第28話



 ミルファと別れると、以前見かけた家具屋へと向かう。


 そこは家具屋にしては少し小さ目な店舗だったが、所狭しと色々な家具が置かれているため気に入った物を見つけるのはすぐだった。


 蒼太は少し大きめのベッド、ソファ、椅子、大きなテーブル、作業用のデスク、本棚、食器棚などをそれぞれ数点ずつ購入する。


 店主は職人気質といった雰囲気で、値段を告げ支払いを受け取ると、蒼太が次々とバッグに家具を入れていくのを見ても何も言わなかった。



 大量に購入してくれたのと、一つ一つ吟味しながら選ぶ蒼太の姿勢を気に入った店主は愛想のない表情で蒼太に言った。


「要望があれば受注生産もしてるから、気軽にいってくれ」


 と普段の無口な彼を知っているものなら驚くような一言を言った。


「あぁ、ここの品物は物がいいみたいだから何かあったら頼む」



 何気なく言った蒼太の一言に、しかめっ面の店主は内心喜んでいたが表情は大きくは変わらず伝わらないまま彼は店を後にする。



 次に向かったのは宿屋だった。


 宿を出ることと、馬車とエドワルドの受け取りを行うためだった。



 家具選びに時間をかけたため、宿についた頃には夕方になっていた。


 宿へ入ると、いつも通りの笑顔でミリが迎えてくれる。


「あ、ソータさん。おかえりなさい!」


「あぁ、ただいま。ミルファーナはいるか?」


「お母さんですか? いると思いますよ、ちょっと呼んできますね」


 ミリは小走りでミルファーナを探しにいく。



 ミルファーナは受け付けの奥にいたらしく、すぐに手を引かれやってくる。


「あら、ソータさんお帰りなさい」


 二人がやってきたのを確認し、二人の顔を順番に見ると蒼太は口を開く。


「やっと家の購入の話がまとまった。今まで世話になったが、そっちに住むからここを引き払うことにしようと思ってな」


「そう……なんだぁ、うん、でもよかったね。いいお家なんでしょ?」


 ミルファーナは寂しい気持ちを押し殺して気丈にふるまうミリのことを微笑ましく思う。


「ミリ……ソータさん部屋のほうは了解しました。申し訳ないんですが、これからのチェックアウトでも本日分は頂いたままになるんですが……よろしいでしょうか?」



「あぁ、それは構わない。部屋のほうは前回と同じで荷物は全部出してあるから掃除してもらうだけでいいはずだ。あとは……エドワルドと馬車を引き取りたい」


「あ、わかりました。お母さん、私が行ってくるね」


「はい、お願いね。それじゃあソータさんありがとうございました、また何かあればいらして下さい」


 ミルファーナは深々とお辞儀をし、蒼太はそれに手を軽くあげて答える。


「食堂には寄らせてもらうようにするよ、シェフにもよろしく言っておいてくれ」



「ソータさん、早く行こうよ」


 ミリは馬車庫の鍵を既に取ってきており、蒼太の袖を引っ張りながら外へ出る。


「わかった、わかったから引っ張るな。じゃあ、世話になったな」


 態勢を崩しながらも挨拶をし、ミリと共に出ていく。



 裏手に回り馬房へ近づくと、ヒヒーンと一際大きな鳴き声が聞こえてくる。


 蒼太が来たとわかったエドが喜びの声をあげていた。


「おー、エド元気そうだな……まぁそんなに時間は経ってないから急に元気なくしてたらそれはそれであせるけどな」


 蒼太が馬房へと近寄り頭を撫でると、エドは鼻を鳴らしながら顔をすり寄せてくる。


「エド、家を買ったから今度はそっちで暮らせるぞ。お前の住む小屋も作らないとな」



「ソータさん、馬車庫の門を開けたので、馬車の確認もお願いします」


 エドを馬房から出し、一緒に馬車の下まで行く。


 馬車についていた、土やほこりなどは綺麗に掃除され、まるで買ったばかりのような輝きを放っている。


「これ、ミリが掃除してくれたのか?」


 エドも自分がひく馬車が綺麗になっていることに喜びの声をあげる。


「あ、はい。新しいみたいだし、少し掃除しとこうと思ったらついつい力が入っちゃって。えへへ」



 ミリにお礼をと、蒼太は鞄に手を入れる。


 最初に考えたのは単純にチップだった……が、親の知らない場所で金をもらったとなると良く思われないこともあるだろうし、なにより善意でやってくれたミリがいい思いをせず断るかもしれない。


 そう考え、昔旅をしている時に、移動中の手遊びとして作った鳥の形のブローチを取り出す。


「かなり綺麗にしてもらったようだから、お礼にこれをやろう」


「え? そんな、いいんですか? こんな素敵なもの……私、全然大したことしてないのに」


「いや、俺が昔作ったものだから気にしないでくれ。むしろちょっと不格好で礼になってないかもしれないがな」



 ミリは勢いよく横に首を振る。


「なってます! すんごくなってます!! とっても嬉しいです……えへへ」


 そう言って、胸元にそのブローチをつける。



「喜んでもらえたようならよかった。よし、エド位置についてくれ」


 エドは自分から移動する。



 装着を終えると蒼太は御者台へと乗り込む。


「ミリ、世話になったな。またその内、食堂に行くこともあると思うから、その時はよろしく」


「はい、お待ちしてますね! ありがとうございました!!」


 ブローチに手をあてながら、反対の手で大きく手を振る。



 家へと戻る道中、商店を見かけると停まり、野菜や果物、調味料を、また日が陰ってきたため閉めようとしている屋台で出来合の食べ物を買っていく。


 その他にもコップや皿などの食器や、エドが水を飲むための桶なども購入した。



 完全に日が落ちる頃に屋敷へとたどり着いた。


 庭の端のほうへ馬車の本体を置くと、エドが休むスペースを作る。



 山から帰る際にも使った簡易テントを出し、庭へ置く。


 風通しをよくするために捲っていたサイドの布をおろし夜風を防ぐようにする。


 敷き藁は持っていなかったので、キングボアの毛皮を地面に敷く。


「エド、明日には馬房を作るから今日はこれで過ごしてもらえるか?」


 十分だ、と鼻を鳴らし毛皮の上に体を横たえる。



 毛皮から少し離れたところに、桶を二つだし、一つには水魔法でだした飲用の水を、もう一つには買ってきた野菜と果物を置く。


「これが夕飯だ、俺は家の中の片づけをするから、何かあれば呼んでくれ。それと、用足しはそっちの端っこで頼むよ」


 再度エドは鼻を鳴らし、立ち上がると食事を始めた。



 それを確認すると、蒼太は鍵を開け家の中へと入っていく。


 蒼太は家具を置く前に、まずは掃除を始めるため魔力を集中させていく。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る