異世界転移「スキル無!」~無能だからと捨てられたが、授かったユニークスキルは「なし」ではなく触れたモノを「無」に帰す最強スキルだった~

夢・風魔

第1話:スキル無→捨てられました

「スキル……なし?」

「ス、スキルが無いですって!? も、もう一度鑑定しなおしてっ」


 ヒステリックな女の声。

 そして再び俺の右手は水晶玉に乗せられる。

 浮かび上がった文字は『ユニークスキル:無』というもの。


「本当にスキルが無いなんて……なんて無能な男かしら。いいわ、必要無いから捨てておしまいっ」


 金髪縦ロールの女は、そう言って俺を突き飛ばした。

 いったいなにがどうなっているのか、まだ頭で理解ができていない。


 今日は林間学校の日で、高原のキャンプ場に来ていたはず。

 バスからキャンプ用品を出し、担いで振り向いたらここだった。

 

 女曰く「ここはあなたたちにとっては異世界よ」らしい。


 俺以外のクラスメイトも一緒だったけど、今はもうスキル鑑定を終えて向こうにある飛行船に乗せられている。


「ちょ、ちょっと待ってくれ! どうせなら元の世界に戻せよ!」

「無理。召喚魔法は片道切符っていうのが常識よ?」


 知るかよそんな常識!

 

「だ、だったらせめて町まで乗せて行ってくれ!」

「お断りよ。お前のような無能者を乗せてやる船は持ち合わせてはいないの」


 そう言って金髪縦ロールが船に乗った。

 無理やりにでも乗り込んでやる!

 が、槍を持った奴らが待ち構えていて……飛行船は俺を置いて動き出した。


 おいおいおいおい、本当に置いて行きやがった……信じられない。


 待て。

 待て待て待て待て!


 落ち着こう。

 まずここはどこなのか、だ。


 巨大な円柱。その頂上がここだ。

 ストーンヘンジのような石柱が立っていて、これが召喚魔法に使われたんだろうなぁと予想できる。


 荷物も一緒に召喚されたんだな。

 キャンプ用品一式と、俺たちのリュックがあちこち転がっている。

 食料は、うん、まぁある。何日持つかは分からないけど。


 ふぅ、じゃあ次は状況把握だ。


 自称ブレアゾン王国ってところの王女様が、「勇者が必要なのよ」とか言って俺たちを召喚した、とか言っていたな。

 異世界に転移するとき、スキルを授かるものらしい。

 まぁそういう話というか物語は、よく目にするよ。まさか自分がそんな状況に置かれることになるとはな。


 そのスキル鑑定の結果、俺だけがなんのスキルも授かって無くって……。

 ここに置いていかれた。


 そぉっと下を覗く。

 うん、高さ100メートルとか、余裕でぶっちぎってるな。


 さて、どうするかな。

 元の世界には戻れないし、周辺を見ても町っぽいものは何も見えない。

 とりあえずここから下りなきゃな、何も始まらないな。

 んー、どうやってここから下りれば──あ。


「なんだ。ちゃんと階段があるんじゃないか」


 ただし手すりも何もないし、横幅も50センチぐらいだ。

 落ちたらシャレにならない高さだけど、でもここを下りるしか他に方法はない。

 

 後ろを振り返って荷物を見る。

 あれを背負ってここを下りるって……無理じゃね?

 けど食料は大事だし、出来ればテントも持って行きたい。

 ロープでもあれば、みんなのリュックとか使って下に下ろしていけるかも?


「探してみるか」


 ついでにチョコでも食べて落ち着こう。

 自分のリュックを開けてチョコをさが──


「うえぇ!? な、なんだこれっ」


 俺のリュックの中身が無い!

 中身がないどころか、七色の光が渦巻いてるし!?


「ひ、ひぃ。ほ、他のリュックは?」


 残されている他のクラスメイトのリュック──も、全部同じだった。

 チョコ……本当に入ってないのかな?


 キャンプ用品の入っているダンボールからトングを取り出し、リュックに突っ込んでみる。

 すると突然、目の前にゲーム画面のようなものが浮かんだ。

 

 半透明のディスプレイみたいな?

 これ……リュックに入れていた荷物の一覧表!?


『トレーナー上着』『トレーナーズボン』『パンツ×3』『シャツ×3』……『キトカット(袋)×1』。


 あった……あったよ俺のチョコ!

 え、じゃあまさか他のリュックも?


 同じようにトングを突っ込むと、やっぱり荷物一覧が表示された。

 お、初心者向けのキャンプガイド本なんてのもあるな。


 で、これどうやって取り出せばいいんだ?

 手を突っ込んで、荷物一覧が出て……キトカットが欲しいんだけどさ。

 突っ込んでいない方の手で、一覧にあるキトカットに触れる──と、突っ込んだ手に何かが触れた。


 こうやって取り出すのか?

 リュックから引き抜いた手には、確かにキトカットが。

 なるほど、これは便利だな。


「リュックごとに荷物をまとめるか。食料用リュック、着替え用リュック、雑貨用……」


 それにしてもこのリュック、どのくらいの量が入るんだ?

 リュックの中にまたリュックとかは──あ、入るんだな。


 じゃあ……この八人用のテントも……うん、入った。残り二つあるけど、それも同じリュックに突っ込んだ。

 どうやらリュックの口より大きくても、一部が入ればあとはしゅるっと吸い込まれるんだな。

 じゃあ他の荷物も全部入れてっと。


「結局、俺のリュックに全部入ったな」


 あとは安全に、この岩山を下りればいいだけか……。

 キトカットの袋を開けながら、円柱の外周をぐるりと回るようにして作られた階段を見下ろした。


「お、落ちなきゃいいんだよな」


 気持ちを落ち着けるために、チョコを口に放り込む。

 その甘味を堪能したあと、意を決してはじめの一歩を踏み出した。 


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