第7話 あーあ、フラグ建築しちゃうじゃん。ん?建築……
六頭のトナカイがてんでバラバラに動き出す。
傷ついたトナカイたちは恐慌状態。
ならば、それはただの獲物である。
かっこうは、【つよつよホーク】はその隙を見逃さない。羽を反らし、爪を突き出す、まさしく鷹が獲物を狩る姿となって黒いサンタに襲い掛かった。
にぃ、と笑うサンタには気付かなかった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「あのヤロウ、俺をトラップに使いやがったな?」
どこかで、そんな声がする。
サカタキは気付いていた。
かっこうは気付いていなかった。
ただそれだけで、円卓に集った十五人の戦車のうち、最初に落ちるそれが決まった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
―――この一瞬の攻防は、言葉にすれば陳腐だ。
たった四文で一瞬という濃密な時間が結果づけられてしまう。
だからこそ、大いに記すべきだろう。
かっこうの操る【つよつよホーク】の爪が、サカタキの身体にあたらんとした瞬間。
―――世界が白い光に覆われた。
それはまるでフラッシュバンを極めて広範囲に行ったかのような攻撃。
彼らは知っている。
なぜかって、彼らはこのゲームのトップ層だ。すべての武装を記憶するなど割と簡単にやってのける。
それがゲーマーというものだ。
だからこそ、その一瞬の呆けの後、否、呆けることすらなく反射で回避をしようとした瞬間に気付いていた。
「ちょ、グングニル――――!!」
「ファッファッファッファッファッ!!!」
回避できない!!
かっこうの考えはそれに尽きた。
―――グングニルとはCdc最大のレーザーキャノンである。
―――グングニルとは北欧神話の主神オーディンの槍であると言われる。
―――グングニルには、それに値するだけの威力がある。
―――そして。
グングニルとは、ある男の機体の、主砲である。
数少ない反動が機体重量を上回りやすい武装のうちの一つであり、最高峰〝グングニル〟。
攻撃範囲は普遍的な型の中量級戦車であれば呑み込んでなお余るだけの大きさ。そしてレーザー砲であるが故の、着弾までの速さ。
武装にしては重すぎる重量、普通に使用するのは不可能なほど大きい反動、そして、デカいので目立つというデメリットを有している。だがしかし、グングニルはある種のバランスブレイカーである。
基本的にこのゲームの~系といった分類はそういったバランスブレイカー的超ピーキーな武装、装甲、ジョブ特性などによるのだ。
―――因みに、唯一の例外が、飛空系である。バランスブレイカーは存在しないが、制空権という概念をそこに当てはめることも出来なくはないので一応の例外だが。
得てして、そう言ったバランスブレイカーは神話に関係する名前が多い。
例えば、一撃の威力という点では他に追随を許さないものの、動けなくなり、当てにくいという大艦巨砲主義の末路、砲台系バランスブレイカー『グングニル』
例えば、攻撃範囲が極めて狭く、人型でなければならず、その上操縦にモーションアシストが存在しないのにある程度抜刀術を使わねばならないが、装甲無視及び電磁系操縦機器に致命傷を与えられる帯電能力をもって暴れる時代錯誤の落ち武者、武士系バランスブレイカー『
例えば、平然とした顔でマルチタスクを要求してくる上に、思考操作オンリーのため混乱すればその瞬間から使い物にならなくなるが、数の暴力の極限にまで至る誇り無き獣人理論の立役者、毛を持つ獣型のプレイヤーのみが大妖狐の試練により得られる称号、ケモ耳忍者系バランスブレイカー『身外身の使い手』
例えば、エンジン搭載不可及び武装搭載不可という条件を付けて最重量級戦車のみにしか設置できない大きさを持ち、下手に欲を出せばオーバーヒートと称してポンコツ化するがAI主導の戦力を得られる、工場系バランスブレイカー『大量生産工房』
例えば、ゲーム内で一人しか就けない上に、毎月選定され、それに就くためには半月から三週間はその選定戦に参加しなければならないというものでありながら、制御に失敗すれば自爆しかねないというデメリットを払いようやく単純に高いステータスへと変貌させるジョブ特性、皇帝系バランスブレイカー:ジョブ帝王の『メラム・レガリア』
他にもバランスブレイカーと呼ばれるものはある。
星座シリーズ、干支シリーズ、大罪装備、美徳装備、悪魔武装、天使武装といったものがある。
されど、今回かっこうを襲ったのはグングニル。
サカタキを含む範囲ではあるものの、主に狙われているのはかっこうだ。
サカタキよりもかっこうを狙う理由は多い。
サカタキは極論、爆発耐性と火炎耐性があれば何とでもなる。しかし、かっこうは違う。変態的な軌道で迫ってくる空を味方につけた近接戦闘機は怖ろしいものがあるのだ。
しかも、かっこうの【つよつよホーク】はレーザーブレードタイプの武器、布都御魂剣を頂点に持つ装甲貫通系武器を全面に出した攻撃型。遠距離から撃ち落とすというのは攻略法として何ら間違えたものじゃない。
だが、かっこうとてトッププレイヤー。
狙撃だろうとグングニル程のデカさなら分かる。
それが、分からない程の遠くから高速で動く二人に当てられるほどの狙撃手は二人しか知らない。
そして、グングニルを使うのは。
「借りは、返すからねーーーー!!!ビンゼンッ!!」
フィールドランキング3位、【無位無冠】ビンゼンだけだ。
「え?」
ただし、サカタキは叫ばない。笑う。
「ふぉっふぉっふぉっふぉ。お嬢ちゃん、知らんかったようじゃな」
グングニルが直撃する瞬間、いや、直撃したすぐ後。
いつの間にか上空に回り込んでいたサカタキの万天火界より、無数の
「レーザー系の射撃武器は全部対空攻撃処理がされておる。飛空系に必須の対空攻撃シールド展開装甲で無効化出来るんじゃよ」
オーディン率いる北欧神話の立場を奪い取ったと言われるセント・ニコラウス――――サンタ・クロースにはグングニルは通じない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます