第15話 カラクル村奪還作戦

ラッタが戻ってきた事により、カラクル村奪還作戦は動き出す。

裕樹とハナは洞窟に集まった人々に見付からない様に身を隠す、そこに主力メンバーが集まって来た。

ラッタ、ビルド、セイナ、ブンの4人である。

そして作戦の最終打ち合わせをする。


・「ラッタ、この地図に敵の配置と捕まった3人が幽閉されている場所を教えてくれ」


ラッタは頷いて地図に場所を記していく。


・ビルド

「村長の村に3人を幽閉か、てっきり牢に入れると思っていたが。」


・セイナ

「驚いたね、村長の家なんて見えないはずだろう?良く解ったねラッタ」


ラッタは渾身のドヤ顔をする。

ブンは面白くなさそうにラッタを見る。


・「村長の家入口に2人の門番、牢屋に門番0人か、確かに不自然だな。

それに気付いて探ってくれたのか?」


ラッタは頷く。

優秀なんだな、、、


・ビルド

「で、どうする?」


・「そうだな、

人質が居る限り正面突破は危険だろう。

人質を盾にされる危険性が高い。

ここは陽動がベストだと思う。」


皆が俺を見る


・「良いか?まず、隠密行動で数人、若しくは一人が村に入る。

人質のいる村長の家の近くで待機だ。

その後、時間になったら正面から陽動を開始する。

敵勢力が正面に集中した時、隠密行動班が人質を救出して脱出。

その後は戦うか逃げるか、敵の出方次第だ。

恐らく戦う事となるだろう。

そうなったら部が悪い、だから先制攻撃で村にダメージを与える。

ブンの魔法で村に攻撃、主に村の東側を攻撃してくれ。

怯んだ隙に出来るだけ敵を倒しながら前進。

その後は正面と西側の敵を倒しつつ村を回りながら移動して迎撃していく。

一か所に留まらずに動きながらの迎撃となる。」


皆が真剣に聞いている。


・「今の作戦を考えると、

ビルド、ラッタ、セイナは正面から、

ブンは少し離れて遠距離魔法を撃ってくれ、撃った後はそのまま離脱してくれて構わない。

ビルドは皆を守りながら先頭で村を回る事。

セイナは眼の役割だ、状況に合わせて指揮してくれ。

ラッタは移動しながら敵を射抜いて一人でも減らして欲しい。

俺とハナは隠密班だ、部外者の俺達なら存在を知られていない筈。

だから必ずこちらは手薄になる。

人質救出後はビルド達の移動する方向で待機、そして合流する。

ここまでくれば戦力が整うだろう。

人質の状態によって退却か敵殲滅かを決定する。

ここまでで何か質問は?」


・ビルド

「それだけ事をこの少人数でやれるだろうか?」


・「敵の規模を考えると少数精鋭で行った方が良いだろう。

無駄に犠牲者を増やす必要も無いだろうしな。

他人を庇う暇などない。

ならば躊躇なく攻撃できる人間が数人で作戦を進めた方が成功率は高くなる。」


・セイナ

「ならば腕の立つ数人を連れて行くのはどうですか?」


・「そうだな、じゃあその人選はセイナに任せて良いか?」


・ビルド

「なら、私が選んできましょう。」


ビルドが立ち上がろうとする。

少し焦るセイナ。


・「いや、時間がない。ビルドにはまだ聞いて欲しい事があるから、すまないがセイナに任せるよ。ブンも一応付いていってくれ。」


ブンは頷いてセイナと出て行った。


・ビルド

「しかし、この短時間でこれほどの作戦を思いつくとは、感服しました。」


ビルドはいたく感心しているが、ラッタは浮かない顔だ。

成る程ね、こちらの状況が掴めてきたな。


・「ハナ、ビルドと地図を見ながらどの辺りで合流するかの話し合いを頼む。

ラッタは俺と来てくれ。」


・ハナ

「わかったわ、じゃあビルドさんお願いします」


2人は地図を見ながら話し合いを進めて行く。

俺はラッタを連れて外に出る。

そして屋根の上に移動し直ぐに小声で話す。


・「2人か、、、ラッタは気付いていたか?」


ラッタは頷く、やはり優秀だ。

詳しく聞きたいが、どこでどうやって聞いているか解らない以上、下手な事は言えないな。


・「ラッタ、君の腕を見せてくれ、ここからあの木に当てられるか?」


敢えて当たらないであろう場所を指さす。

ラッタは快く笑顔で頷いた

そして10本の矢が飛んでいく。

飛ばした場所は俺が指を差した場所よりもっと手前の木だった。


・「あの距離で全て外すのか、、、

なんだ夜は当たらないのか?

でも作戦決めちまったし、、、

もうやって貰うしかないな。

全く、全然使えねぇじゃねぇか、、、」


大きめの声で愚痴る

ラッタも沈んだ顔で申し訳なさそうにしている。

すると何かが動く気配がして、監視されていた違和感が消えた。

俺は小声でラッタに話しかけた。

少しラッタと話をして戻って来ると、既に出発の準備が出来ていた。


・セイナ

「この2人が協力してくれます。

ブラグさん、裕樹様に紹介して。」


・ブラグ

「私はブラグ、こちらの剣を持っているのが「コウ」と言います。」


2人は頭を下げる

軽い自己紹介の後で配置を決める。

ブラグはビルドと共に前衛に、コウはブンの護衛に付いてもらった。


・「準備は整った、確かここから村まで20分って所だったな。

俺とハナは準備後に先に出る。

5分で準備して出発しよう。

お前たちは俺が出た10分後にここを出発てくれ。

10分の差があれば村長の家くらい余裕で潜伏出来る。

前衛班は到着後すぐに行動だ。

ブンの魔法発動で作戦開始。」


全員が頷いた。

そして俺とハナは約5分ほど準備をしてアジトを後にした。

少しアジトから離れた所で立ち止まり、監視の確認をしてからハナを抱きかかえて猛ダッシュする。


・ハナ

「裕樹?急にどうしたの?

こっちに向かうと遠回りになっちゃうわ」


焦りながらも問いかけるハナ。

俺はハナに説明をして、村へと急ぐ。

20分の道のりを12分そこそこで走り抜けた。

そして村が一望できる小高い丘から見下ろす。


・「ハナ見てごらん」


・ハナ

「何だか村が慌ただしい?

こんな時間なのに人の動きが活発だわ。

あ、、村長の家から数人出てきた。」


・「恐らく人質3人と敵だな。

人質の居場所を移動させているようだ。

村の東側の牢屋に4人、西側の民家に4人。

恐らく西側に移動したのが村長だろう。

敵兵士は牢屋に2人、民家に3人か。」


・ハナ

「ここからよく見えるわね。

私は全然見えないわ。」


・「俺も見えている訳じゃないよ。

状況を整理するとそうなるって事だけさ。

後は人影の数を数えるだけで人数を把握した。

さて、人質の居場所は把握したし護衛の数も大丈夫だ。

時間もない事だしサクッと行こうか。」


ラッタの報告によれば敵戦力は67人

人質に合計で5人付いている、妥当な所だな。

直ぐに交代する事も無かろう、バレずに制圧するとしよう。


・「よし、まずは東側に移動する。

すまないが、もう一度抱えながら走るぞ?」


ハナは頷いた。

ハナを抱きかかえて走るのにはもう慣れた。

今ならライルに追いつけるかもな、、、

そう考えつつ丘を駆け降りる。


、、、一方で前衛班は


・ビルド

「よし、この辺りで良いか。

ブンとコウはここから攻撃してくれ。

俺達はもう少し進む、合図はしないから5分後になったら魔法を頼む。」


そして5分後、

ついに「カラクル村奪還作戦」が開始された。

ブンの炎魔法5連発が突如として村を襲う。

凄まじい爆音で敵兵士たちは外に飛び出す。


・ビルド

「村を還してもらおう!」


そう叫びつつ村に突入していく。

突然の攻撃に敵兵は陣形も組めずに一人一人ビルドに向かっていく。

、、、、筈だった。


・ビルド

「思ったより敵が少ないぞ。寝ていたのか?

仕方ない、このまま村を回りつつ、合流地点まで移動だ。」


ビルドは先頭を走る。

敵は数人が後ろから追いかけて来るだけで攻撃はしてこない。

屋根の上にも敵は居るみたいだが、ラッタの矢は敵を迎撃できていなかった。

敵には当たらず、近くの明かりに当たるだけだった。


・ビルド

「どうしたラッタ、いつもならもっと当てられるだろう?」


ラッタは首を振り、周りが暗いからと言うジェスチャーで答える。


・ビルド

「暗闇では当てにくいか、仕方ない。

しかし、奴らは何故攻撃してこないんだ?」


その疑問を拭えぬままビルドは合流地点に到着する。

合流地点に着くと建物の裏から人影が現れる。


・???

「ビルド君ご苦労様。

既に君は籠の中の鳥だ!」


周りを兵士で囲まれる、その数ざっと60人。

殆どの敵戦力がそこに集結していた。


・ビルド

「バカな、、、何故?」


・???

「解らんかね?

君は嵌められたんだよ、、、」


・ビルド

「なんだと?」


・???

「ご苦労だったな、セイナ、ブラグ

もうこっちに戻って来ていいぞ。」


セイナとブラグが向こう側に歩いていく。


・ビルド

「そんな、、、奥様、どうしたと言うのですか?

人質なら既に救出しているはずです。」


・???

「まだ解らないか?

人質の為じゃない、最初っからセイナはこちら側の人間だ。」


・ビルド

「何を言っている?

奥様がカイブ様を裏切るわけないだろう!」


怒号に似た叫びがこだまする。

しかし、ビルドの怒りをモノともせずに男は続ける。


・???

「もういいだろう。

マードックお前の役目は終わりだ。

既に宝物庫の開け方は解った。

こいつらを血祭りにあげてからゆっくりと「風きりの弓」を頂くとしよう」


セイナだった女性が真っ黒な姿に変わっていく。


・ビルド

「バカな、、、魔物だと?

いや、あれはセイナ様だったはずだ。」


驚きを隠せないビルドに対し「???」が発言する、信じられないくらい楽しそうだ。


・???

「冥土の土産に教えてやろう。

俺の名はガイスト。

六魔貴族が一人「マルバス」様の右腕だ」


・ビルド

「マルバス、、、六魔貴族だと?」


・ガイスト

「さて、お前には死んでもらう。

既に人質の2人は我が家来によって死んだだろう。

お前らがブンやコウと呼んでいた奴もマードックなんだよ、ほら解るか?

お前の後ろに居るアイツらがそうだ。」


・ビルド

「マードック、、、?

セイナ様に化けていた奴もそう呼んだな?」


・ガイスト

「マルバス様がお造りになった変化専用の魔物だ。

どうだ?スッキリしたか?」


ビルドは混乱している、気が付くと周りを囲っていた盗賊たちが全てマードックに変化している。最初から全て魔物の仕業だったのだ。


・ラッタ

「最後に聴こう、本物のセイナ様はどうした?」


・ガイスト

「心配するな、マードックの変化は感知不可能だ。

しかし条件がある、それは変化した対象が生存していると言う事だ。

意識はない状態だがな、そいつから全ての情報を吸い取っている、お前が気付かないのも無理はない。

気付かれずに、今や国の大貴族に変化している奴もいるんだ。

だから、安心して死んで行け!」


ガイストが手を挙げる、すると周りのマードックが飛び掛かる体制を取る。


・ビルド

「この数、、、ここまでか。」


・ラッタ

「諦めてはいけません、まだ私達には希望があります。」


・ビルド

「ラッタ、お前声が、、、

それに、希望、、、?」


・ラッタ

「敵が飛び込んできた時、私を信じて目をつぶってください」


・ガイスト

「かかれぇ~」


ガイストの一声で一斉にマードックが飛び掛かる

ビルドは死を覚悟した。

少しでも抵抗しようと思ったが、すぐにラッタがビルドにタックルをかまして倒す。


・ラッタ

「今です、目をつぶって下さい」


ラッタが酷く震えているのを、ビルドは直ぐに気付いた。

恐怖で震える中、何を信じているのか?

ビルドはそれに掛けて見る事にした。

そして、、、確実な死は2人に訪れようとし


『フラッシュ』


目を瞑っていても解る。

凄まじい閃光襲ってくる、、、

一瞬の光ののち、周りで断末魔が聞こえる

一つや二つではない、信じられないくらいの魔物の叫び声が、、、


・「大丈夫か?ビルド。

ラッタ、俺を信じてくれたこと感謝する。」


ビルドは眼を開ける。

そこには美しい剣を構える勇者が居た。

そして少し遅れてエイトとハンダの姿も、、


・ビルド

「裕樹、、殿?

それにハンダさんにエイトも、死んだんじゃなかったのか?」


・エイト

「そう簡単に死んでたまるか」


・ハンダ

「裕樹殿に助けられたんだ。」


・ビルド

「どう言う、、、事だ?」


ビルドが混乱する中、もっと混乱するものが居た。


・ガイスト

「どうなってる?なんで奴らが生きているんだ?

それにこいつらは村長の家に行くはずだろう?

あそこの罠をどうやって掻い潜ったと言うのだ?」


・「貴様が親玉か?

なかなか嫌な作戦立ててくれたな。

だがな、策士は策に溺れるって言葉があるの知らないか?」


・ガイスト

「くそ、おいカイブを連れてこい」


ガイストは村長を人質とするつもりだろう

残ったマードックに命令する。

しかし反応がない、、、


・「悪いな、ビルドを追い詰めている時に少しずつ消させてもらった。

そしてさっきの攻防で殆ど落とさせてもらった。

既に残ったのはお前を含めて残り7匹だ。」


・ガイスト

「ふん、何を言う。カイブには常に、、」


・「3匹のマードックを付けているって言いたいんだろう?悪いが貴様のスパイを逆に利用させて貰った。お前達のアドバンテージはもはや無い。」


ガイストが驚愕の顔を見せる

裕樹が手を挙げると建物の隅からハナとカイブが姿を現す。


・「村長なら既に救出してある。いくら3匹いようが居場所さえ解ればこんなもんだ。

さて、ガイストとか言ったな、、、

生きて帰れると思うなよ?」


ガイストが怒りで震えている。

残った6匹のマードックが集まって来た。


・ガイスト

「我をバカにした事、後悔させてやる」


ガイストの姿が徐々に大きくなり、魔力もドンドン膨れ上がっていく

それに伴い6匹だったマードックが合体して一つの魔物へと変貌を遂げる。


・「さてと、エイト、ハンダ、ビルド。

3人はマードックを頼む

俺とラッタはガイストを殺る

ハナは両チームの援護だ。」


裕樹の提案に異議を唱える者など居ない。

ここに完全なるパーティーが完成する。

倒すべき敵は強大な力を持つであろう魔族と魔物。

カラクル村奪還作戦は終局に向けて加速していく。

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