのままゴリラスキルを使えるってことでOKなのかな?

 でも、今までゴリラの姿でプレイしていたからこのままゴリラのままでいいや。

 ということで、私はゴリラ状態をオンのままにした。

 そこまでは良かったけど、明らかに私のステータスがおかしいことに気がついた。

 ゴリラ効果でステータスが上がったとしても、表示されていた数値は異常だった。明らかに桁数がバグっていたのだ。

 平均的な攻撃力は、1000くらいなのに対して、私の攻撃力がもとの数値の1000倍位の数値になっていたのだ。

 運営ぇ……。ちょっとだけため息が出ていた。

 久しぶりのアップデートでなにか間違ってバグらせたのは間違いない。これじゃ、ゲームバランスが崩壊してしまうよ。

 そう思った私は、直ぐに運営に報告をすることにした。

 いそいそと、問い合わせに状況を書き連ねていると、古文の先生が教室を出ていくのが見えた。

 何事かと、先生を視線で追ってみると、教室の入口に教頭先生がいたので、何か急用でもできたのだろうと思っていたら、急に内臓がふわっとした感覚に陥った。

 そう、ジェットコースターで高所から落ちていくときのようなあの、ふわっとした無重力な感じだ。

 なんで?と思っているうちに全ては終わっていたのだった。

 気が付くと、石造りで天井の高い建物の中にいた。

 見上げた天井には、とてもキレイなステンドグラスがキラキラと輝いていた。

 場違いにも、その美しさに見とれていた。

 だけど、クラスメイトたちのざわめきで、これが普通の状況ではないということを思い出したのだった。

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