第38話 オープンカフェ
「鈴木さんって、身長何センチですか? 弥生ちゃんと同じくらいかな。体重もあまり変わらないっぽい」
「あなたよりはあるわよ」
「私、まだまだ成長期なんで」
「そうだね。麗ちゃんはこれからだよ。鍵谷君も高三でグンッと成長したものね」
「はい、うちはスパートの遅い家系なんで」
確かに、麗の両親は二人共に身長が高い。まだ小柄で美少女然とした麗だが、いずれモデル並みのスレンダー美女に変貌をとげることだろう。
「鈴木さんと弥生ちゃん、後ろから見たらそっくりかも。なるほどって感じ」
「何がなるほどなのよ」
麗は一人で納得したようにうなずき、そんな麗に苛ついたように三咲は眉をしかめた。
「あの男が鈴木さんに勘違いさせるような態度をとった理由かな」
さらっと爆弾発言を投入した麗は、すました顔でタピオカミルクティの太いストローを吸い上げた。タピオカ美味しいとニッコリ笑顔を向ける麗は可愛いけど、三咲がテーブル挟んで鬼の形相になっているから。
「勘違いじゃないわよ! 賢人君は私だけは大切過ぎて手を出せないくらいなんだから。賢人君は私が取り巻きの子達に絡まれるから、だから別れるふりまで! 」
「あ、鈴木さんも絡まれたんですね。大丈夫でしたか? 鞄かくされたり、上履き……はないか、水やゴミが降ってきたり、教科書破かれたりしました? 呼び出されて地味に引っ掛かれたりつねられたり痛いですよね。階段から突き落とされそうになった時は、さすがに犯罪だと思いました」
三咲も似たような目に合ったのかと、弥生は心底同情して三咲の手を握った。
「いや、実害はないんだけど……呼び出されて嫌み言われたぐらいで」
「弥生ちゃん、そんな目に合ってたの?! 兄貴ってば何してたのよ!私が弥生ちゃんと同じ学校だったら、そんな奴ら徹底的に報復したのに! ってか、有栖川賢人許さまじ!!! 」
「いや、鍵谷君は一緒に鞄探してくれたり、ゴミだらけの靴箱とかロッカー一緒に片付けてくれたよ」
麗の激怒ぶりに、弥生はオロオロと尊の弁護をする。
「渡辺……さん? 何であなたが賢人君が原因で嫌がらせされるの? 」
「あー、えっと……」
弥生は視線を泳がせ、どう答えようかと明後日の方を向いて考える。
「弥生ちゃんは有栖川賢人の被害者なの! あいつんちと隣に生まれたばっかりに、いらない苦労を……」
いきなり暴露し始めた麗にストップをかけようとするが、三咲まで食いついてきて話は止まらない。
「隣? 高校の同級生じゃないの?」
「もっとずっと前からだよね」
「まぁ……お隣さんだからね」
「あの男、弥生ちゃんのこと好きな癖に初恋拗らせて、弥生ちゃん以外の女子はみんな一緒だとか性欲解消に他の女子にも手をだしたりするから、弥生ちゃんが逆恨みされて虐められるんだよ。ヤリ目ならそういう女見極めろっての!ただのヤリチン野郎が! 」
「ちょっと、麗ちゃん? 」
中学生の美少女の口から、弥生ですら口に出せないような単語が飛び出す。
「賢人君は渡辺さんが好きだったの? 」
「いや……その……」
「好きだったんじゃなくて、好きなの。現在進行形。弥生ちゃんが手に入らないから、弥生ちゃんに背格好が似たあなたに目をつけたの。鈴木さんは被害者だね、あの自分勝手男の」
「いや、私と鈴木さんは似てないですよ。全然。有栖川君が鈴木さんと付き合ったんなら、鈴木さん個人の魅力に惹かれたんだと思います」
「いや、似てるって。真面目な雰囲気もだけど、主に体型が。それにふらつくあの男はただのクソだけど。ほら、正面衝突したら衝撃半端なさそうじゃない? 」
「誰がクソだよ」
いきなり肩に手を置かれ、後ろから低い声が響き、弥生は身体を硬直させた。振り返らなくたってわかる。触れられている肩が熱くなる。
「おまえ、あっち」
「嫌よ。何で私が移動するのよ」
「いいからどけ」
麗はブーブー文句を言いながら三咲側に移動し、弥生の隣に賢人が座った。
「賢人君……」
三咲は信じられないというように目を見開き、賢人から視線をそらさない。一方賢人はチラリと三咲を見たものの、まるで興味もなさそうに視線をそらすと、身体ごと弥生の方へ向ける。
「とりあえず、身辺整理したぞ」
賢人の身辺整理其の一、身体の関係のあった肉食女子軍団との決別。
昨日のコンパでほぼ完売、中には三人の男子をお持ち帰りした強者もいたとか……。男の穴は男で埋め尽くしたらしく、ほとんどの女子から円満なお別れメールが届いたとのことだった。
「あ~……そ~……それは良かったですね」
真横には弥生のことしか見てないイケメン、真っ正面にはそのイケメンの自称彼女、その横で面白そうに事の次第を見守る美少女。
地味女、イケメン、地味女、美少女。なんのサンドイッチか……。
「だから、おまえはもう俺の彼女な」
「いや~……それはどうでしょうか」
三咲の視線が痛すぎる!
目から殺人ビームが出てる気がしますから。
慌てる弥生を面白そうに見ながら、賢人の手が弥生の手を握り込む。
久しぶりの賢人の手の感触を素直に嬉しいと感じてしまった。それが無性に恥ずかしくて、弥生はその手を振りほどくことなく全身真っ赤に染めうつむいてしまう。全てがいたたまれない。
そんな弥生を見て、賢人の目元が弛み、自然な柔らかい笑みが浮かんだ。
「へえ、あんたもそんな顔するんだ」
「知らん」
「……じゃない」
「は? 」
賢人といる時にいつも見ていたおっとり穏やかな表情は見る影もなく、顔面を震わせ目付きがまるで違う三咲が、ボソリと呟いた。聞き取れず、三人が三様の表情で三咲を見ると、三咲はテーブルをダンッと叩いて立ち上がった。
「その子でいいなら、私だっていいじゃない!! 」
あまりの勢いに、弥生は思わず「まぁ、そう思うよね」と、心の中で突っ込みをいれた。
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