第7話 命の水
昨日と変わらず、外はうだるような暑さだった。道行く人々はスーツを着たサラリーマンばかりで、額の汗をハンカチでぬぐっている姿が多く見られた。
歩くこと15分。通学に使う地下鉄の階段に辿り着く。笹葉の歩幅に合わせて歩いたため、いつもよりも時間がかかってしまった。
地下に入ると、一気に暑さは消えた。電車内もこの時間帯だとそれほど混んでおらず、天斗と笹葉は座席に座ることができた。この電車は大学前駅までには3駅停車する。いつも、2駅目で大学生らしき若者が大量に乗り込んでくるのだ。今日も通常通り、2駅目で電車の中には人があふれかえった。途中、笹葉は隣に座った派手目な女子大生に怯え、天斗の方に引っ付いてきたため余計に暑苦しさが増した。
実際は3分程であったが、体感それの倍ほどの時間をかけ、電車は天斗たちの目的地に到着した。一斉に人が電車から降りだす。天斗は笹葉がはぐれないように、小さな手を掴んだまま、人混みに流された。
地上に出る階段を一段一段登っていくにつれ、またもや気温は上昇していった。
「あついです……」
笹葉は顔を赤くして力なく声をあげた。
「我慢しろ。図書館に冷水器があるからそこに立ち寄るか」
「はい、お願いします……」
都会の人混みをかき分け、緑あふれる原っぱを抜けて、2人は図書館に向かった。
大学生にしては早い朝なので、大学構内にはほとんどいなかった。ちらほら見かける人影も落ち葉を掃除している作業員くらい。暑さにやられてトボトボと歩く笹葉の手を引っ張り、何とか図書館の前につく。図書館入り口の自動ドアが開いたとき、中から寒いくらいの冷気がなだれ込んできた。
「夏風邪になりそうなくらい寒暖差が激しいな」
「すずしいです~!」
この図書館は1階中央にあるゲートをくぐる前は飲食と私語が許されている。また、1階のみに限り、一般の人もゲートの中に入ることができる。
笹葉は俺の手を振り切り、すぐさま冷水器の方に走って行ってしまった。天斗は近くにあったソファに腰かけて一息つく。だが、そんな安らぎの時間も束の間で。
「ぱぱーー!!」
「大学内でパパと呼ぶな!」
遠くから笹葉が天斗に呼びかける。時間帯が早かったので、生徒に聞かれる心配は少ないが、受付のお姉さんにはばっちり聞かれていたはずだ。
「水が飲めません!」
「ハァ……ハァ……抱っこしてやるから、それで飲め……」
急いで笹葉のところへ走った天斗は、息を切らしながら笹葉の脇に手を入れて水が飲める高さまで持ち上げた。笹葉がおいしそうに水を飲む。
「……ぷはっ! これは生き返りますね。命の水です!」
「まあ、人間の体は半分以上が水らしいから、あながち間違ってはないかもな……って、聞けよ」
相当喉が渇いていたのだろうか、笹葉は天斗のうんちくをお構いなしに、再度冷水器の水を飲み始めていた。
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