怪人イタチソード②

「あああああ! もおおおお! 何やねん! いっつもいっつも耕太くんとの楽しい食事の時間を邪魔しおってからに!」


 こよみさんは部屋の中でスマホとタブレットが鳴り続ける中、頭を抱えて怒り狂う。

 だけど。


「……ですが、前回の怪人ゴライドウとの一件もありますので、こよみさんじゃないと被害が拡大するかも……」

「分かっとる……分かっとるよ、耕太くん……」


 こよみさんはフラフラと立ち上がり、おもむろにスマホを取ると、通話ボタンをタップした。


 さて、それじゃ僕は……。


「……桃原です……」

『高田だ。今度は中野駅前で怪人が出現した。桃原くんはすぐに現場に向かい、上代くんは……』

「僕も行きます」

「耕太くん!?」


 素早く料理を冷蔵庫に片づけた僕は、タブレットをカバンに入れて高田司令に応えた。


「ア、アカンよ! 怪人の近くにいたら、耕太くんにも被害が……!」

「大丈夫です。もちろん僕は離れた場所にいますし、それにモモと一緒にいますから」


 こよみさんは必至で止めようとするけど、僕は絶対に折れるつもりはない。


「こよみさん、それを言うならこよみさんだって危険じゃないですか。僕だって、いつも最前線で闘っているこよみさんのことが心配なんです。だから……だから、せめて僕はこよみさんの傍で見守っていたいんです」

「せやけど……」

「こよみさん、お願いします。僕を世界一大切なこよみさんの傍にいさせてください」


 そう言うと、こよみさんは顔をそらしてモジモジしだした。


「そんなん言うの、反則やわ……」

「それじゃ……」

「ぜ、絶対に遠くから見てること! 危なくなりそうになったらすぐに逃げること! これは絶対に守ってや!」

「は、はい!」

「ホンマにもう……耕太くんのアホ……大好き……」

『そろそろいいかな?』

「うわっ!?」

「はわ!?」


 そうだった。高田司令と通話中だった……。


『では二人とも、すぐに現場に向かい、怪人を撃退するんだ!』

「「はい!」」


 僕達はすぐに部屋を飛び出し、モモに跨ると中野駅前へと急行した。


 ◇


■こよみ視点


「聞いてたわよピンク。しかし、上代くんもなかなか頑固というかなんというか……」


 現場に着くなり、バイオレットが頭を左右に振った。


「しゃあないやん……ホンマはウチも、耕太くんには部屋で大人しゅうしてて欲しかったんやけど……」

「ふーん。その割には嬉しそうだけど?」

「はわ!?」

「って、マスク被ってるんだから分かる訳ないじゃない」

「ア、アンタ! ウチを騙したな!?」

「ハイハイ二人とも、じゃれ合うのはそれくらいにして、あの暴れてる怪人を倒すぞ!」


 ブルーがウチ達を窘めると、駅前で暴れ狂う怪人を指差した。


「ガウアアアアアアア! この怪人ワンクロージャー様が、この中野駅で破壊の限りを尽くしてやるガウ! そしてゴライドウの後釜として新しい四騎将の座に……ガフフ」


 うわあ、なんやあのヨダレを垂らした下品な犬の怪人は……。


「……品のカケラもあれへんな……」

「そうね……」


 ウチとバイオレットは怪人を見ながら、攻撃を仕掛けるのを躊躇していた。


「しゃーない、ここはバイオレットにオイシイとこ譲ったろ!」

「あらあら何言ってるの? もちろん先輩に譲るわ?」

「えへへ……」

「うふふ……」

「いや、行けよ!」


 ブルーは何を言うてんねん。

 あんなんと闘って、万が一ヨダレがついてしもて耕太くんに嫌われてしもたらどないすんねん。


「ハア……しょうがねえなあ……ブラック! イエロー! 行くぞ!」

「「おう!」」


 説得を諦めたブルーが他の二人に号令すると、二人は気合いの入った声で応えた。


 二人とも出番ないし、メッチャ入れ込んどる……。


「ま、まあ、ただの怪人だし、三人でも大丈夫なんじゃない?」

「そ、そやな!」


 ウチ達は三人に任せることにし、闘いを見守る。


「怪人ワンクロージャー! 貴様はこの勇者戦隊ヴレイファイブが倒す!」


 ブルーはお決まりの台詞を吐くけど、その態度は明らかにやる気が無さそうやった。

 まあ、そらブルーかてヨダレ嫌やわなあ。


 逆にブラックとイエローはポーズがキレッキレやった分余計に浮いとるな……。


「くらえ! ヴレイブーメラン!」

「ヴレイアックス!」

「ヴレイハンマー!」


 三人の武器がうなりを上げ、怪人ワンクロージャーへと迫る。


 その時。


「ガウアアアアアアアアアアアア……アレ?」


 雄たけびを上げて三人を待ち構えていた怪人ワンクロージャーが、マヌケな声を出して振り返ると……。


 怪人の首が胴体から離れ、そのまま転がり落ちた。


「な、何や!?」

「っ!? こ、これって……!」

「フン……その程度の腕で四騎将を名乗るだと?」


 怪人ワンクロージャーの胴体の後ろから、鉄の仮面を被った新たな怪人が現れる。


「……オマエは……」

「ピンク! ……気をつけて……!」


 さっきまでふざけていたバイオレットが、張り詰めた声で注意を促す。


 あの怪人、それほどの実力者なんか?


 ちゅうことは……。


「はじめましてヴレイピンク……私は四騎将の一人、“怪人イタチソード”だ」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る