第12話:狩り→熊あぁぁーっ

「肉が欲しければ狩ればいい」


 ネフィティアのその一言で、俺たちは狩りをすることになった。


「エルフも狩りをするのか?」

「する」

「あのねぇ、ドワーフさんにあげるのぉ」

「違うわルナ。あげるんじゃなくって、物々交換よ」


 交換素材として狩った獲物を渡すのか。

 あれ?


「狩った動物の肉を、なんでエルフは自分たちで食べないんだ?」

「は? 何をいってるのよあんた。ボクたちエルフが料理出来る訳ないでしょ?」


 なんでドヤ顔でそんなこと言えるんだよ。

 え、もしかして俺がエルフに料理を教えなきゃならないのか?

 待って。俺、チャーハンぐらいしかまともに料理なんてしたことないんだぞ。

 ホットサンドも野菜炒めも、ホットサンドメーカーに挟んで焼くだけだからなんとかなってるけど。


 ちゃんと料理の出来る人呼んで来いよ!


「あんたの『無』スキルの練習も兼ねてるんだから、しっかり働きなさいよ」

「あ、そっか。スキルのちゃんと使いこなせなきゃな」


 効果が効果だけに、間違って人に当たったらシャレにならないもんな。

 しかも連続使用可能回数が少ないときている。

 休めばMPは回復するようだから、三発撃ったらしばらく休憩、それからまた使ってみての繰り返しか。


「いたっ」

「お、さっそく獲物か。何がいたんだ?」


 巨木の根に身を潜め、そぉっと頭を出す。

 

「熊よ」

「……いきなりハードルの高い獲物じゃないか?」

「いいからさっさと倒す」

「頑張ってねー、カケル」


 くっ。

 ま、まぁこの前の巨大蜥蜴に比べれば、大きさも半分以下だし?

 よ、よし。やってやろうじゃないか。


 熊はこちらにまだ気づいてないようで、木の実を食べていた。


 スキルの効果時間は十秒。

 それまでに投げなきゃならないが、先にどこを狙うか決めておこう。

 なるべく一発で仕留めたい。

 なら頭か心臓──あと首もしっかり当てれば倒せると思う。


 ここからなら頭は狙えそうだ。

 が、根っこが邪魔。

 よし、こうなったら──


 根の上に飛び乗ると、それと同時に熊に見つかる。


『ゴアアァァァッ』


 熊は襲ってくるよりも先に、後ろ脚で立ち上がって威嚇するように両手を上げた。


「"無"」


 振りかぶって──投げる!

 コントロールのほうはまぁまぁ自信があるけど、球速はそうでもなかった。

 けど黒い球体は物凄い速さで飛んで行って、一瞬で熊の命の炎を消してしまった。


 眉間に穴の開いた熊は、断末魔も上げずに後ろへと倒れる。


「わぁーっ。カケルすごーいっ」

「やるじゃな──ま、まぁこれぐらい出来ないとね」


 あっさり倒せた。

 改めて、このスキルの強さに驚く。


「あんた、獲物を解体できる?」

「え……い、いや。やったことないよ」

「そう。……ルナ、見張ってて。ボクはこいつに獲物の捌き方を教えるから」

「はぁーい。ルナ、見張ってまぁーす」


 ネフィティアに毛皮を綺麗に剥ぐやり方や、血抜きのやり方を教わる。

 グロ耐性はそんなにないんだけど、この世界で生きていくなら覚えなきゃいけないことだよな。


 剥ぎ方がヘタだの、肉が付いてるだのいろいろお叱りを受けつつ、ようやく解体作業が終わったのは昼時だった。






「お、おかえりなの、カケル」

「ただいまスーモ」


 スーモは相変わらずもじもじしている。

 ツリーハウスの入口の幹に隠れ、顔だけ出して出迎えてくれた。

 そのスーモのもじもじ度が今朝より増している。

 頬を赤く染め、何かを期待するようなキラッキラな瞳。随分とご機嫌なのか、壁になっている幹から体を揺らしているのが見える。


「わぁ。床が出来てるよぉ」

「は? ゆか……ウッドデッキが出来てる!?」


 ルナの歓声で気づいた。

 テントの下にウッドデッキが出来てるじゃないか!?


「え、どうなってるんだこれ?」

「す、少しね、テント、動かしたの。カ、カケル、ウッドデッキ欲しいって言ってたから、ツリーハウス、頑張ったの」

「マジか……ありがとうな、スーモ」

「ち、違うのっ。ツリーハウスなの」


 ツリーハウスが頑張った……木が?

 幹に触れると、ほんのり温もりを感じる。


「そっか。ありがとう、ツリーハウス。よっしゃ、さっそくご帰宅だ!」


 ウッドデッキ上がった所に、「ここに靴をどうぞ」と言わんばかりの木の棚があった。

 靴を脱いでそこに置き、テントへと入る。


「え? 机と椅子……これも作ってくれたのか!?」

「古い枝でね、作ったの」

「わぁ、サンキュー」

「いいなぁ、カケルぅ。ルナもここで暮らしたいぃ」


 おいおい、昨日は泊めたけど、毎日だとさすがに狭いぞ。

 そりゃあ最大十二人用だけど、それはぎゅーぎゅーになってただ寝るだけしか出来ない状態だからな。

 生活をすると考えると、テント一つでひとり部屋……。


「テントは全部で三つ。ルナとネフィティアの部屋を作ろうと思えば可能だ。けど……」

「わっ、わっ。ルナの分もあるの!?」

「え、ボクのもあるの? って、別に一緒に暮らしたいなんて、い、言ってないんだから」

「いや、言ってみたけど、さすがにテントを三つも張るのは無理だって」


 テントは意外と大きい。横3メートル、奥行き4メートル以上はある。

 ツリーハウス内部に二つ並べたら、もういっぱいいっぱいだ。


 それに、野菜の栽培のこともある。

 スーモ曰く、ツリーハウスの中と外側の周辺しか力は届かないと。


「ツ、ツリーハウス。頑張って伸びるっ」

「頑張ってって……」

「あ、あのねカケル。お願いあるの」

「お願い? 分かった。出来ることがあるならなんでも言ってみよ」


 スーモはもじもじしながら口を開く。


「お水が欲しいの。ツリーハウスの周りにね、ぐるっと水を撒いてあげて。

 あ、あとね、ご飯作るときに余った葉っぱや皮をね、ツリーハウスの内側のどこかに、穴を掘って埋めて欲しいの」

「水と肥料か。分かった」


 にぃーっと笑みを浮かべたスーモ。

 もう一つお願いがあるという。


「砂……砂が欲しいの」

「砂? どうするんだ、そんな物」

「ひ、秘密なの」


 砂か。

 ネフィティアを見ると、砂のある場所は分かると言う。

 じゃあ昼飯のあとに行くか。


「その前に──熊の毛皮や肉をどうにかしないとなぁ」


 クラスメイトのリュックの一つに、解体した熊の毛皮や肉を入れている。

 あのリュックは……本人と再会することがあっても、返せないなぁ。

 その時には土下座して謝ろう。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る