第26話 大学生になって……賢人サイド
弥生と別れてから、賢人は意識をシフトした。
若いうちから付き合ってダメになるくらいなら、最終的に自分の腕の中にいればいい。無理して完璧に自分を全拒否されるより、今は手放してでも……と思ったから、弥生が別れると言った言葉にうなづいた。気持ちは全力で拒否っていたが、今の自分に弥生を完璧に守ってやれるだけの力がないのは事実だ。
だから、一時的に手離した。
けれど、弥生と付き合っていたという記憶、弥生と手を繋ぐ……いや、それ以上の権利を所有していたという事実、全てが指の間からこぼれ落ちてしまったという現実が、予想以上に賢人を打ちのめした。
全てに無気力になり、来る者拒まず、まとわりつく女子等はただの肉の塊としか思えなかった。生理現象として腰を振り果てるが、賢人から求めるものではなかった。
回りには賢人を求める女子が群がっていたが、賢人は誰と何をしても飢餓感にジワリジワリと蝕まれた。
弥生が足りない!
顔が違う、声が違う、胸が違う、ウエストが違う、尻が違う、手が違う、匂いが違う……。
半年が過ぎ、一年が過ぎ……、大学生になった。
賢人にできるのは弥生を見るだけで、その後ろ姿はコンマ一ミリの誤差もなく再現できるくらいには脳裏に焼きついていた。
だから、その奇跡を目にした時、賢人の脳ミソが誤作動を起こした。
地味な格好、身長も頭の大きさも首の長さも、後ろ姿がまんま弥生。振り返って見たダサい眼鏡まで同じで、でも髪の毛や顔は別人で……。
「あ……」
「こ……んにちは? 」
思わず腕を掴んだ賢人に、その女の子は目をまん丸にしながらも真っ赤な顔で挨拶してきた。
「名前……名前は? 」
「
「ああ、うん。俺のこと知ってる? 」
「有栖川君……有名人だから。どうしたんですか? 私、何かしちゃいました? 」
顔も声も違うけれど、丁寧に喋る様は弥生を彷彿とさせた。賢人が手を差し出すと、恐る恐る握手を返してくる。その手の感触は、弥生と同じだった。掌のふっくらした感じ、そのしっとりした感触、少し高い体温。
「えっと……」
「三咲って呼んでいい? 」
「……はい。あの……」
「飯、食いにいかない? 三咲と仲良くなりたいんだけど」
「えっと……はい」
賢人は、三咲の手を握ったまま教室を出た。
女子の手を自分から握ったのは、高一のあの時以来だった。
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