二人の記念メニュー

「そうそうこよみさん、上手ですよ!」

「えへへ、そうやろか……」


 茹でたエビ、細切りのきゅうり、レタス、大葉を水で戻したライスペーパーに乗せ、手際よくクルクルと巻いていくこよみさんを褒めると、こよみさんは嬉しそうにはにかむ。


 告白から一夜明け、僕達は二人キッチンに並んで一緒に晩ご飯の準備をしていた。

 あの日、心に誓った料理を。


「じゃあ巻き終わった生春巻きは、キッチンペーパーで包んでおきましょう」

「うん!」


 さて、じゃあ僕は手早く鯛のカルパッチョを作ろう。


 鯛の刺身を薄くそぎ切りににして皿に並べ、その上から塩コショウ、パセリ、レモン汁をかけ、さらにオリーブオイルを回しかけると完成。


「はわああ……美味しそう……」


 見ると、いつの間にかキッチンペーパーを巻き終わったこよみさんが、ヒョコッと僕の様子を覗いていた。


「あはは、これは冷蔵庫に冷やしておきますね」

「はうう……」


 物欲しそうに見ていたので、僕はラップをして冷蔵庫に入れた。

 こよみさん、まだダメですよ?


 次に、しょうゆ、塩コショウ、しょうが、にんにく、ごま油で漬け込んだ鶏肉が入った袋に、片栗粉を入れ、袋の口を押さえて下からポンポン、と叩く。


「耕太くん、それ、何してるん?」

「ああ、こうやってすると、唐揚げの衣がまんべんなく付くんですよ」

「へえー」


 そして、中華鍋にサラダ油を深めに入れ、火をかけて熱する。

 箸を入れてみて……うん、もういいかな。


「さあ、じゃあ揚げていきますので、油跳ねに気をつけてくださいね」

「う、うん」


 僕は衣を付けた鶏肉を油の中に次々入れて、お玉で油を回しかける。

 しばらくすると、鶏肉が油の表面に浮いてきたので、キッチンペーパーを敷いた皿へと乗せる。


「耕太くん、これで完成?」

「いえ、これを五分くらい置いたら、二度揚げします。こうするとしっかり火が通りますし、鶏肉が柔らかくジューシーになるんです」

「はわあああ……耕太くんすごい! 魔法みたいや!」

「あはは、そうかもしれませんね」


 感動してくれるこよみさんを眺めながら、ちょっとだけ僕は誇らしい気分になる。

 やっぱり大好きな女性に、いいところ見せたいから。


 そして、五分経った唐揚げを再度油に投入して、今度は一分ほどで素早く揚げる。


 キッチンペーパーを敷いたお皿に盛ると……うん、カラッと揚がってる。


「な、なあ耕太くん、一口だけ……」

「うーん、そうですね。じゃあ一つを僕と半分こしましょうか」

「やったー! 耕太くん大好き!」

「僕も大好きですよ」

「うん……知ってるよ……」


 そう言ってモジモジするこよみさん、本当にカワイイなあ……。


 僕は唐揚げを包丁で半分に切ると、片方を手ずからこよみさんの口へと運ぶ。


「えっと……」

「はい、どうぞ」

「ん……はむ……」


 こよみさんはおずおずと唐揚げを口に入れると、パアア、と顔を綻ばせた。


「耕太くん! メッチャ美味しい!」

「ん……本当だ。上手くできましたね」


 うん、衣はサクサクに、中はジューシーに、理想の唐揚げだ。


 ――ピーッピーッ。


 お、ごはんが炊けたぞ。


 僕は大きめの角バットにごはんを移し、まんべんなく広げると、こよみさんにうちわを渡した。


「さあ、こよみさん、よろしくお願いします」

「よっしゃ! まかしとき!」


 米酢に多めの砂糖と少しの塩を混ぜ合わせて作ったすし酢をごはんに振りかけ、しゃもじで切るように混ぜていく。


 こよみさんは熱を取るため、一生懸命ごはんを扇いでくれていた。


 やっぱり二人でする料理は楽しいな。


「さあ、酢飯ができました。後は具を混ぜ合わせましょう」

「うん! ……その、ウチがやっても、ええかな……?」

「もちろんです!」


 僕はあらかじめ用意しておいた具材……炒め煮にしたにんじん、レンコン、しいたけを酢飯の中に入れると、こよみさんが一生懸命にかき混ぜる。

 そんなこよみさんの姿が、果てしなく尊い。


「耕太くん、これでええかな?」

「はい、キレイに混ぜ合わさってますね。じゃあ次に、刻んだのりを散らしてもらって、さらにその上からこの絹さやをお願いします」


 そう言うと、こよみさんは刻んだのりを散らした後、絹さやを慎重に乗せていく。

 もっと適当でもいいんだけど、こよみさんが可愛いからアリです。


「こ、こう?」

「そうそう、上手ですよ。で、次にこの錦糸卵を散りばめて……」


 同じくこよみさんに錦糸卵を散らしてもらい。


「さあ、あとはイクラをまぶして、蒸したエビをキレイに飾りつけてください」

「う、うん」


 さあ、こよみさんはどうやってエビを並べるのかな。

 なんて思いながら眺めていると、こよみさんは無難に真ん中に並べて置いた。


 うん。もちろんこれでオッケーです。


「さあ、これで……」

「うん! 完成や!」


 僕とこよみさんはハイタッチを交わす。


「それじゃ、テーブルに運びましょう」

「うん!」


 鶏の唐揚げ、鯛のカルパッチョ、生春巻きのサラダ、冷やしておいたフルーツの盛り合わせ、そしてちらし寿司をテーブルに所狭しと並べると。


「えへへ、耕太くんこれも!」


 ご機嫌な表情で、こよみさんは缶ビール二本を持ってきた。


 そして、僕達はいつものように向かい合わせに座る。


「こよみさん……これからは、嬉しいことがあった時や記念日には、いつもこの料理を作りましょうね」

「うん、えへへ……なあ耕太くん」

「何ですか?」

「ウチと耕太くん、ホンマに付き合ってるんやもんね?」

「はい。だがら、僕は本当に幸せです」

「ウチも……だって、ウチなんかが……」

「こよみさん、誰が何と言おうと、こよみさんは世界一素敵な女性です。だから、度が過ぎた謙遜もどうかと思いますよ?」


 またこよみさんが自分を卑下するようなことを言おうとしたので、僕はそれを全力で否定する。


「あ、あはは、そやった。そんなん言うたらアカンよね。だって、耕太くんがウチのこと選んでくれたんやもん……」

「それも違いますよこよみさん。僕がこよみさんに選んでもらったんですから」

「「……………………ぷ」」

「「あははははは!」」


 僕達はお互い愛し合えるというこの幸せを享受しながら、大声で笑った。


「あはは、さあ、食べましょう!」

「うん! ほな、せーの!」

「「いただきます!」」

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