第34話 自業自得……賢人サイド
【明日、四時、裏門にて待つ】
昨晩、賢人が一斉送信したメールだ。
とりあえず大学に入ってから関係のあった女プラス三咲に送った。
連絡先を知らない女もいるが、そういうのは大抵ワンナイト限りだし、つきまとわれることもないだろうから、放置でも問題ないだろう。
とりあえずは賢人の(肉食系)取り巻きと(勘違いさせてしまった)三咲をなんとかしないと……と、賢人は昨晩寝ずに奮闘した。
常に受け身でも回りに人が寄ってくる賢人にとって、自分からアプローチをするのは初めてだった。
賢人の回りに集まるのは肉食系女子だけじゃなく、賢人のおこぼれを狙うハイエナ系男子や、賢人を餌に合コンに女子を集めようとする撒き餌系男子など、男子の友達も多かった。賢人が女子には常にツンな態度であるのもポイントが高かったのかもしれない。
親友はいないが男女問わず友達が多いタイプ、それが俺様王子の有栖川賢人だ。その交遊関係をフル稼働させ、ある計画を練り上げたのだ。
「賢人、昨日ぶりー」
「賢人、今日は私とホテル行こ。順番待ち疲れたし」
賢人ハーレム女子達が集まってきて、勝手に喋ってはお互いの情報交換などをし始め、辺りは甲高いキャピキャピした声で騒がしくなる。彼女らは、何故だか仲が良い。賢人はみんなの物という共通認識のうえ、独り占めすることを良しとしない。
だから同じ気持ちで接する肉食女子にはフレンドリーだし、逆に三咲みたいに自分だけが彼女で、賢人が手を出さないのは自分だけが特別に大事にされてるからだと主張するような女子には攻撃的になる。
弥生が賢人と付き合うようになれば、真っ先に攻撃をしかけてくるのは彼女らだろうと賢人は思っている。
そして……。
香水ムンムン、フルメイクばっちりの肉食系女子達の後ろに、明らかに毛質の違う女子が躊躇いながら賢人を見つめていた。
昨日勝手に部屋を訪ねてしまい、賢人の機嫌を損ねたんじゃないかと心配していた三咲は、昨晩遅くに賢人からメールがきて喜んだ。昨日は触ってもくれなかったが、裏門なんて人気のないところに呼び出されるなんて、いつもみたいに後ろからギュッとしてくれるかもしれないと、ドキドキしながら裏門まで来たのだけれど、賢人だけでなく賢人の性欲を発散するだけの女の子達(三咲視点)まできていたから、賢人に近寄ることもできずにいた。
「実は、みんなに聞いて欲しいことがある」
全員が集まったところで、賢人がおもむろに口を開いた。
皆喋っていた口を閉じ、賢人に注目した。
「実は、来週金曜日にみんなには合コンに来てほしいんだ」
「合コン? うけるゥッ! うちらいつもしてるよ。何、賢人主催なん? えっ? サクラ的な? 」
「いや、マジで、ガチで彼氏見つけるやつ」
昨晩、男友達に連絡し、さらに友達の友達まで手を広げ、多種多様なタイプをキープした。多分、女一人に男五人くらいの割合になる筈だ。それぐらいいれば、賢人の代わりになる奴が一人くらいは見つかるんじゃないかとふんでいる。
男を忘れるには男!
弥生を諦める気も忘れる気もなかった賢人には当てはまらないが、一般的にはこれでなんとかなる……んじゃないかと思った訳だ。
「彼氏……見つけて欲しいんだ?うちらと縁を切りたい的な? 」
肉食系女子の一人に問われ、賢人は大きくうなずく。
「ふーん、つまりは……そういうこと? 」
賢人の目の前にいる女がちらりと後ろを振り返る。その視線の先には三咲がいて、三咲は口に手をもっていき、期待に目を潤ませていた。
「いや……、違う。三咲も来週大丈夫だよな? 」
「え、私? コンパなんて……、だって賢人君がいるのに……」
語尾が徐々に小さくなり、何でコンパ? と三咲は視線を揺らせる。
「ああ、なるほど。彼女もうちらと一緒だった訳か。賢人の一番はどこぞの誰かは教えてもらえるかな?」
三咲だけがよくわからないという表情だったが、他の賢人ハーレム女子達は何故か納得顔だ。
元から恋愛感情の薄い肉食系女子のみを選んでいたつもりだったけれど、彼女達は彼女達で思うところがあり賢人と関係していたらしい。
「それは無理。前に一回逃げられてるから。おまえらが虐めるとかは思わねぇけど、誰が何するかわかんねぇし。とりあえず囲い込むまでは誰にも内緒」
「ウワッ、囲い込むとか、ヤンデレ発言きたよ。賢人ってそういうキャラだったんだ」
「まぁね。初恋拗らせてるからな」
「しかも初恋とか! 行動不純極まりない癖に純情とかうける! 」
「ま、了解したよ。賢人レベルの男子揃えてくれたんだよね?」
「そんなん、いるわけないじゃん。ヤバイな、賢人の顔面見慣れてるからな。妥協できるかな? 」
「顔面よりもアソコでしょ」
「アハハ、間違いない」
賢人ハーレム女子達はいつしか下ネタに話題を振りきりながら、賢人にバイバイと手を振って校舎に戻って行った。
もっとしつこく食い下げられると思っていた賢人は、拍子抜け感は否めないものの、コンパ作戦成功かとホッとした。
実際は、どんな女子にも常にデレることのなかった賢人が、誰にも本気でなかったことは彼女達にはバレバレだったのだ。来る者拒まず去る者追わずの賢人が、初めて誰かの為に行動した。それだけでも賢人の本気が見れた気がして、敵いっこないと理解したのだ。
同率二位なら何人いても構わない。でも一番ができてしまったら、二位は辛い。
つまりは、それくらいには本気だったということだった。それを表に出さずに軽口を叩いて関係解消を了承してくれた彼女達は、実はすこぶるいい女ばかりだったのだが、賢人にはそんな彼女達に全く未練はなかった。
「賢人君……」
一人残った三咲が、賢人の側まできて袖をギュッと握った。
「私、コンパなんか行かないよ。行かなくていいよね? 私達付き合ってるんだよね? 」
「俺は三咲の彼氏じゃないし、彼氏にはなれない。……ごめんな」
「嘘! だって、可愛いって抱きしめてくれたし、いつも手繋いで歩いてくれたよね」
「俺が好きなのは三咲じゃないんだ」
三咲は目をギュッとつぶると、震える唇に無理やり笑みを浮かべ、ゆっくりと目を開けた。
泣かれるかと思ったが、三咲は笑っていた。
「嫌だな、私があの人達に嫌がらせされると思って、そんな演技してるんでしょ。私、そんなに弱くないよ。意地悪されたって言い返せるし、全然平気なのに」
「そうじゃ」
「別れたふりなんだよね。わかってるから。じゃ、午後授業始まっちゃうから行くね」
「待っ……」
三咲は賢人の言うことを全く聞かずに、賢人の腕に一度抱きついてから走って行ってしまった。
「おいおい……」
賢人、自業自得である。
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