第14話 二度目の人生(ただし一週目)③

あれからずいぶんな年月がった。

私は彼女と結婚し、子供をもうけ、彼女の両親を看取みとった。

私の一度目の人生の母についても、知り合いという形ではあったが看取ることができたのは幸運だったと言っていいだろう。


だが、ずっと引っかかっていることがある。

それは、なぜ自分は彼女を突き飛ばすことができたのか?ということだ。

そもそも隕石が落ちたのは渋谷で私が一度目の人生で通っていた田町にある大学とはだいぶ距離がある。

あの時、私は一限いちげん目に必須科目の授業が入っていた為、普通に考えれば渋谷にいるはずがないのだ。

それに、仮に渋谷にいたとしても彼女を意志を持って突き飛ばすことなどできるのだろうか?

もちろん、困っている人が目の前にいれば助けるくらいの優しさはもっているつもりだ。

だが、相手は高速で飛来する隕石だ。

目で見て危ないと思って突き飛ばすことなど可能なのだろうか?

それを行うには少なくとも隕石があの日のあの時間におおよそどの方向から飛んでくるかを知っていなければならないのではないか?

そして、私の今のところの結論としてはそんなことは不可能だということだ。


私は病院の休憩室にあるベンチに座りながら、そんなことをぐるぐると考え続けていた。

今日は入院している妻の見舞いに来ている。

彼女は末期のがんおかされていて余命いくばくかという状況だったが、彼女が鎮痛剤ちんつうざいによる睡眠から覚めた時にそばにいたくて私は毎日のように病院に通っていた。

そろそろ彼女が目を覚ます頃だろう。

病室に移動して彼女の隣に座り、目を覚ますのを待つ。


しばらくして彼女が目を覚まし、こんなことを言い始めた。

『あなた、初めて私と会った時のこと、覚えてる?』

私が肯定こうていする相槌あいづちを打つと彼女は続けた。

『あの時、あなた自分のことを「ほし」って名乗ったのよ。

 だから私、わかったの。

 この人は星さんの生まれ変わりで私を迎えに来てくれたんだって。

 わたし、夢の中のお城であなたが迎えに来るのをずっと待っていたの。

 うれしかったわ。

 あなたったら、好きになる前に死んだくせに夢の中では結婚するし、なのにその後ずっと一人で待たせるんだから。。。』


他人が聞いたら鎮痛剤で意識が混濁こんだくして無茶苦茶なことを言っているようにしか聞こえないだろう。

だが、私は完全に彼女の話を理解していた。

彼女は結婚する前から私の妻で私のことをずっと待っていたのだ。


『もう眠りなさい。』

私は優しく妻に言った。


そうすると最期に妻はこう言った。

『またあなたと結婚したいわ。

 でも、次はこんなに待たせないでね。。。』


その妻の言葉を聞いて私は/僕は次に何をすべきかをさとった。

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