第38話「激突?シャイニングVS幼馴染」



「シ、シンから離れて!! こ、この不良集団!! これ以上シンを不良になんかに絶対させないんだからっ!!」


「「「「「は?」」」」」


「え? さぁーちゃん?」


 冬も本番間近の十二月の上旬、もしかしたらこの街も雪が降るかもしれないと思っていたこの時期、商店街を六人全員で焼き芋を食いながら歩いていた時だった。いきなり俺の幼馴染がブロンドの髪を振り乱して目の前に現れて、こちらを睨みつけていた。なぜこうなったのか?話は今から二ヵ月前までさかのぼる。



 俺は中学では目立たずやっていた、そもそもボッチだったから目立ってない。でも夏休みが開けて約一ヵ月、少し事情が変わった。自分では目立っている気は無かったけど少しだけ暴れ過ぎたようで、空見澤の最強のケンカ集団『シャイニング』の新メンバーの中学生が俺じゃないかと疑われ始めた。


(そりゃ、顔も隠さず皆と一緒に戦ってりゃいずれバレるか……)


 今日も素早く給食を食べ終えるとすぐに教室を出て一人になれる場所に行く、中学では屋上なんて解放されてないから行くとこなんて校舎裏か体育館の影になってるとこしかない。なので校舎裏に行くことにする。


「あ……」


「あぁん? 一年坊主かよ今ヤニ休憩中だからさっさと失せろ」


 これまた校舎裏の定番な喫煙中の先輩三名がいらっしゃった。だからさっさと帰ろうとしたらヤニ休憩中の先輩の一人が俺の方を見るといきなり立ち上がった。


「お前、もしかして最近噂になってる一年じゃねえか? あの『シャイニング』の一員だとかホラふいてるガキってテメーだろ?」


「別に俺はそんな事言ってませんよ。勝手に噂されて迷惑なんですよ。それじゃ、

失礼しま~す」


「待てよ!! 噂を否定しね~のか? まさか本当に一員じゃねえだろうな!?」


 軽く肩をすくめる動作をして思いっきり煽って、そのまま元来た道を戻ろうとするとイチャモンを付けた先輩が回り込んで来た。あ~メンドクサイ事になりそうだなぁ……大人しくしとけば良かった。


 最近はこう言う輩に絡まれる事が多くて乱暴に切り抜けて来た事が多かったのでこう言う対応になってしまっていた。でもちょうどいい。攻撃してきたら反撃はしても良いってアニキに言われてるから新技を試すには良い機会だ。


「聞けよ!! 一年!!」


「はぁ、まだ用すか? しつこいなぁ……」


「舐めてんじゃねえぞ!! ガキィ!!」


 まずは愛莉姉さんに教えてもらった、後ろ両手取り入り身投げかな。ちょうど背後に回り込まれてたし好都合だった。あとは態勢を入れ替えて首根っこを掴んで倒すだけ。ほら簡単、ただ勢いはつけるけどね。


「ガハッ……ぐう……てめっ――「そらっ!!」


 そして倒れた敵には追撃が基本だから体重を乗せた拳を一発。苦悶の表情を浮かべて呻く上級生、やっぱり弱い。高校生や工事現場連中と比べるのも失礼だけど弱過ぎる。そう思っていたら敵意が近づいてくる、この時には俺は師範から「気配探知」を簡単に教えてもらっていたので背後から二人が近寄るのはすぐに分かった。


「覚悟出来てんだろうなぁ!? 一年!!」


「やってやらぁ!! ガキィ!!」


 気合だけは充分なようだけど、残念……遅すぎ。いきなり振り返って近寄ってきた相手の勢いをそのままに少し姿勢を低くして肘鉄を相手の鳩尾に決める。相手が勝手に突っ込んで来ただけなので本当に待ってただけだ。そして簡単に倒れる。今のくらいで倒れるとか、工事現場じゃ生きていけないなこの人。


「やっぱ実戦には少し使い辛いか。こんな遅い人ばかりじゃないからな」


 今の動きを冷静に分析しながら最後の一人の処理に入る。二人が先に倒されていたせいで動揺し隙だらけだったので、そのまま相手の背後に回り込み単純なケンカキックでケツを蹴り飛ばす。校舎の壁にそのまま顔面をぶつけて倒れた。まだ意識はあるみたいだけど戦意は喪失してるようだ。


「よっわ……じゃ失礼しま~す。せ・ん・ぱ・い。それとアニキや他のメンバーは

俺以上に強いんでケンカしようとか考えない方がいいですよ?」


 それだけ言うと今度は体育館裏に向かった。そこは幸いにも人が居なかったので静かに過ごせた。その後は放課後に地下室に行く前に少しだけ狭霧と話してすぐに別れる。向こうも部活が有るから当然だったし、俺もすぐに道場と地下室に行く流れが今の俺のスケジュールになっていた。





 商店街をアニキと二人で歩く、最近はなぜか竜さんが忙しくてレオさんもバイトが抜けられないから地下室に少し来れない日が続いている。必然サブローさんは出不精なので俺とアニキか愛莉姉さんが出るパターンが増える。今日は愛莉姉さんも道場に出てるので自動的に俺とアニキが出る事になったんだ。そして今、目の前には五人組の学ランが居る。


「北高の奴ら、じゃあ『黒蛇』かそれとも前に潰してやった奴らの生き残りか?」


「そうだ!! 俺らはお前に潰されたチームの寄せ集めで今は黒蛇所属だ!!」


「ずいぶん丁寧に自分らの紹介しますね……バカなのかな?」


「てんめぇ!! この間、俺らのアジトで暴れた中坊!! 覚悟しやがれ!!」


 あらら、俺にも恨みがあるみたいだけど覚えてないな……。そう言うとアニキは既に臨戦態勢だ。


「シン、お前は最近少し調子乗り過ぎだから俺は二人で、お前は三人やれよ?」


「えっ!! マジですか!?」


「あぁ!! 行くぜ!!」


 その後、結局はアニキが四人を倒して俺は一人、しかも二対一に持ち込まれて派手にボコボコにされてしまい、体中は痣だらけで顔も少し腫れてしまった。道場のせいに出来るとはいえ最近は少し親にも怪しまれているからマズイ。幸い応急処置は自分で出来るからそこは問題無い。家に帰ると母さんに呼び止められるけど「道場で少し」とだけ言うとそれ以上は何も言われなかった。

 明らかに納得してなさそうだったけど誰が正直に話すかよ。それにもっと強くなれば怪我も減るから問題無し。それだけ考えて取り合えず飯だなと下に降りると母さんが通話中だったからリビングで腕立てして待つ事にした。そして食事中もお説教が始まった。


「ああ、分かったよ。気ぃ付けるよ」


「怪我の事だけじゃないのよ。最近の信矢、あんた少し変よ。まさかまたイジメとか遭ってるんじゃないのよね?」


「んな訳ねえよ。心配いらないから……今の俺なら大丈夫だよ母さん。今日も稽古で何人か倒してやったんだからさ」


 それだけ言うとさっさと飯を食って部屋に戻る。筋トレとそれを終わらせるとPCを起動させる。検索『女子に送るプレゼント』とワードを入れて特集のページを開いて狭霧へのプレゼントを探す。もうすぐ狭霧の誕生日だから、それに今の俺には金が有るから選び放題だ。


「やっぱ分かんねえ……そもそも何を選べば良いんだろ? 去年は直接渡せなかったから今年は良いもん渡してあげたいからなぁ……」 


 金は自分に使ったらバレるけど狭霧に使って口止めしとけば基本バレないはずだ。それに小学生の時はリボンだとか図書カード、それに写真立てなんてショボいものしか渡せなかったから今回は奮発する気満々だ。ファイトマネーの額は余裕で六桁を越えている。明日レオさんに見繕ってもらう約束もしたから準備は万端だ。





 そして狭霧の誕生日当日、レオさんと愛莉姉さんには反対されたけど誕生石のペンダントを送る事を決めた。中学生でしかも恋人同士でも無いならやはり重過ぎると言う。何となく分かる……だけど強行した。


「キチンと形にしたいっす……そ、それに顔色見て嫌そうなら諦めますよ。それくらいは、まだ分かるはずなんで」


 それならとアニキは当たって砕けろ漢ならとか言い出し、たぶん行けるはずと無責任な事を言う。サブローさんは本当の幼馴染同士なら昔オモチャの指輪を送ったに違いないから今度は本当の指輪を送れとか訳の分からない事を言うから悩んでペンダントにした。


 ちなみに竜さんは『き、気持ちがこもってたら、喜ぶんじゃねえのか?』とか言う発言でレオさんとサブローさんに徹底的に弄られていた。


「そんな皆の意見を散々聞いて、悩んで、ここまで来たんだけど……まさか渡せなかったなんてな……」


 放課後に会おうと思って彼女の教室の近くを通った時に、狭霧は部活の仲間や友人たちに囲まれていた。なんでも放課後に誕生会をするとかが耳に入った。それを聞いた瞬間にボクは、いや俺は決めたんだ……これを渡すのは止めておこう、今日は会わないでおこうと、そう決めたんだ。


 幸い皆は俺が何も言わなかったからか、何も聞いて来ないでくれたので全力で稽古に臨んだ。その日はアニキが実家のラーメン屋に連れて行ってくれて二人で味噌ラーメンを食べた。少しだけ泣いた。



 あれから何度か学校で狭霧に話しかけられたけど、軽く挨拶だけして避けるようになった。やっぱり誕生日プレゼントを渡せなかったのが申し訳なくて、一日遅れでもいいから、もしくは母さん経由でも良いから渡せばよかったと後悔する。そして今日も放課後に声をかけられた。


「あ、シン。会えて良かった。今日さ部活休みなんだ……」


「そう……俺は今日少し用事あってな……」


 先月は二日に一回の頻度だったのに最近はよく声をかけられる。やっぱ優しいな、もしかしたら噂の事を気にしてくれたのかも知れない。だったら余計に巻き込む訳にはいかねえ。


「え? そう……なんだ。じゃ、じゃあ今度の日曜とか久しぶりにあそ――「竹之内さ~ん!! 少しい~い?」


「ワリぃな……急いでるんだ。じゃ、俺はこれで」


 明らかに無理やりこちらに割って入って来た狭霧の友人と思しき二人組が来たので俺はその場を離れた。背後で何か話しているが何となく察しはついた。この間の上級生の三人を「分からせた」事が少し誇張されて噂されているらしい。


 噂の内容では俺は上級生十人を圧倒した等と言うでまかせで、最近は教室に居ても奇異の視線をこっちに向ける奴も増えている。もしかしたら教師陣にも目を付けられているかもしれないから今後は少し慎重になろうと思った。



 11月にもなると急に冷え込み始めるこの季節、俺はいつもの工事現場の闘技場に皆で来ていた。ちなみに俺の試合はもう終わっていて傷一つ無く圧勝した。相手が高校生でしかも一年だったので体格差がそこまで無くて余裕だった。ちなみにリングの階級は「E」ランクまで上がっていた。今はレオさんが「B」ランクのリングで若干苦戦しながらも勝利して降りて来たところだ。


「今日の僕も『輝いてました?』リーダー?」


「ああ、『輝いてたぜ!!』レオ!!」


 そしてファイトマネーを受け取り皆で帰る。最近は工事現場も少し工事が進んで来たのか場所が少しだけ移動して来た。住宅街も増えてきたので人通りが増えたらしい。でもこんな夜の二十三時じゃ人なんて居ないけどね?





 それから二週間、更なる特訓&鍛錬と道場通いで「気配探知」をほぼマスターした俺にご褒美名目で六人で焼肉に行こうと言う話になった。実際はアニキとサブローさんが「肉食いて~」と言い出したからこうなった。


「それにしてもどうよ!! シン坊!! これ良いでしょ~?」


「はぁ……この間、俺とレオさんが一緒に行ったお店でアニキに買ってもらったんでしたっけ?」


 見ると高校生が買ったにしてはかなり頑張った感じの、お値段のペンダントとイヤリングを見せつけてくる愛莉姉さん。アニキが買ってあげたらしい。てかアニキは基本的に宴会費用くらいにしかお金は使わず堅実に貯金しているとか、やっぱりこのチーム堅実だな。


「お似合いですよ愛莉さん。しかし誕生石のペンダントとか誰かに影響されたんですか? リーダー?」


「うっせぇな。たまたまだ」


「アハハ……皆さんには何かすいません。色々相談に乗ってもらったのに……」


 俺がそう言うと愛莉姉さんが俺の頭をワシワシ撫でた後に軽く抱きしめてくれた。

あ、愛莉姉さんの胸が柔らかい……。少しだけ元気が出たかも。


「ま、次があるから焦るなっ!! シン坊!! クリスマスとかイヴとか誘ってあげなよ。女は皆待ってるもんよ!!」


 そう言うと愛莉姉さんは今度はアニキの方にクリパはどうする?とか聞いてるみたいで、どうやら今年は家族だけのパーティーじゃないみたいでワクワクしていた。

狭霧とは無理だと思っていたのでみんなで騒げるのは色々と都合が良かったからだ。





 そして更に数週間後に、今日の工事現場は誰が戦うのか?と言う話題が出て商店街の入り口で売っていた石焼イモが美味しそうだったので六人全員でそれを食いながら歩いていた時だった。いきなり狭霧が髪を振り乱して目の前に現れて、こちらを睨みつけて来たのだ。顔は真っ赤で凄い怒ってらっしゃる。


「さぁ~ちゃん? あの、落ち着いて……ね?」


「シン!! 待ってて!! 悪の道から私が助けるから!!」


 どうしようこの幼馴染……たぶん盛大に勘違いしてる。軽く頭を抱えながら真っ先にキレそうな竜さんや愛莉姉さんをどう抑えるかを必死に考えるのだった。

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