オープンカップ京都大会へむけて!

第11話 AI研究会に入部します!

「じゃあ、これでAI研究会の入部は承認ということで。がんばれよ、姫宮」

「はい! ありがとうございます!」


 職員室でAI研究会顧問の荻野原おぎのはら慶喜よしのぶ先生から入部届にはんこを貰った私はペコリと頭を下げた。くだんのアズールドラゴン2号破壊事件から一週間ちょっとが過ぎていた。


「しかし、姫宮がAI研究会に入部とはなぁ。驚いたよ。AIとかロボットに興味あったっけ、姫宮って?」


 座席からしげしげと私のことを見上げる荻野原おぎのはら先生。一年生の時に数学を受け持たれていたから、顔と名前は覚えてもらえている。あと多分……成績も。あかん。


「いやー。どうですかねー。SF小説の中のAIは興味あるんですがねー。なんというか、一言では言い切れないご縁がありまして〜。あははははは〜」


 一万円以上するAI研究会の備品を破壊して、神崎くんから脅迫されただなんて、とてもじゃないけれど言えない。


「そうね。私も意外だったわ。姫宮さんが選ぶ部活がAI研究会だったなんて」


 そう言って教科書が並べられた本棚の向こう側から顔を覗かせるのは元ミステリー研究会顧問の三谷洋子先生だ。


「――私はてっきりESSにでも入るんじゃないかなって思っていたわ。姫宮さん英語得意だし?」

「ESSですか〜。あはははは。ですね〜」


 つい頭を掻く。たしかに候補の部活としてESSも頭をよぎった。一年生の時に助っ人で文化祭の英語劇に出演させて貰ったりしたのでご縁もあるから。でもESSってどうにもしっくり来なかったのだ。たしかに私は英語が好きだし、ぶっちゃけ得意だ。主要教科のみならず副教科まで含めた全てを通して一番――いや唯一得意だと言ってよい。でも、だからこそESSってここだけの話、ぶっちゃけて英語でお喋りするだけ――みたいに思ってしまうのだ。


「あ――そういえば、姫宮さん、去年の文化祭の部誌で人工知能を題材にした小説を書いていたっけ?」

「あ、はい。三谷先生スゴイ。よく覚えていますね〜」

「当たり前じゃない。これでもミステリー研究会の顧問だったんだから。……ちょっと待ってね、この辺りにあったと思うんだけれど……」


 いや、探さなくていいです! 


「へ〜、そんなことがあったのか。じゃあ、姫宮、本当にAIに興味があったんだなぁ。三谷先生、もしよかったら僕にも読ませてください」


 いや、読まなくていいです!


 そんな私の気持ちは露知らず三谷先生は「ちょっとまってくださいね〜」だなんて言って本棚の中を探している。


「じゃ……じゃあ、私ははんこも貰いましたので、これで失礼します」

「あ、おう。あいつらによろしくな、姫宮。AI研究会は教師から見ても個性的な奴らが多いから、大変だと思うけれど、まぁ、仲良くしてやってくれ」

「はい。こちらこそよろしくお願いします!」


 私はもう一度頭を下げると、そそくさと職員室の出口へと向かった。背後から「あ、あったコレコレ」と三谷先生の声が聞こえたけれど、知らないふりで職員室の扉を閉めた。

 目の前で自分の小説を読まれるのがどのくらい恥ずかしいことなのか、先生たちは知るべきである。知るべきである! (大事なことなので二回言った)


「じゃじゃーん! 入部届、完成しましたー!」


 部室中央のテーブルに座る二人に、A5サイズの紙切れを突きつけるわたし。


「お〜、入部届お~。おめでと〜、あすかりん。よかったお」

「フッ。これでようやく、貴様もAI研究会の一員というわけか。アスカリーナッ!」


 倉持くんは何やら電子回路を作っていたブレッドボードから顔を上げて親指を立ててくれるグッジョブって。一方の神崎くんは液晶画面から視線を外さず、私の方を見もせずに使用を止めようともしない謎の偽名を口走る。

 ちなみにブレッドボードというのは小さな穴がいっぱい開いた電子回路を作るのに使う板。理屈はよく分からないんだけれど、これに色々なパーツを差し込んでいくと電子回路が出来るらしい。すごい。

 倉持くんがマウスをクリックするとパソコンから繋がったブレッドボード上のモータがキュイーンと回転し始めた。そんな部品の名前も、この一週間でわたしが早速覚えた知識だ。全然知らない世界に飛び込んだものだから、まずはものの名前を覚えるだけで精一杯って感じ。


「――それで、入部届って最終的にどこに出せば良いんだっけ?」

「ん? 生徒会だろ? 何なら後から一緒に行ってやろうか?」

「え? 神崎くん優しい!? 何、なんで急に優しいの?」

「バ……バカヤロウ! 新入生以外の入部は部長承認が要るから、部長が一緒に行くのが通例なんだよ! これは断じて優しさではない! 勘違いするな!」


 そう言って神崎くんはこちらを一瞬ちらっと見て、すぐに視線を逸した。なーんだ、そういうことか。神崎くんがわたしのことを心配してくれたのかと思った。

 でもこれでわたしもついにに青龍中学AI研究会の一員なんだな~。両手で入部届を掲げて、背もたれに体重を預ける。去年まで放課後はミステリー研究会の部室でリコや先輩たちと過ごしていたけれど、今日からはこのAI研究会がわたしの居場所になるんだなぁ。去年までは女の子だけで本を片手にお茶会に興じたミステリー研究会。今日からは男の子四人とわたし――


「げげっ!」

「どうしたのあすかりん? なんかまずいことでもあった?」

「あ、いや、うーん。ねぇ、倉持くん。確認するけど、AI研究会に女の子の部員って――」

「――もちろんいないお〜。女の子はあすかりんだけだお。そもそもロボットとかAIの世界って女の子が少ないんだお〜。だからあすかりんは貴重な存在なんだお〜」


 ああああああ、やっぱりそうなのね! そっかぁ、これからの放課後は男の子ばかりと一緒にいるのかぁ〜。特に大きな問題はないとは思うけれどこれは大きな変化だ。

 ちらりと神崎くんの横顔を見る。パソコンに向かって何やら打ち込んでいる神崎くんの横顔は真剣でかっこよかった。――これから始まる中学生活。これまでの女の子だけの日々じゃなくて、男の子たちに囲まれての紅一点。そんな未知の日々にわたしはちょっとだけドキドキするのだった。だって、それって青春漫画の部活動みたいだから。

 でも一つ、わたしにはどうしても気になることがあった。


「ところでAI研究会って、一体何しているの?」


 私の口にした何気ない一言に、二人は盛大に突っ伏した。

 あ、テーブルの向こう側であと二人の部員も突っ伏している。

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