第5話 イベントは始まりを迎える
荒野、中天に日を受け入れる時、29,136の戦車が一堂に会した。
パッと、世界が白く塗りつぶされたかと思えば、すぐさま天に文字が描かれた。
【第五次五車大戦】
熱気が一層と増した。
ともすれば南国、寧ろ砂漠の夏の真昼か、そういわんばかりの熱量だ。
故に、今、この文字が、現れた時。
彼らの生み出す熱は、最高潮を迎える。
【開幕】
轟き覆いつくす世の全てを震わせんばかりの爆音が祝砲だ、喊声だと天を衝く。
一瞬遅れて白い光が彼らを包んだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「ふいー。ロールプレイも楽じゃねえ。ま、ジョー程がちがちじゃあねえんだが。———さて、ふぉふぉふぉふぉ。『よい子の皆、プレゼントじゃぞー』」
五車大戦は始まった。
トッププレイヤーが全力で挑むと決めているのだ。
この、第九回イベントは怖ろしいまでに暴れ回るものが出ることは確定している。そして、一つ目の戦車で暴れ始めたのは、二人。
―――荒野の上をソリが行く。
六頭立てのトナカイが引くソリは、徹底して子供の思い浮かべるサンタ像だ。シャンシャンと鈴の音が響いていたりするのが憎らしい。
「げっ、ブラックサンタじゃねえかーッ!対空攻撃ィーーーッ!」
「てめえでやれよ!」
「貴ィ様はァ許さないぃぃぃぃーーーー!!」
「うわ、ブラ三ゾンビだーー!」
『ふぉふぉふぉっふぉふぉおふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉふぉ』
「「「「うっせーー!!」」」」
瞬間、地上で花火が打ちあがる。
それは満天の星の輝きを掻き消す太陽がごとき光で。
それこそが、その戦車の真骨頂。
ブラックサンタ―――サカタキのプレイヤーとしての真骨頂。
錬金爆弾、〔
サカタキというプレイヤーのジョブ:錬金術師にて作ったオリジナル爆弾。
一般的に中級爆弾とされる
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煉獄神樂
分類:特殊ボム(オリジナル)
ATK:62
備考:火気により爆発。火の気が存在しない場合、爆発ATKは0。
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―――62。
爆発の方法に条件があるとは言え、威力が異常である。上級爆弾は、重量級戦車にしか射出機構を搭載できないのだが、それに匹敵する威力である。
故に、地上では地獄―――煉獄が繰り広げられる。
このゲームにおいては火力系戦車が主流である。
原子力エンジン、風力エンジンなど特殊な組み方をしていない場合、基本は火力エンジンなのだ。
―――そして、爆発が発生すると、火の手が上がる。
ならば―――
『ふぉふぉふぉふぉふぉ、お代わりじゃぞー』
サカタキが第二の特殊ボム、〔
「「「うぉおおおおお!全員、耐火シールド張りやがれぇ!」」」
「ぐぁぁあぁあああああ!」
「ぶ、ブラ三ゾンビ―――ッ!」
△△△△△△△△△△△△△△△△△△△△
緋羽娜
分類:特殊ボム(オリジナル)
ATK:40/140
備考:気温25度以上、湿度20以下、火気存在時爆発。被爆発車両がダメージを負っていた時はATK+100。
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これこそがブラックサンタと呼ばれる男の本領発揮。
煉獄神樂で火を広げ、緋羽娜で止めを刺す。
六基の爆弾射出機でまんべんなく、間断なく大量に落とし続ける爆弾が継続的なダメージを与える。
黒いサンタの爆弾は、過剰な炎を堕としてくるのだ。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
「フハハハハハ!!」
カラスは笑う。
すぐ近くの戦車にはすぐに高い音になり、低くなる。ドップラー効果だ。
そう、もう一人の暴れ始めたランカーとは。
「遅い、遅すぎるぞ、鈍牛ども!!俺様の格好のカモじゃあねぇかァ!!」
俺様スタイルのカラス頭こと、イースト・ジョーである。
この男はバカである。
何故ならば、現環境を席巻する『超重装甲誘導砲四門編成』に真っ向から喧嘩を売る様な構成の戦車を使うからだ。
『Char de combat』というゲームの中では、戦車の重量に基づいてランク分けが存在する。
それは武装込みの重量ではなく本体重量によるものだ。
現環境の使用率一位は重量級を使い、対爆破などの耐性装甲を何重にも装備するという超重装甲型である。攻撃は誘導砲と言われるオートで敵に向かう砲撃を正面と後ろ、側面の四門というのがふつうである。
もちろん、対空は絶対。(どこぞのサンタのせい)
それに対して。
イースト・ジョーの愛機はというと。
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ケンセイ Lv.100
機体:原付型99’シリーズタイプ機体(最軽量級)
エンジン:燃料爆破型ブーステッドエンジン
装甲:なし
加速器:高機能軽量ブースター改・反動制御不搭載×8
武装:装甲貫通ブレード
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極限まで重量を削ったうえで、速さに全振りした機体。
装甲貫通とかついてても距離的に接触するレベルじゃないと当たらないからその前に砲弾の餌食になるブレード。
反動の制御も出来ないのにまともに動けるわけないだろって、高速厨から文句が溢れた高機能軽量ブースター。
爆破の勢いで進むから燃料をスプーン一杯レベルで調整しないといけないとかいう癖が強すぎてまともに使ってる奴を見ない燃料爆破型のエンジン。
そう、環境というのをガン無視してプレイヤースキル必須になるまで練り上げられた狂気の機種。
「おせぇ、おせぇ!!!!!」
「クソがァ!あの辻斬り、早すぎんだよ!」
「誘導砲を避けるな」
「フザッケンナぁ!」
「なんで、ブレードとか言う産廃使い熟してんですかねぇ」
「重量級のデブ砲台なんざ、当たらなきゃどうってこたぁねぇんだよッ!!」
その通り、イースト・ジョーはあたらなければどうということも無いが合言葉のプレイヤー一党の元締めにまでなっている男だ。
彼らはこう名乗っている。
「
―――だがしかし。
暴走する者たちが止められないわけがない。
「んぬ!?」
まるで跳ねるような動きで迫りくる巨大な棒状の何か―――否、ジョーにとってすぐに気づけるそれ―――尻尾が迫りくる。
ドリフトの要領で避けることは出来たが、高速のヒットアンドアウェイを領分とするジョーにとっては止められたことそれ自体が一種の敗北だ。
だが、仕方あるまい。
「なかなか、スタートダッシュを決めているな、イースト・ジョー」
「まぁだ、フルネームで呼びやがるのかドラ坊」
「……ドラ坊って言うな」
フィールドランキング一位、前回優勝者【竜激王】BLAYがあらわれた。
その姿は巨大な竜。ランキング一位にあって尚、こだわりの戦車を使い続ける者。その姿はまさしく竜の王と言ってもいいだろう。
だけど即口撃された。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
また、黒いサンタの元には鳥が来た。
「ふぉっふぉっふぉ。少々遅くはないかね?」
「ううん?全然!」
大きく翼を広げた鷹のような戦車。彼女は天空に在りてなお戦車だと言い張るもの。
「もはやこの辺りに狩れる鼠はおらんぞ?」
「へっへっへ~!今日はトナカイを狩りたい気分なんだ~!」
【ブラックサンタ】サカタキの前には【最後の良心】かっこうが立ちはだかる。
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