6.ティータイムへ

リサ様、お部屋を出られるときは、必ず、このウイッグをつけて下さるようにお願いいたします」


とレイラは言い、ブロンドに輝く巻き毛のウイッグを器用に頭に乗せ、キラキラ光る宝石をこれでもかと花の形にちりばめた髪飾りをさした。


鏡を見ながら、お姫様になっていく自分にうっとりした。ブロンドヘアも悪くない。髪飾りはダイヤモンド?まさか?でも、ここがお城ってことは本物?だとしたら一体、いくらくらいするの?

それにしてもたかが、お茶に、なんと贅沢な装い!


「レイラ、ブロンドのウイッグもなかなか似合うからいいんだけど、いつもつけていなければいけないってこと?」


「左様でございます。」


「なんで~!めんどくさっ!!」


恐れ多くも、皇太子殿下の婚約者というような立場でいるということも忘れ、タメ口になってしまった私に、とても厳しい口調でレイラは言った。


「リサ様、ウイッグは必ずつけて下さいませ。もし、それができないということになれば、リサ様のお命の保証はできねます」


「ま、ま、ま、待って・・もしかして、レイラ、私を脅してる?」


「いいえ、滅相もございません。単に、事実を申し上げているだけございます」


「わ、分かった。つけます。必ずつけます。約束します」


ただの女子高校生だった月石リサ・・ついにお姫様になる!!!チャンチャン!


って、このままハッピーエンド!いうわけにはいかないんだね…。これからの生活に若干の不安が胸をよぎった。


「これから食堂に参ります。私の後ろをついてきてください。アルベルト皇太子殿下がお待ちのはずです。現状では、できれば、あまりしゃべらず、極力、微笑むだけがよろしいかと」

「なるほど。皇太子妃が、タメ口なんて超NGだよね。納得のアドバイスをありがとう、レイラ」


部屋から出たのはこれが初めてだった。

高すぎるヒールでつまずいて私が転ぶ未来を予測したのかどうか、レイラは、私にかかとが5センチの靴を履かせてくれた。歩きやすい!お城の中ではレイラだけが頼りだ。

それにしても、お城というところは無駄に天井が高くて、博物館のような無機質な感じがする。いかにも何かが出そうで、できたら夜は一人で歩きたくないな。あちこちきょろきょろと挙動不審な動きで歩いていると、レイラがたち止まった。

どうやら、目的の食堂に着いたらしい。

目の前には豪華に彫刻が施された長方形の大きな両開きドアがある。


ああ…急に緊張してきた。

あのイケメンとのご対面が迫る。

心臓が飛び出そうになってきた。ヤバい。


レイラがドアを開けると、長いテーブルの端っこに笑顔を浮かべたアルベルト皇太子殿下が待っていた。殿下の背後には大きな肖像画が3枚飾ってある。豊かな髭を蓄え、殿下と同じコバルトブルーの目をした精悍な男性はきっと王様だ。きっと、殿下のお父様ね。その隣の婦人は陶磁器のような滑らかな色白の肌に、豊かなブロンドの髪にもかかわらず、大きな黒い瞳が印象的。お母様なのだろう。3枚目は言わずもがな、超イケメンのアルベルト皇太子殿下だ。肖像画と本物のアルベルト皇太子殿下を交互に見比べ、どちらもカッコよすぎて、またもうっとりと目を奪われていた私に、レイラは言った。


「どうぞ、お席に」


レイラに促されて私は殿下の対面の席についた。テーブルの中央には豪華な盛花が置いてあり、私と殿下との空間を少し分けている。さわやかな笑顔は私の方を見ている。

照れる!

そんな風に見つめられると赤面してしまう・・


「美しい。先程の服も良かったが、ドレスも本当によく似合っている」


開口一番アルベルト皇太子殿下は言った。

先程の服、とは制服のことだろうか。こっちの世界では制服姿は珍しいのかもしれない。

それにしても、イケメンが、さらりと言う褒め言葉に対してはまるで耐性のない私...

赤くなった顔はさらに熱くなり、こんな時、どう応えればよいのか分からなくてパニック寸前。ただ、テーブルがとてつもなく長くて本当に助かった。そうそう、レイラはしゃべるなと言っていた。そうだ微笑めば…


「オ、ホホホ」


見事にひきつった笑いが。


アルベルト皇太子殿下はクスッと笑った。


ボォ~!顔は発火寸前だ。


そこに、ハーブのような香りのするお茶が運ばれてきた。これはレモングラスかな?胸がすくようなさわやかな香りだ。

異世界とはいえ、レイラの運んでくれたここの食事はとても口に合った。たちまち、私の頭の中は、これから始まるティータイムへのワクワク感でいっぱいになった。

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