4やるしかない
「では、テストを始めます」
「はい」
シャノンはテーブルの上に座って私の方を見ていた。
「じゃ、まず目を閉じて」
「はい」
私は言われるままに目を閉じた。
モフっとした感触を肩に感じたので、シャノンは私の肩に乗ったのだろう。そこに沈黙が訪れた。気持ちが落ち着いたのを見計らって、シャノンは言った。
「リサ、頭の中に月を思い浮かべて」
「どんな月でもいいの?満月とか?三日月とか?ねぇ、どんな・・」
「し~っ!しゃべらないで、集中して。自分の思い浮かべたものをだけを信じて」
私は言葉を飲み込み、頭の中に浮かんだ満月をじっと見るようにした。そうしているうちに、だんだん時間の感覚がなくなってきた。
「では、月のパワーを取り込むの・・」
「取り込む‥っていったいどうするの?」
「しゃべらないで。自分の思ったようにして取り込むの・・」
思ったようにって、何?
意味不明すぎ・・。
とはいえ、今はテスト中。集中、集中・・・。とにかく願おう!!心の中で。
『月のパワーよ!私の中に・・来て!お願い!』
最初は願っても、願っても、何の変化もなく・・。そのうち、何だか虚しい気持ちになり、私の心は折れそうになってきた。すると、シャノンが私の弱気な気持ちを察知したかのように
「あきらめちゃダメ!本当にテストに合格したいんなら、ここが勝負だよ」
叱咤激励の言葉を投げかけた。
『そうだよね・・あきらめちゃダメだよね・・集中、集中・・月のパワーよ、私に来て!』
そう願っているうちに、何となく体の中からエネルギーが湧いてくるような気がした。その瞬間、お腹からじんわりと熱の塊みたいなものがどんどん末端の手や足の方に伝わっていくような感じがした。と、ふいに私の身体が急に軽くなった気がした。シャノンはそこで静かに言った。
「そっと、ゆっくり目を開けて」
「・・・・」
無言でうなずき、私はゆっくりゆっくり目を開けた。
三半規管がどうにかなってしまったのか、重力がどうにかなったのか、私の身体がゆらゆらして、ちゃんと立っていられない・・どころか、浮いているんじゃない?しかも、私って、金色に光ってるような気が・・・。
「待って・・ちょ、ちょっと、シャノン~!!一体どうなってんの?」
「リサにはムーンストーンの力があるのよ。月のパワーで、あなたは浮いてる。初めてなのに、すごいわ~」
「でも、この状態って案外きついんですけど・・」
「確かに、慣れないよね」
「どこに力を入れたらいいか分からなくて・・」
「では、着地をしよう。安全な着地を願って!」
私は、もう一度目をつむり。必死でお願いした。
「お願い!!静かに着地して」
すると、足が段々と下がり、上半身は誰かに抱っこしてもらっているような形で着地し、そおまま私は重力の力で安定して立っていられるようになった。
「きゃ~!!なんかすごくない?魔法?だよね・・」
私は、初めての魔法に感動してしまった。手が震えていた。
「リサ、よくやったわ」
シャノンが珍しく褒めてくれた。けれど、その時はまだ、もう一つ現実味がなく、実感がわいてこなかった。
すると、シャノンが言った。
「じゃ、今度は私をテーブルの上まで運んで」
「え?どうすればいいの?」
「まずは、月のパワーをイメージするの。さっきと同じように願うのよ。あなたの頭に浮かんだ月をイメージしながら・・」
私はさっきと同じように目を閉じ、心に浮かんだ満月を見ながら、集中して心の中で願った。
『月のパワーよ、私の中に来て!』
すると、先ほどと同じく私の中に熱い塊ができたような気がした。目を開けると、私の手は黄金の月の光のように輝いていた。そのままシャノンをそっと抱くと、シャノンはゆっくりと黄金の光に包まれていた。
私はシャノンを抱いた手をそ~っとゆっくり緩めながら、念じた。
「お願い!シャノンをテーブルまで運んで」
光に包まれたシャノンは宙に浮かんだまま、ゆっくりとテーブルに移動した。シャノンが着地すると、黄金の光はすぅ~っとどこかに吸い込まれるようにして消えていった。その光景がこの世のものとは思えないほど美しくて、私はしばらく呆然としていた。
「リサ、完璧!」
「何だか私が私じゃないみたい・・」
「テストはひとまず合格ね。今後はリサの力を生かす方法を探しましょう」
「うん・・」
そう答えるのがやっとだった。
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