第100話本当にさようなら

本当にさようなら

本当にさようなら


沈黙は続く。

「彼に電話した? 心配してるんじゃない?」

「・・・・・・うん・・・・・・してない」

「心配してるよきっと、連絡してあげなよ」

話は続かず沈黙。コンコン 母親が飲み物を持て来た

「おじゃましてごめんなさいね、高谷君ってコーヒー好きだったわよね」

「はい」

「よかったわ、これどこに置こうかしら」

「うん、机の上に置いて」

「じゃあ。、ごゆっくり」

そう言って、コーヒーとクッキーを置いて出て行った。

「冷めないうちにどうぞ」

「いただきます」

「よかったらクッキーも食べて」

「うん、ありがとう」

無言でコーヒーを飲む、話すこともなくやる事もないからコーヒーはすぐになくなる。

「コーヒーお替りいる?」

「ああ、別にいいよ」

「でも持ってくる」そう言って純が部屋を出て行った。

はあ、柴田先輩はまだ立ち直れないと言っていた。

俺は今だにこんな事してどれくらいで立ち直れるのか・・・・・・考えていたら、純がコーヒーを持ってきた。

机のコーヒーカップを見る、その向こうにはさっきまで写真立てがあった、彼と純。

そう思って見てると、純が俺の目線を追って・・・・・・。

「かっちゃん、ごめんなさい」

「何が?」

「彼の事」

「別に、いいよ」

「いいって・・・・・・」

「だって、純はとても幸せそうだし」

「・・・・・・」

 しばらく沈黙が続いて

「かっちゃん、私のぼるさんと別れる、かっちゃんが好き、かっちゃんじゃないとダメなの、だからもう1度お願い、私と付き合って」

「それは無理、もう別れたんだ、終わったんだよ」

「かっちゃんは私の事好きじゃないの?」

「俺は今でも純の事が好きだよ」

「じゃあ、付き合おうよ」

「無理だよ、そりゃあ純と付き合いたい、でも、純にとって俺は一番じゃない事がわかったんだよ。純は俺と付き合っているのに、のぼるさんとデートして、そして俺じゃなくてのぼるさんを選んだ」

「違うの、かっちゃんがそう言ったから」

「そんな事言ってないよ、自分の気持ちを言いなよ、って言ったけど、付き合いなよ、なんて言ってない。

 本当に俺の事が好きだったら、付き合わないんじゃないの? 

付き合うっていうことはそういう事だよ。

それにさっきの写真を見る限り幸せそうだったよ? それなのにどうして俺の方が、

って思ったのかわからない」

「俺と別れた後、のぼるさんとつきあって、デートした時の写真を飾って・・・・・・、あのさ、じゃあ、付き合ってみて、俺じゃなくてのぼるさんが好きだと気づいたらどうなったの?そのままのぼるさんと付き合ったんじゃないの?」

「・・・・・・」うつむいたまま唇をかみしめるようにじーっと聞いている。

「そういう事だよ。

のぼるさんといるのが楽しいって言ったのは純だよ。

そして付き合った。

のぼるさんの事が好きだったらそのままのぼるさんと付き合った。

付き合ってみて、それが違ったから俺にもどってきた。

それだけなんだよ」

「もし俺とよりを戻しても、またきっと俺といるよりも一緒にいると楽しいって思う男性が現れると思う。

そしてそいつとデートして・・・・・・

もっと好きになる男性がでてくると思う。

少なくとも今回の件でわかった事は、それは俺ではなかった」

「・・・・・・違うよ・・・・・・」うつむいたまま小さな声で

「昨日より冷静になったようだから、俺が何を言おうとしているかわかるよね」

「・・・・・・」

「俺はこれで帰るけど、もう大丈夫だよね、ちゃんと大学に行けるよね 仕事できる?」

「・・・・・・」

「返事して?」

「うん」

「じゃあ、本当にこれでさようならだね」

「いやだ~、かっちゃん、そんなのイヤ~」

そう言って俺にしがみつく、

「純、だめだよ、俺の言ってる事わかったよね? 

何度も言うけど、俺にあの人と一緒だと楽しいって言ったよね、俺がいない時、あの人とたくさんデートして、あの人と付き合う事になって水族館デートもしたんでしょ、だったらこれ以上俺が一緒にいてもダメっていう事もわかるよね」

「違う~、離れたくない一緒がいい~」

「純、ちゃんとして、お願い、ね」そう言って純を引き離し純の顔を覗き込む。

純は涙を流しながらうつむいて、じーっとかたまっている。

「純、好きだよ、誰よりも、一生一緒にいたいと思った。でもね、それじゃあきっと純が幸せになるにはダメなんだよ、きっと後悔する、だからこれでお別れ、わかるでしょ」

「・・・・・・違う」

「じゃあ帰るね、純今までありがとう、幸せになるんだよ、さようなら」

そう言って純の部屋を出て、玄関で靴を履く、おばさんがリビングからでてきて

「高谷君、ありがとう」

「いえ、純さんは大丈夫だと思います。本当に今までありがとうございました」

「そう、これで最後なの?」

「はい」

「そう、あのね、純は何が一番大切で何を優先しなきゃいけないのか自分でもわかっていないと思うのよ・・・・・・」

すぐにこの場を去りたかったので、またさっきのように話を遮り

「そうですか、それはこれから自分で見つけて、自分で判断することだと思うんで、まあ今回の事でわかったのは、それは僕ではなかったということです。

こんどこそさようならです。もう2度とこないと思います。それじゃあ失礼します。」

「高谷くん、それじゃあ、またね」

またね?最後は何言ってるんだ?とは思ったが そんな事はもうどうでもよく、早くここから離れたい一心で玄関を出て急いでエンジンをかけ、帰った。

バイクに乗っている時は無心でいられたので大丈夫だったけど、家についたら、家族に挨拶もせず無言のまま自分の部屋に入ると涙があふれてどうしようもなかった。

本当に終わった。もう会う事はない。

とっくに晩御飯の時間は過ぎていたが、家族は誰も声をかけてこなかった。

母親も妹も俺を気にしていてくれ・・・そっとしておいてくれて、ありがとう。

悲しいけど家族のありがたみが・・・うれしかった。

 



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