司令本部④

「はあ!? 何でこの俺が、こんな奴のフォローを受けないといけないんですか! 俺は反対ですよ!」


 リーダーのヴレイレッドが、場の空気を壊すように横やりを入れた。


「なあみんな! そう思うだろ?」


 そして、僕とこよみさんを除く四人に同意を求める。

 だけど。


「もちろん、私は上代くんの加入に賛成よ。何といっても上代くん、優秀だしね」

「ちょ、ちょっと待ってくれバイオレット! ただの一般人の、しかもこんなパッとしない学生なんか、いるだけ邪魔だろう!?」


 まず最初に、先輩が僕の加入に賛同するが、その反応を意外だとばかりにレッドのバカが翻意する。

 だけど、そんなレッドの言葉を無視し、話は終わったとばかりに先輩は手をヒラヒラさせた。


「俺も耕太の加入に賛成だな」

「ブルー!?」


 今度は青乃さんが賛成の意を示す。


「だって聞いた話だと、この前の件は耕太が大活躍したんだろ? もちろんピンクが言うように危険も伴うだろうが、それこそ俺達ヴレイファイブが耕太をしっかり守ってやるんじゃねーの?」

「そういうことじゃないだろう! 俺達は選ばれた人間なんだぞ! 部外者の役立たずを身内にしてどうするんだ!」

「なんやて!」

「チッ!」


 レッドのクソバカの言葉に、堪忍袋の緒が切れたこよみさんが食って掛かり、先輩が思い切り舌打ちする。


 だけど、そんな二人を青乃さんが手で制止し、そして。


「まあまあ二人とも落ち着けって。司令、とにかく俺は耕太の加入に賛成っすよ。お前等もそれでいいよな?」


 青乃さんが残りの二人に声を掛けると、二人はお互いの顔を見合わせた後、首肯した。


「つーことだから、よろしくな耕太!」

「は、はい! よろしくお願いします!」


 青乃さんが片手を挙げたので、僕は少し照れながらハイタッチした。


「お、俺は認めん! 認めんぞ!」

「ハイハイ、分かったからお前ちょっと頭冷やしてこいよ……」


 いまだに憤慨するレッドに、青乃さんがシッシッ、と手で追い払う仕草をした。


「ああそうだ、上代くんはまだ大学生だから、基本的には学業を優先してもらい、必要に応じて作戦などに参加してもらうこととなる。松永くん」

「はい」


 すると、高田司令の秘書? の女性から、少し厚めのタブレットを手渡された。


「これは?」

「これは司令本部、ヴレイファイブとの通信や作戦立案、機器の操作等、後方支援に必要となる機能を有した、“ヴレイタブレット”です。詳しい操作説明などは、後程レクチャーします」

「は、はあ……」


 僕は手渡されたタブレットをまじまじと見つめる。


「これがあれば、わざわざここまで来る必要もないし、上代くんにはちょうどいいはずだよ」

「はい、ありがとうございます」

「それでは操作方法のレクチャーをします。どうぞこちらへ」

「あ、はい」


 僕は秘書さんの後について行き、別の会議室へと移動した。


 ◇


■こよみ視点


 ウチは耕太くんが秘書の松永さんと一緒に部屋を出るまで、耕太くんの背中を追い続けた。


 そして、そっと静かに部屋の扉が閉じられる。


「耕太くん……」


 今、ウチの心の中は耕太くんでどうしようもないくらい溢れていた。


『僕は、こよみさんを支えたい。こよみさんの隣に立ちたいんだ』


 この言葉を、心の中の耕太くんが何度も何度も唱え続ける。


 ウチ……こんなに幸せやと……生まれてきてよかったと思えたのは初めてや。


 そんな幸福感を少しでも留めておくために、ウチは自分の胸に手を当て、キュ、と握る。


「ハハ……本当に俺達は一体、ピンクの何を見てきたんだろうな……」


 そう言って、ブルーはウチを見ながら柔らかく微笑んだ。


「はあ……なによもう、当てつけのつもり?」


 今度はバイオレットが深い溜息を吐く。


 そんなん言うけど、ウチ……ウチ……幸せなんやもん……。


「……俺は絶対に認めんからな!」


 レッドのボケが一言吐き捨てると、そのまま部屋を出て行った。


「全く……しょうがねえ奴だな」

「ねえ、なんでレッドはあそこまで上代くんに冷たく当たるの?」

「はあ!? 本気で言ってるのか!?」


 バイオレットがキョトンとしながら尋ねると、ブルーが呆れた。


「アイツがお前に気があるからに決まってんだろ……あそこまであからさまなのに、分かんなかったのか?」

「え? そうなの?」

「そうだよ……」


 そんなバイオレットの様子に、ブルーがガックリとうなだれる。


「ふうん。ま、どうでもいいんだけど」

「いいのかよ!」


 そんなやりとりを眺めていると、ブルーの矛先が今度はウチに替わったようや。


「で? お前こそどうなんだよ?」

「ウチ?」

「そうだよ。耕太の奴も大概あからさまじゃねえか」

「あ、あからさまて……」


 思わず頬が熱くなり、ウチは両手で押さえる。


「だってさあ、いくら後方支援だからって、自分の身の危険を冒してまであんなこと言う奴、他にいねーだろ。だったら、それに応えてやるべきなんじゃねーの?」

「……せやかて、ウチじゃ耕太くんと釣り合わへんし……」

「はあ!? お前ソレ、本気で言ってんの!?」

「本気ってなんよ……」


 だって……そんなこと自分が一番よう分かってる。


 耕太くんはホンマにええ子で、ウチなんかのためにあそこまで言ってくれる。


 ウチかてブルーが言わんでも、自分が耕太くんのこと、もうどうしようもなく好きになってることくらい分かってる。


 せやけど……せやけど……。


「はあ……アイツ、大変だな……」


 そう呟くと、ブルーは頭をポリポリと掻いた。

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