1-5 デスゲーム
「というわけで、これからテメエら二人には仲良く殺し合いをして貰う」
「何がというわけでだ。巫山戯るな」
「今回ばかりは右に同意。何でわざわざこんなことを……」
金茶色の頭の青年の突拍子もない台詞に、ジンとアリサは揃ってうんざりとした表情を浮かべていた。
あれから場所は変わり、四人は城塞の外に広がる砂漠のような馬鹿広い演習場の中央にやって来ていた。
演習場と言っても、人数の少ない竜撃隊に演習なんてものは存在しないので、その実竜撃隊の遊び場のようなものと化している。
一体どう遊べばあちこちにクレーターが出来上がるのか本当に謎だが、
「ルールは簡単だ。範囲はこの演習場全部。勝利条件は片方の降参もしくは戦闘不能。武器あり騙し合い歓迎の何でもありバリトゥードだ。何か質問はあるか」
「お腹が痛いので早退させて下さい」
「棄権は認めねえ。仲良く殺し合え」
「殺し合うと言ってる時点で、仲良くという概念は時空の彼方へ飛んで行くぞ」
「定められた概念を打ち破ってこそ、我々は更に一つ先のステージへと進めるのだよ」
「何かカッコイイこと言ってるけど、やってることはただのパワハラだからな?」
上司の気まぐれで殺し合いをさせられる職場は、きっとここを除いて世界中何処にも存在しない。
ジンが応答を切り上げられて渋々と食い下がると、今度は隣にいたアリサが挙手して、
「ライト」
「何だアリサ」
「ここでコイツを殺しても罪には問われない?」
「勿論。竜撃隊の名に懸けて全力で揉み消そう」
「おいちょっと待て今不穏な言葉が聞こえたぞ」
「……そこまで言うなら、乗ってあげる」
少しだけはにかんだ笑みを見せ、アリサは可愛らしく気合いの入ったポーズをする。
やろうとしていることは全く可愛くないが。
「さて、準備はいいかな、二人共」
「当然」
「いいわけあるか」
最早自分を除く全ての人間が乗り気になっているが、ジンは絶対に認めないと断固拒否の姿勢をとる。ノリで殺されるなんてたまったものではない。
「まあまあ落ち着け。これはテメエにとってもメリットがある」
警戒を解こうとしないジンに近付き、ライトがボソッと耳打ちする。
「はぁ? 何処にだ」
「いいか? 恐らくこの勝負がどんな結末を辿ろうが、きっとアリサのテメエへの好感度は変動しない。確かにこの勝負自体は大して意味を持たねえだろうな」
「なら――」
「ところで話が変わるんだが、こちらが勝利した際の賞金になります」
………………。
「それでは、今から新入りVS最古参の模擬戦を始める。準備はいいな、二人共」
「……当然」
「いつでもいいぞ!」
ライトの掛け声に、ジンとアリサは互いに劣らない闘気で応じる。
アリサのやる気も相当なものだが、ジンの気迫はそれ以上だ。その目には絶対に負けられないという強い信念を感じる。
「ライトー、あの新入りに何吹き込んだのさー」
「ちょっと金をチラつかせた。あいつにはそれが一番効く」
ジンは見るからに二分前とは別人のようにやる気に満ち満ちているが、その目はどちらかと言えば、元気になるお薬を打った人のものに近い。端的に言えば、とても危なっかしい。
「それじゃ、これから始めたいところだが、二人共何か言い残すことはあるか?」
ライトの冗談めかしたその問いに、ジンとアリサは同時に振り返って、
「「勝てる勝負の前に何を言い残す必要がある?」」
この二人、実はとても仲がいいのかも知れない。
この勝負の必要性が疑わしくなってくるが、それはそれ、これはこれ。
気合い十分の二人に応えるように、ライトも力強く声を張り上げ、
「始めッ!」
二人に負けない気合いを込めて、一気に腕を振り下ろした。
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