2 殿下の秘密
1.殿下からの手紙?
ドアがノックされた。レイラがドアを開けると、
艷やかな銀色の髪を短く刈り込んだ精悍な顔立ちの侍従らしき男性が、ドアの前で慇懃に頭を下げていた。
「リサ様、はじめまして。アルベルト皇太子殿下の侍従のウィリアムスです。殿下よりお手紙をお預かりして参りました」
レイラの方を見ると、『大丈夫です』というように少し微笑んでいる。
「分かりました」
私が応えると、ウイリアムスと名乗った侍従はゆっくり頭を上げた。緩やかに微笑んでいるその顔は思いがけず若い。歳は私と変わらないようだが、鍛えられた身体つきや落ち着いたしぐさははかなり大人っぽく見える。
ウイリアムスはドアのそばに立っていたレイラに手紙を手渡し、静かに一礼をした。
レイラはドアを閉めてから、手紙とペーパーナイフを私に手渡した。何が書いてあるのだろう。期待に胸が膨らむ!!婚約者への手紙ということは、ラ、ラブレター?さすが殿下。ロマンチックだなぁ。
リサ、愛しているよ・・とか?
うふ、うふ、うふふ・・
締まりのない笑い声が漏れる。
有頂天になった私に冷水を浴びせかけるように、頭の中ではもうひとりの冷静な私が語り始める。
わざわざ手紙なんて変だよ。もしかして、まさかの婚約解消とか?
え、え〜っ!!
あの優しいアルベルト皇太子殿下に限ってないよね。
ナイ、ナイ。
でも、だったらどうする?
ダメダメダメダメ。
今ここで婚約を解消されたら、金髪碧眼のイケメン彼氏と豪華なドレスやアクセサリーに囲まれたきらびやかな生活と美味しい食事もお菓子も食べ放題の天国みたいな生活をいっぺんに失ってしまうってことだよね。異世界に連れてこられてボロクズ同様に捨てられる?そんなぁ〜。それだけは勘弁してほしい。
「リサ、落ち着け。常にポジティブシンキングが大事!!そう、落ち着くの」
と声に出して自分に言い聞かせる。
ふうぅ〜。
深呼吸をして、胸いっぱいに酸素を送り込む。
それでも、不安と緊張で手が震える。封筒の切り口はそのせいでガタガタになってしまったが、何とか封を切り、便箋を出すことができた。震える手でゆっくりと便箋を開いた。今どき、手書きの手紙などあまりお目にかからないが、そこには、ペンで書かれたと思われる文字が並んでいた。滑らかで流れるような字体だが、見たこともない文字だった。ところが不思議なことに、私の脳内では、その文字がすべて私に分かるようにスルスルと意味のある言葉へと変換されていく。
『親愛なる私の婚約者リサへ
今日は有能なボディガードのウィリアムスと、レイラと3人で
城外を楽しんでおいで。
土産話を楽しみにしている。
君を愛してやまない婚約者、アルベルトより』
その短い文章を繰り返して読み、婚約解消ではないことにほっと胸をなでおろした。
「レイラ、どうしたらいい?」
尋ねながら、手紙をレイラに渡す。
「よろしいのですか?では失礼いたします」
レイラは手渡した手紙を読み、私の方を向いた。
「是非、参りましょう」
「わぁ。レイラは即決なんだね」
「殿下のご命令でございます。逆らうという選択肢はございません」
「だよね〜」
帰宅部所属の月石リサにとって、外出というのはできれば避けたい行動の1番である。まだ見たこともない異世界での外出など、本来はもってのほか。しかし、ここは覚悟を決めるしかないようだ。
「では、よろしくおねがいします」
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