異世界で皇太子妃になりましたが、何か?
きずな愛
1 異世界へ
1.それは朝のことでした
「ピピピ・ピピピ!・ピピピッ!」
目覚まし時計のアラームが鳴る。
私は布団から手を出し、アラームのボタンを押した。二度寝の態勢を整え、心地よく意識が遠のいていきそうになったその瞬間。
「リサ!起きてるの?遅れるわよ!!!」
耳をつんざく雷のような声に意識が呼び戻された••••
「ママ•••心臓が止まるかと思った。もうちょっと優しく起こせないの?」
「何言ってるの•••毎朝、毎朝、1分1秒が貴重な朝に、貴重な時間を割いて起こす方の身にもなって頂戴•••ブツブツブツブツ•••」
ママの文句が、起きたての脳みそを刺激しまくる。
「うひぇ~口答えした私が悪うございました」
そう悪態をついてみるが、朝は誰でもイライラするもの。こういう時は黙っているに限る。
階段を落ちないように、ゆっくりと降りてダイニングに入る。
お弁当のおかずであろう卵焼きの香りがする。
「くん、くん。これはネギ入り卵焼き。あんなことを言ってたけど流石ママ、分かってるね」
何事もなかったようにお弁当作りに大奮闘しているママの背中と食器棚の間を、スルリとかにさん歩きですり抜け、目当ての朝食専用の器を取り出し、また、ひらりと間をかいくぐってテーブルに着く。
器にシリアルをざらざらと入れる。
シリアルの正規の量は50グラムらしい。今まで測ったことはないが、今日はなんとなくはかりで測ってみる。
「やった!50グラムぴったり!!!今日はいいことありそう♪」
牛乳を注ぎ、スプーンで口に運ぶ。皿に入ったサラダという名のきゅうりのスライスとトマトのざく切りを時々口に入れる。最後にデザートのキウイを飲み込んで朝食終了。
パパが向かいでコーヒーを飲みながら、新聞を読んでいる。いつもの朝と同じ朝である。
だが、新聞記事などいつもなら全く関心がない。
全くないのであるが、今日に限って目が新聞のほうに向いた。
新聞の紙面には、異様ともいえる大きなカラー写真が掲載されていた。その写真の人物に私の目は吸い込まれるように、釘付けになった。
色白で彫りの深いギリシャ彫刻を思わせるような顔立ち、陶器のようななめらかな肌。その人物は、ゆるくカールされたツヤツヤの金髪の前髪に、細く長い指を絡ませ、軽くかき上げるような格好で私の方を見ている。
私は明らかに締まりのない表情になっているだろう。
何故かって?
「こんなイケメン彼氏、欲しい~」
思わず心の声が漏れた。
「はぁ~♡ す•て•き!ヤバい、すっごい好みのイケメンだ…」
ため息が止まらない。
ん?
しばらくして、気がついた•••
「え!!見ている!!!超イケメンが、私を見ている…」
「あんた何言ってんの!寝ぼけてないで早く、支度しなさい」
そうだ、そんなはずはない。これは超イケメンの「写真」だ。
ただの写真なのだから、写真が私を見るわけがない。
しかし透き通るようなコバルトブルーの瞳は、確かに私を優しい眼差しで見ている。
私を。
そして…
ーーー微笑んだぁぁあああ?!
「そ、そんな馬鹿な‼︎」
いやいやいや、うろたえるな私。ママの言う通り、寝ぼけているだけだ。そう、寝ぼけているだけ…。
何度もまばたきをして、そして、目をつぶる。
「さ、錯覚だよね」
「落ち着け私」
写真が私を見て微笑むなんてバカなことがあるはずない。
「さ、s、さぁん…に、にぃ…いい、いっちぃ…」
簡単なカウントダウンさえも舌を噛んでしまう。思い切って、そぉ~っと目を開けた。
「ぜろぉぉ」
その写真の…写真なはずの超イケメンは優しく微笑みながら(この時は、少なくとも私にはそう見えた••••)私の方に手を差し伸べて、言った。
「あなたの願いを叶えます」
その途端、ものすごい風が起こり、周囲の景色がぐるぐると回った。私の体は宙に浮き、誰かの手に引っ張られながら、嵐のような竜巻のような渦に巻き込まれ、私はその新聞の写真の中に吸い込まれてしまった。
「うぇ•••っぷ。」
回転し、上へ下へ、左に右にと身体は揺れる。キーンというような凄まじい音がして、耳がおかしくなりそうになる。気流のようなものにもみくちゃにされ、目も開けていられない。
私、生来車酔いが半端ない。そんな私が耐えられるはずもなく…
ダメだ、
三半規管がもう限界と言っている。
ぅううう~~
声にさえならない悲鳴をあげながら、私の意識は遠のいていったのだった。
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