エピローグ

1-55 エピローグⅠ

「帝都の復興は、そろそろ終わりそうだな」

「ええ。私の生徒にも、家が前よりも新しくなったと喜んでいる子がいました。不安に満ちていた子達の顔も、いつも通りの笑顔に戻りましたしね」

「そりゃよかった。うちもライトが無事退院して、他のメンバーも帰ってくる。悪い意味で、俺達にも日常が帰ってくるぞ」


 帝都襲撃事件から二週間後。

 復旧工事が順調に行われている帝都の大通りを、アークとアレンが並んで歩いている。

 彼らが眺める先には、破壊される以前の風景を取り戻しつつある街並みがあり、そこではいつも通り沢山の人々が賑やかに行き交っていた。


「テロの主犯格とされる運び屋と、ユグル教司教ベルダ・フランチェは死亡。テロの目的や背景は、未だ不明とされています」

「表向きはな」


 アレンの言う通り、今回のテロ事件の主犯格とされる二人は死亡した。


 犯行声明も、帝国政府への要求もなく、帝都を一通り破壊した後、その事件は突然幕を下ろした。

 当時は第二波があるものと予想され、帝国の全都市に厳戒態勢が敷かれたが、結局テロの再発は起きず、人々は自然と元通りの生活を取り戻していった。


 しかし、帝国政府上層部の中でも一握りの者は、今回の事件がユグル教会及び神域計画絡みであることに気付いている。


「創星記の破滅を回避するために、アリサを殺そうとした運び屋の考えは正しい。神域計画の産物である彼女がアリサを殺せば、数年は終末の未来を先延ばしに出来ただろう。だが、それだと根本的な解決には至らない。巫女の後釜を用意されて終わりだ」

「それを彼女に伝えることが出来たのでは?」

「する義理もないし、したところでどうなる。結局世界が破滅することに変わりはない。だが、その仕事っぷりは褒めてやる。あの女のおかげで、アリサを押さえている限りジンは俺に従わざるを得なくなった」


 アレンの指摘に無慈悲に返答すると、アークは懐から取り出した塩煎餅を齧り始める。


「創星の巫女と、神域計画の鍵。あの二人を使って、隊長は何を企んでいるんですか」

「企むとは人聞きが悪いな。だがまあ、このまま大昔の老害が遺した予言なんぞに世界が滅ぼされるっていうのも気に食わない。俺は俺なりのやり方で、破滅に抗ってやるさ」


 硬い塩煎餅を力任せに噛み砕き、歯跡がついたその菓子をアークは空に掲げて太陽に重ねた。


「さあ、精々踊ってくれよ。神殺しの出来損ない」


 ◆


 一方、竜撃隊基地。


「ライト、ふっかぁあああああああああああああああああああああああつ〜ッッ!!」


 扉を開けた途端にクラッカーと騒音の出迎えを受けて、ライトは目障りだと言わんばかりに不快感をあらわにする。


「え、反応なし〜? 照れてる〜? もしかして照れちゃってる〜?」

「うぜえ」


 ライトは苛つくその顔面をしばらく鷲掴みすると、悶え苦しむエミリアを放置して廊下の奥へ歩いていった。


 今日まで、ライトは帝都の病院で入院していた。

 当然だ。手術終了直後に跳ね起きてドンパチ戦闘を繰り広げたら、傷口も広がるし悪化もする。怪我を増やして病院に帰還したときは、担当医に死ぬほど怒られた。


 アリサのユグドラシルで治せればそれに越したことはなかったのだが、最近の度重なる神器の酷使でアリサの身体には相当負荷がかかっていたらしく、怪我は完治していたが長期安静を言いつけられたのだという。


 そのお陰でライトは実質二週間の休暇を得られたようなもので、悠々自適に入院生活を楽しむことが出来た。

 まあそれでも、彼が呑気に休暇を満喫していたかと訊かれれば、否と答えるしかないが。


「あ、アークへの報告〜? 今席外してるからいないと思うよ〜?」

「……そうか。なら少し出る。アークが帰って来たら復帰の申請書を渡しておいてくれ」


 何重にも折り畳んだ紙をエミリアに放り投げ、ライトは再び外に出て行こうと扉を開く。


「退院早々何処行くのさ〜。もしかして女か〜? それってどんな子〜?」


 小指を立ててエミリアが「ヒュ〜ヒュ〜」と茶化してくるが、ライトは相手にすることなく淡々と答える。


「ここ最近鈍っていたからな。少し鍛え直すだけだ」

「ほへ? 何でまた〜」


 鍛錬という、目の前の男からは縁遠い言葉にエミリアは疑問符を浮かべる。

 ライトは「決まってんだろうが」と前置きして、


「そもそも俺があのときヘマしなけりゃ、ジンとアリサがあの場にいることもなく、帝都襲撃事件も起きなかった。元を辿れば、俺の実力不足が招いたことだ」

「……へ〜。責任感じてるんだ〜」

「当たり前だ。結果的にジンに尻拭いをさせちまったんだ。もう二度とあんなことは起こさせねえ」


 そう強く言い切ったライトだったが、ふと何かを思い出したようにエミリアの方に振り返った。


「ところで、あのアホコンビは何処行った? 修繕作業に駆り出されたわけじゃねえだろ」


 ライトの疑問に、エミリアは「ムフフフ」とにやけるのを隠し切れない様子で答える。


「デートだよ。デート。お盛んなことだよね〜、まったく」

「……はぁ?」

「本当だよ〜? 世にも珍しい、お墓参りデートさ〜」

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