2絶対絶命?
暗闇の中、もしかしたら街が破壊しつくされ、写真で見た戦後の焼け野原のようになってしまっているのでは・・と心配していたが、予想はよい方に外れ・・街並みはいつもと変わらずにそのままあった。
「よかった」
思わず声が漏れた。街は攻撃を受けていないようだった。私はほっとしてシャノンに言った。
「街の人たちには被害がなさそう・・」
「そうだね・・となると、お城がピンポイントで攻撃されているということになるね。ますます、アーサー国王陛下やアルベルト皇太子殿下が危ない」
「どうしよう!急がなきゃ!」
シャノンの言葉に私の気持ちは城へと逸(はや)り、光の塊はどんどんとスピードを増していった。月のパワーに包まれ、非常に心地よい空間にいたのだが、私の脆弱な三半規管はそのスピードについていけず、異常を訴えはじめてしまった。
「う・・ちょっと酔いそう・・気分悪い・・」
こんな時でも来たか・・うらめしき車酔い・・ふぅ。
「こんな時に何言ってんのよ!しっかりしてよね」
シャノンに叱咤激励される。
そ、そうだ!私、制服のポケットには酔い止め薬のイチゴ味のチュアブルが入っているはず!私はポケットを探り、正露丸糖衣や鎮痛剤等の入った袋を取り出すと、チャックを開け、酔い止め薬を探した。
「ちょ、ちょっと・・何してんの!」
シャノンの叫び声が聞こえ、ふと前を見ると、危うく塔のようなものに激突する寸前のところだった。
「うわぁ・・」
何とか激突を避け、障害物がなさそうなところで、薬を発見!カシャカシャと容器から取り出し、急いで口の中に放り込んだ。この味・・いつまでたってもあんまり好きにはなれないが、それでも今までの私を、激しい車酔いから何度救ってくれたことか・・。
「シャノン!これで何とか大丈夫」
「リサ・・・じゃなかった、プリンセスかぐや、頼むよ」
「分かった」
私達が城内に到着した時、城壁の中は凶暴なドラゴンによって、無残にも破壊され、瓦礫の山と化していた。強力な結界も城に配備されていた迎撃もすべて魔王ルシファーのドラゴンには全く歯が立たなかったようだ。ドラゴンは時々思い出したように火を噴きながら、城の城壁で待機しているようだった。城の大部分が破壊され、無残な姿になっていた。ドラゴンの力がいかに強大だったのかが思いはかられる。城の中心部分はそのままきれいに残されていた。私たちは大急ぎで玉座の間に向かった。
玉座にはすでにフィブス公爵が悠然と座り、そばにはサバスチェンコ侯爵がいやらしそうな笑いを浮かべて立っていた。
「遅かった?・・」
「いや、まだ大丈夫だよ」
シャノンが言った。
「おやまあ、これは、これは・・珍しいものが入ってきたようだ」
サバスチェンコ侯爵はいかにも面倒くさそうに言った。
玉座の前ではすでにアーサー国王陛下、クリスティーナ女王陛下、アルベルト皇太子殿下が、フィブス公爵の部下によって拘束されていた。
「ああ・・殿下!国王陛下に女王陛下まで・・なんということ!」
思わず私は叫んでいた。が、シャノンは小声で言った。
「みんなまだ無事!!」
「おかしな小娘が・・何をしに来たのだ」
サバスチェンコ侯爵はいかにも邪魔くさそうに言った。
「あなた達のしていることは大間違いです。魔王ルシファーの力を借りてこの城を乗っ取ったとしてもあなた方はこの国を治めることなどできません。たとえ、一時的に王の座にたとしても、すぐに魔王ルシファーに支配されるだけです。あなた方は利用されているのです。お分かりにならないのですか?」
いかにも冷酷そうなフィブス公爵だったが、私の言葉に少し動揺したのか、声を荒げて言った。
「ええい!黙れ!お前などに何が分かるというのだ」
「私は占い師です。今、この国は闇に包まれている。あなた方が手を引けばもとの平和が戻ります。罪を犯したあなた方にも・・」
私の言葉を遮るように公爵は大きな声で言った。
「何をほざくか・・この国の豊かな自然の恵み、豊富な資源、勤勉な民・・すべては我々のものとなったのだ。その小娘もさっさと捕らえよ」
私は槍を持った兵に囲まれ身動きができなくなった。
それを見たフィブス公爵は冷酷な笑みを浮かべてから、高らかに言い放った。
「明朝、アーサー元国王陛下、クリスティーナ元女王陛下、アルベルト元皇太子殿下と占い師を、斬首刑に処する。そして、ついに私は名実ともに国王になるのだ。はははは・・」
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