悪役令嬢サラサ見参 2/3

 ティアが何か言おうとしたのを察して、セスが咄嗟にそれを制した。口論などしてはこちらが悪者にされる。ラ・シエラの不利益になる可能性は十分にあった。

 ティアが抗議するようにセスを見つめるが、セスはただ首を横に振った。


 主を侮辱され、ティアの中には怒りと悔しさが渦巻いていることだろう。セスも同じ気持ちだ。自分が貶められるならいざ知らず、シルキィが蔑まれるのはまことに心苦しい。

 シルキィは俯き、ただ恥辱に耐えている。セス達が耐えずしてなんとするか。


「そんなことでは無事に帝都まで到着できるか心配でなりませんわ。昨今、ただでさえ治安が悪くなっているというのに。ああそういえば、ご存知かしら? この辺りで規模の大きな盗賊団が出没するというお話」


「盗賊団?」


 食いついたのはセスである。護衛任務を遂行する身として聞き捨てならない情報だった。


「ご存じないのですか? 世情にも疎いのですね。ほんの二、三日前にも商人や駐屯基地が襲撃されたらしく、私も恐々としているのです」


「こんな厳重な警備の中を? 信じられないな」


「おい貴様! 野蛮人の分際で、サラサ様に気安く口を聞くんじゃない!」


 取り巻きの一人、屈強な青年が声を張り上げた。彼の鎧にはクローデン家のシンボルである抽象化された薔薇の紋章が刻まれている。彼が傭兵ではなく、正規の兵士であることの証だった。


「よいのですよディーン。このような機会、卑しい身分では一生に一度あるかないか。彼も浮足立っているのです」


「おお。なんとお優しい。このディーン、サラサ様の寛大なお心にいたく感服いたします」


 まるで茶番だ。セスは心中で呆れていた。


「ご覧なさいミス・シエラ。あなたの貧弱な従者に比べて、私の護衛隊のいかに精強なことか」


 彼女の言う通り、従者達の肉体はよく鍛え上げられている。軽装ではあるが最新型の装備を身に着け、備えは万全だ。

 サラサは手に持った羽扇子でディーンを指し、誇らしげに顎を上げた。


「中でも隊を率いるこのディーンは、我がクローデンで三本の指に入る豪傑。故に、私は安心して帝都を目指すことができるのです。ミス・シエラ。私から一つ助言を申し上げるなら、このディーンのような優秀な戦士を護衛にすることをお勧めしますわ。そこにいる薄汚いアルゴノートではなくてね」


「ご忠告、痛み入ります」


 シルキィは悔しさをかみ殺し、小さな頭を下げる。

 ついに我慢の限界が訪れたのは、従者であるティアの方だった。


「恐れながら、ミス・クローデン」


 口を開いたのはいいものの、どう反論したものか定まっていなかったのだろう。


「この者は単身でコヴァルドを退治する実力の持ち主です。ですから、ご心配には及びません」


 クローデンを貶めても、ラ・シエラを擁護しても角が立つ。セスが槍玉にあげられていることもあってか、ティアはセスの称賛をもって反論とした。

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