第7話 渡辺席とゆっこの願望

休み時間。

 ボー然と、背筋を伸ばして座っている渡辺さん。

「お~い、ゆっこが来たよ~。」

 なおも、呆然とする渡辺さんに、

「だめだこりゃ。」

「シャキッとせんかい、シャキットー」

 委員長が、喝を入れる。

「してるよ~。でも、・・・あの席・・・風量が足りない・・・。」

「しょうがないなぁ、扇いであげるよ。」

「もっとこう、ナチュラルな感じが~。」

 と、長髪を搔き撫でる。それが、渡部くんの顔にかかる。

「生徒手帳条項!長い髪は基本的に放課後までまとめておくこと。」

「はいはい。」

「授業、大丈夫?もう、時間なっちゃうよ。」

「ちょっと、渡部!」

「向こうの方が、人気あるよ~。」

「もう、話だけなら私は3人くらいで十分よ。」

 実際に、渡部くんの席の方は人が多い。

「なんでレインボーなの?」

「きっかけは~?」

 思わず赤面した、渡辺さんであったが、やはり、取り乱した。あいつの口からは、私の名前を出してほしくない。黒歴史なのだ、渡辺席じゃない今でも。

「声がしたんだよ。レインボーやれって。」

「ふーん、不思議ちゃん?」

「さぁ。」

「そうだ、前のクラスのやついる、同じ組の。どんなやつだったんだよ。」

「いや、人に嫌われちゃったらいやだしなぁ。」

 渡部は、おちゃらけた。

「なんだ、学習機能済みか。」

「じゃあ、またな。」

「おっと、ベルが鳴る。」


授業開始とともに、抜き打ちの小テストをやるらしい。

「大丈夫、1年の総復習だ。難しいことはないぞ~。真面目に授業受けてればの話だけど、な。」

 プリントを後ろに回す、生徒たち。

渡辺さんが、いつもの「渡辺席」と勘違いして、うっかり、後ろに回し忘れた。

「すいません、1枚多いんですけど~。」

「え?渡辺、渡部の分は?」

「あ、すいません。」

 渡辺さんは、慌てて後ろに回そうとしたが、落としてしまった。

「ごめんなさ・・・。」

「チッ。」

 舌打ちされた。

「じゃあ、開始!」

 何よ、楽勝じゃないこんなの。1年網羅したって程じゃないわね。

        *

「試験終了~。後ろから、前に回して。」

 渡辺さん、「はい」と前の人に渡したが、また、渡部くんのことを忘れている。

「渡辺、今度は大丈夫か?」

「え?あ、はい。忘れてました。」

「いじめかよ。」

「すいません。あれ、生まれて初めて?、こんなことしたの。」

「いじめかよ。」

「いや、後ろが気にならない性格でして・・・。」

「いいから、渡しなさい。受け取ってあげてよ、もう。」

 と、なれない体を半身にすると、

「お願いします。」

「承りました。」

「できるじゃん。」

「ありがと。」

「ようし、じゃあ、授業終了だ。」

 授業が終わって、渡辺さんは考えた。

「渡部くん?席代わってくれないかな?」

「やだよ。」

「覚えにくいのよ。」

「いいから、いいから。」

「移動教室もあるじゃない。」

 委員長や、ゆっこが、渡辺さんを解放しようと口を挟む。

      *

「って、なんでこいつがいつも同じなの?」

「よし、委員長権限で、席を変えちゃうから。」

「角席の人はこだわり強いなぁ~。なにかあるの?」

「びみょ~にね。」

「なんかかなり得しそう。」

「得と思うなら、なってごらんなさいよ。今なら、教室空いてるから。」

「忘れものとか言って行きな。」

「先生~、忘れもの取りに行ってもいいですか~。」

「早く戻ってこいよ。実験もあるんだから。」

      *

「ここが、渡辺さんの席か~。・・・休み時間だけでいいや。」

 ゆっこには、使いこなせなかったみたい。

「そうか、一番後ろだと、テストがなくなっちゃうんだ。こりゃ大変だ。」

 いつも、5枚は持たされている、ゆっこ。背が低かったんだ。


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