黒いサンタと五車大戦
青条 柊
第1話 Char de combat
戦車、戦車、戦車。
地上の戦火を映し出したかのような赤黒い雲に覆われた曇天の下、黒く染まりきったトナカイは宙を踏む。六頭立てのこれまた黒いソリの様なモノを引くトナカイたちはギシギシと音を立てて空を征く。
ソリはソリで浮く機構がついているらしい。滑らかに水平を保って、流れるように滑るように空中を移動する様子はまさにサンタクロースのソリの様・・・カラーは2Pカラーだが。
その黒いソリの最後部。サンタクロースをモチーフに作られたであろうそのソリ的に言うなればプレゼントを入れた袋が乗っているだろう所には、遠目には袋の様なモノが載っており、すわこれからプレゼントを配ってくれるのか!?と純真な子供たちが勘違いしてしまいそうな見目をしている。
黒いソリと黒いトナカイ、極めつけには黒い袋を載せて、黒い髪で黒い服を着た太った黒い男が操るそれ。
男が下を除けば、キャタピラをぎゅるぎゅると回すむくつけき戦車共が映る。
―——・・・ニヤァリ。
そんな擬音が似合うであろう笑みを浮かべた男はいそいそとソリの鞭を―――否、鞭についた操作ボタンの右端、赤色に彩られたボタンを押した。
「ぽちっとな」
使い古されたギャグを一つ零して、にんまりと男は笑う。
というか、髭まで生やし、脂ぎったふとましい肉体のわりに声は若い。
ボタンを押して連動させたのはソリの最後部。その下面だ。パカリと開くと、こぶし大の穴が開き、待ってました!と言わんばかりに球形の物体が落ちる。
補足説明をしよう。ココは雲の下とは言え、分かり辛いのだがその雲が背景に近いものであるので、かなり高度の高い場所だ。そして眼下の戦車群は自分たちのドンパチに夢中で上なんぞ気付かない。約6000mより放たれる球状の物体。物理エンジンに従えば、加速度を重力加速度そのままに落下する。すなわち、地面に直撃するときには、秒速三百四十メートル、すなわち音速に等しい速度だ。
それだけでも十分なエネルギーが発生するのに、その球状の物体は特製の爆弾なのだ。
ひゅるるるる~—————ドカァアアアーーーン!!!
気の抜けた花火の様な落下音の後、地上に起きるキノコ雲。・・・どこか涙を流すどくろの様な・・・いや、気のせいだろう。
それはまさに百を超える戦車同士がぶつかり合う瞬間の出来事。
だからこそ、どうしたってヤツへのヘイトは高くなる。
「「「「クッソガァァアアアアアァァアアアアア―—————————————ッ!!」」」」
「ブラックサンタがァ!!」
「まぁた、戦争潰しやがってェえええ!!」
「あんの愉快犯んんんん!!」
「あっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっはっは!!!」
高笑いを響かせて、立鳥跡を爆散すとでも言いたげに大量の爆弾を雨あられと降らせていく黒いサンタに怒りを燃やす。
嗚呼、今日もまた平和なり。
『Char de combat』のよくある光景が見られたり。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ニシシと笑う男の前にどれだけの者が青筋を立てたか分からない。
だが同時に、どれだけの回数男が青筋を立てたかもわからない。
煽り歓迎、戦闘上等、チーミング許可、大砲ぶっぱ。ロマン主義と享楽主義、浪費家たちの争う戦車の祭典。
VRММOゲーム『Char de combat』はファンタジックな戦車を極めて高い自由度で作り上げ、それをフィールドにて競うゲームだ。どちらかといえばマイナーなゲームではあるが、ユーザーアンケートでの評価は高い。
何故ならパッケージ版として安い値段で課金アイテムは幅が少ないため幅広いユーザーを集められるし、そもそも、チュートリアルで適性を試される。
完全に現実に即した物理エンジンに加えたファンタジックなロジックの下で動く戦車がかっこいいと思い、多少面倒な操作や作成をチュートリアルでしっかりとやらせてくれる。それが成功し、面倒くさがりの非ロマン主義はやめていくがそれ以外は意外に定着してくれるのだ。
そんなゲームで、気ままに遊ぶ主人公とその親友が引っ掻き回した日々の御話。
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